「人が輝く、ITの新しい活用方法」というテーマでの当連載記事ですが、「ビッグデータ」や「IoT」という流行のワードに合わせて人の輝かせ方についてこれまで書いて来ました。今までのテクノロジーでは集めることすら出来なかった大量のデータを今では集めることが出来るようになり、さらに分析して「人の輝き」に利用出来るという論点でした。さて本号では再度原点に戻って、人を輝かせるためにITで出来ることは他にないのか、今一度考えてみたいと思います。
当連載の最初の記事で、未来を見ることの難しさについて語りました。
スマホの普及の例など過去の事例から見ても、専門家ですら数年後の未来、テクノロジーを当てることは困難です。そんな中で未来を読める要素として人口分布の推移が挙げられることを話しました。
ここで再度、日本の人口分布を見てみましょう。
初号では、人口増減を時系列に観て未来を読んでみました。
今回は年代層別の分布で読み解いてみたいと思います。
言うまでもなく日本は少子高齢化の問題にさらされています。
「ピンチはチャンス」と言うならば、日本は少子高齢化対策の先進国になれば、世界をこれからリードしていける立場にもなり得ます。
地球規模の視点では人口増が止まりませんが、先進国から少子高齢化の波が押し寄せているからです。そのためにも日本は既得権益のビジネスモデルから脱して、新しい消費構造に対応していかねばなりません。この分布図から読み取れることは何があるでしょうか?
少子化が進み、労働人口が減っていくことは明確です。高齢化が進み、既に現時点で4人に1人以上が60歳以上という問題も浮き彫りになっています。「おむつ」は赤ちゃんのためのものという既成概念もとっくに崩れ、おじいちゃん、おばあちゃんのための市場となりました。
さて経済的に見て大事なことは2つあります。
労働力の確保と消費の確保です。つまり需要と供給の活性化を維持することです。カラダに血が流れているように、経済も常に循環させねばなりません。
まず消費層ですが、子育て盛り、働き盛りに当たる43歳~53歳がそれに当たると言われています。
ちょうど第一次ベビーブームの世代と第二次ベビーブームの世代の狭間がこの消費世代に当たり、現状の日本は苦しい状況ですが、もう時期第二次ベビーブームの世代が消費世代に上がって来るので、近視眼的には日本は活況を取り戻したように見えるでしょう。
政治的には数年後の政権を取ることが自分の成果として使えるのでとても大事な時期となります。
しかし、ここで1つ大きな課題が潜んでいます。
それは高齢化が進んで、第一次ベビーブームの世代で介護を必要とする人が急増するであろうということです。一番の問題は、高齢化が進んで働ける人が減ることよりも、働き盛りの人達が介護にも回らないといけなくなることなのです。稼ぎ頭が制約を受けるのです。優秀で真面目な日本人ほど責任感も強く、介護を疎かに出来ずに企業を去っていく現象が増えていくことになるでしょう。
筆者はこのことを5年くらい前から指摘して来ました。
そしてある意味他人事のように訴えて来ましたが、そんな筆者も昨年母が倒れ介護する運命に見舞われました。他人事ではないことを痛感しました。突然我が身としてやって来るのです。一部上場の会社の役員をしていましたが、きっぱりと辞めて、毎日病院に通い続けて、母の最期を看取りました。
これまでの日本の会社システムでは、どうしても「お金よりも大事なもの」を大事にすることが出来ない現状があります。
いい人材ほど働き方の柔軟性が必要となる時代が来ました。
介護の必要性が増して来ると、どうしても場所の制約と時間の制約を受ける人材が増えて来ます。そういった人達にも、伸び伸びと働いてもらえる環境の提供が、この少子高齢化の波の中で必要となって来ます。
介護だけではありません。
定年退職したけれど、まだまだ元気に働ける人。でも移動に不便している人。障害を持っていて移動や時間に制約はあるが、ある能力に長けていて働ける人。海外から働きに来ている人。または海外にいながら日本と仕事をする人。そして、子育ても終わり働きたいと思っている沢山の有能な女性という人材。
こういった方々の共通の悩みは、場所と時間の制約なのです。
日本は潜在労働力に富んでいます。
残念ながら男女差別が激しく残っており、男女均等の観点では大きく後進国となってしまっている悲しい面はありますが、逆に言えば生かせる潜在力を持っています。
女性が活躍する場を作れるかは、日本の発展のキーワードにもなるでしょう。
こんな状況を見て、ITとして何が出来るか?
それは、インターネット環境とコンピュータのデジタルの処理能力、記憶能力をフルに活用して、距離と時間を超えた環境を提供出来るところにあります。離れていても一緒に働いている気持ちになれる空間と共同作業の場をITが創り出すことが可能になって来ています。
数年前ですが、筆者もこんな体験をしました。
ある会議で、会議室に入るとそこには楕円を半分にしたテーブルが壁にくっ付いた部屋がありました。私たちはその楕円は片側に座ります。しばらくすると壁に映像が映って、そこにはもう半分の楕円のテーブルが現れます。映像を通して部屋が2倍になり、楕円のテーブルが出来上がります。相手側は中国の方々で部屋に入って来て、楕円テーブルに座り会議が始まります。
握手こそ出来ませんでしたが、何の違和感もなく会議を行うことが出来ました。プレゼンの資料も壁に映して何の問題もありません。これぞバーチャルオフィスと思った瞬間でした。わざわざ飛行機代と時間をかけて出張せずとも、かなりのクォリティの高さでコミュニケーションが取れる時代となっているのです。
この離れても働ける環境の提供が「テレワーク」と言われています。
「テレビジョン」とか「テレフォン」とか、元々「テレ」には「離れて」という意味があります。それを働く環境でも実現しようという発想です。人が輝くには欠かせないインフラがITでも活況になって来ています。
次号は、この「テレワーク」について、もう少し掘り下げて考えてみたいと思います。
井下田久幸いげたひさゆき
ドルフィア株式会社代表取締役
IT業界一筋で34年。SEからマーケティング、営業と幅広く経験。難しいITを分かりやすく、役に立つ情報として伝えることで、セミナー講演はいつも好評。デモを披露したり、世の中の動向とITの動向を絡めて話…
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