民主主義の優等生国家の米国でトランプ大統領が誕生しました。トランプ大統領の政策や言動には理解に苦しむことが少なからずあります。混迷を続ける米国を理解するためには、かなり掘り下げた考察が必要です。マスコミではあまり報道されない点も含めて、トランプ大統領誕生のカギとなる背景を考えてみます。
共和党と民主党の政権交代が続く
米国の大統領選挙は、実質的に共和党と民主党の二大政党の候補者で争われます。表1に近年の大統領選挙の結果を示します。米国では大統領は最長2期、8年間務めることができます。現職大統領は選挙に強く、再選されることが多いです。最近は2期就いた後に、振り子の原理で政権交代が行われるパターンが続いています。
伝統的な基本政策として、共和党は規制緩和で企業に自由な経済活動を行わせる政策をとります。対して民主党は企業活動を規制し、積極的に社会保障に取り組みます。その結果、たとえば、共和党の大統領の大企業優遇の政策により経済が上向きになりますが、社会保障等が後退します。8年後の選挙では、反動で低所得者や移民等の支持を受けた民主党の候補が大統領になるなどが繰り返されています。
白人と非白人の対立
マスコミなどではあまり報道されませんが、米国では白人と非白人との対立が存在します。現在、米国において白人の人口比率は約60%ですが、ある統計的な予測によりますと、2042年頃には50%を切ると予測されています。1776年に建国された米国の歴史から見ますと、2042年は直ぐそこの話です。
南アフリカはアパルトヘイトが実施され、白人による政治が行われた国家でした。しかし、民主主義が進められて有色人種(非白人)が政治の主導権を持ち、現在に至っております。もし、米国において白人の人口比率が50%を下回ると、選挙を経て非白人が政治の主導権を持つことになります。
米国では伝統的に、白人層は共和党支持が、非白人層は民主党の支持者が多いです。9年前の大統領選挙で民主党のオバマ大統領が誕生しました。オバマ大統領の政策である社会保障等の推進により、白人層の負担が増えました。そのことに対する白人層の不満の増大がトランプ大統領を誕生させた大きな要因の一つと考えられます。表2に昨年の米国大統領選挙の人種別の投票割合を示します。
テロとの戦いは自由への戦い
1980年代から米国の国内外でイスラム教徒によるテロが多発しています。次に近年のいくつか事件を示しました。
2000年10月5日 イエメンに寄港中の米駆逐艦「コール」に自爆テロ。米兵17人死亡
2001年9月11日 米国同時テロ。約3000名死亡
2003年8月5日 インドネシア・ジャカルタの米国系ホテルで爆弾テロ。11人死亡
2004年12月6日 サウジアラビア・ジッダで米総領事館、襲撃される。14名死亡
2013年4月15日 ボストンマラソンテロ。3名死亡
2016年6月12日 フロリダ州銃乱射事件。50人死亡
米国においてはテロとの戦いは自由への戦いです。9.11ニューヨーク同時多発テロの後、米国はアフガニスタンやイラクで軍事的作戦を実施しましたが、それを報復とか復讐とは言っておりません。それは自由への戦いであったのです。
米国など日本以外の国において最も大切な自由とは、他からの武力や威嚇によって、服従させられたり、行動を制限させられたりしないことです。
トランプ大統領は、特定のいくつかのイスラム国からの米国への入国を禁止する措置をとりました。これは明らかに憲法違反の行為ですので、裁判所によってその措置をとることを禁じられました。
それでもトランプ大統領を選んだ米国民
米国民の多くは、大統領選挙におけるトランプ候補の唱えるメキシコとの国境に壁を作ることには懐疑的でした。トランプ候補の人を蔑視した行動や発言は容認していませんでした。それでも、米国民が大統領にトランプ候補を選んだ理由は、白人の危機感、イスラム教徒によるテロへの対策を優先したものと考えられます。
この状況は今後の大統領選挙でも続くことでしょう。また、今後の米国政治、しいては日米の経済問題を考える重要な鍵になります。
進藤勇治しんどうゆうじ
産業評論家
経済・産業問題、エネルギー・環境問題、SDGs、コロナ問題をテーマとした講演実績多数! 経済・産業問題やエネルギー・環境・災害問題、SDGs、コロナ問題などについて最新の情報を提供しつつ、社会…
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