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2017年07月10日

これからの働き方「テレワーク」をITの観点で何が支援できるか

「人が輝く」という掴みどころのない抽象的なテーマに、ITのようなツールで何をしたらいいかを考えるのは難しいことですが、発想を変えれば、人がこれから困っていくだろうことを予測して、それをこういったツールで支援することが、輝くことへの近道と言えます。

当連載の初号と前号で、人口分布を見ながら、これから何が起こるかを予測しました。
テクノロジーの発展という側面で見てしまうと、変化のスピードが速過ぎて予測することが困難ですが、人口分布の変化は、震災や戦争が起きて激減することはあっても、ある程度予測しやすいからです。
そんな観点で見た場合、浮き彫りになって来る「人がこれから困る」だろうことというのは、時間と距離の制約を受ける働き盛りが増えるということが前号での結論でした。

ITは企業の中で合理化のツールとして活躍して来たので、まさに時間の制約解決には貢献出来そうです。
そしてインターネットの普及によって、離れていても瞬時に情報をやり取りすることも出来るようになり、距離の制約解決にも貢献してくれそうです。

ところが現状の働き方を見ていると、こういったツールの潜在能力よりも、既存の「働き方」から脱却出来ない人間側に問題がありそうです。

・会議のためにオフィスに戻らないといけない。
・大事な資料がオフィスにある。
・配布する資料をコピーするためにオフィスに戻らないといけない。
・上司に働いているところを見せておかないと評価に影響する。
・顔を合わせていないとチームから疎外された気がする。

などなど、いくらでも「働き方を変えられない理由」を挙げることが出来ます。

「テレビジョン」「テレフォン」のように「テレ」には「離れて」という意味がありますが、「テレワーク」は「離れても働ける環境の提供ということで、国も積極的に進めている施策の1つです。筆者も「テレワーク」を積極的に推進し始めて5~6年経ちますが、統計上の「テレワーク導入企業」は増えても、実態として働き方が柔軟になっていかないのは、上記に挙げたような人間側の都合によるところが大きいようです。道具は用意されても魂が入らないと普及しない例の1つになると思います。

近年では各個人がパソコンを持つようになり、さらに会社のパソコンだけでなく、家にもパソコン、そしてモバイルパソコンでどこへでも持ち運びすることが当たり前となりました。Windows3.1やOS/2といったパソコン用のOSが出てきた1990年の頃には誰もが予測出来なかった考えられない光景が当たり前になっています。近年では電車でもほとんどの方がスマホをいじってインターネットにアクセスしています。ツールとしても、オフィスソフトを当たり前に誰でも使うようになり、ファイル共有も当たり前になり、ブラウザを通して情報共有をし、メールやチャットでコミュニケーションも取れます。考えてみれば既に時間と距離の制約を解除する手段は揃っているようにも見えます。

1つここでショッキングなデータを見ましょう。(図1)

コミュニケーションにおける文字と音声の比率

いまの若者のコミュニケーション手段の実態を調査した統計データです。
音声によるコミュニケーションと文字データによるコミュニケーションの比率を調査したものです。電話主流の時代に生きた人間でさえも、最近は音声よりも文字によるコミュニケーションの方が増えて来ただろうぐらいの感覚は持っていると思います。

しかし結果は遥かに予想を超えるもので、音声1.6%に対して文字データ98.4%という結果になっています。
この調査はアメリカの大学生に対して行われたものですが、日本でもそう変わらない実態だと思われます。
こういった世代が社会人になり、既に中核な存在として活躍しています。

生き方が多様化し、文明の進化によって生きる術が複雑化し、1日24時間を余裕なく過ごすことを目指した文化になって来ました。実はコミュニケーションの媒体が変化したというよりは、コミュニケーションの絶対量が増えて来たという方が正しいような気がしています。昔は手紙で数日かけて一往復していたコミュニケーションも、いまでは地球の裏側ともリアルタイムで会話出来ます。電車では寝ているか読書しているのが当たり前の時代も終わり、今では電車の時間も惜しんでコミュニケーションをはかっている時代となりました。昔と今を比べてみると、コミュニケーションの絶対量に大きな変化があります。

そんな背景の中、忙しいけれどコミュニケーション量は減らしたくないという要望に応えたものが「非同期」によるコミュニケーションであり、これがメールだったりチャットだったり、SNSだったりするわけです。

上記に働き方を変えられずオフィスに戻ってしまう理由をいくつか挙げさせていただきましたが、冷静に考えるとテレワークの阻害になるものはあまりありません。

スカイプのようなツールを使えばリモートからも会議には参加出来るはずですし、資料はインターネットを通じて共有でき、どこでも資料作成は出来る時代です。今時は紙媒体に印刷しなくても、プロジェクターやスクリーンに資料を映し、PDFのようなデジタルのまま共有すれば済む話です。ペーパーレスの時代へと進んでいます。Face to Faceはとても大事ですが、毎日顔を合わせる必要はありません。

ただ、「人間が変わらなければ、ツールがあっても変われない」と片付けていてはいつまでも変革を起こすことが出来ません。筆者が強く思うのは、もうひと捻り、もうひと工夫することが大事なのだと思っています。デジタルなツールで、どこまでアナログな人間の感性に訴えていけるかがポイントになります。

例えば、チャットツールについて考えてみましょう。

「チャット」=「お喋り」という意味もあり「遊び」のイメージが強かったせいなのか、ビジネス利用でチャットが使われて来たのはつい最近のことです。最近と言っても、実はまだまだ多くの企業でチャットツールの利用をしているところは非常に少ないと言えるでしょう。遊び感覚でコミュニケーションがとれる、とても手軽で便利なツールです。若者はゲームの世界で既にチャットに慣れており、ビジネスコミュニケーションの手段としてチャットを使うことに抵抗感はありません。メールよりも即時性があり、非同期性も確保されていて、コミュニケーションの生産性向上には欠かせないツールとなりました。

近年では音声チャット、ビデオチャットも出来るようになり、コスト面から見ても電話ではなくチャットツールを使うシーンが増えて来ました。電話やメールと違って、見知らぬ人からのコンタクトもあまりなく、その意味でも無駄のないコミュニケーションの実現に寄与しています。逆に言えば、チャットツールをこのまま普及させていくためには、スパムコンタクトを入り込ませない配慮が引き続き必要とも言えます。

さて、この便利なチャットツールですが、テレワークという観点から考えてみた場合、足りない「感性」は何でしょうか?何があればもっと普及に拍車をかけることが出来るでしょうか。

図2は、よくあるチャットツールの画面です。

従来のチャットツールの画面
登録された「友達リスト」が一覧に出て来ており、その人達が「オンライン」なのか「離席中」なのか「取り込み中」なのかは知ることが出来ます。話す必要のある相手がいれば、名前のところをダブルクリックしてウィンドウを開いてコメントを入力すればいいわけです。とても便利です。

でも、これだとたとえ「オンライン」になっていたとしても、相手が本当に話しかけていい状態なのかはわかりづらい側面があって「一緒に働いている感覚」とは大きくかけ離れています。この「感覚」がアナログな人間にはとても重要な気がします。筆者がアメリカで見つけて来たあるチャットツールは、「プレゼンス」の機能を持ち込みました。(図3)

 

プレゼンス機能を備えたチャットツールの画面ネット上に仮想オフィスを作ったのです。原理的にはチャットツールと何ら変わらないのですが、相手が何をしているかがわかりやすくなっています。

従来のチャットツールでは、話しかけたい相手が「取り込み中」でないことを確認して、ダブルクリックしてコメントを入力します。リアルな返答はあまり期待しておりません。音声やビデオでチャットしたい時は、リクエストを出して承認が成立してから開始となります。

このプレゼンスのあるチャットツールだと、相手がオフィスの自席にいるかがすぐにわかり、
部屋に入ることですぐに話しかけることが出来ます。リアルなオフィスと同じく、「ねえ、ねえ、あれどうなったっけ?」と音声で話しかけることが出来ます。お昼になれば「広場」に行き、お喋りしながらランチを一緒に取ることも出来ます。会議があれば、会議室に入って画面を共有しながら会話することも出来ます。地域が離れていても、この一緒にいる感覚になれることが大事なのです。

機能的には大差ないチャットツールですが、このようにビジュアルな感性に訴えることで、人間の心に潜む「孤独感」を大きく和らげることが出来るのです。

言うまでもないことですが、人間はロボットではないので、感情の安定感が仕事の生産性向上にも大きく寄与して来ます。アナログな人間は融通が利かないので、逆にデジタルからアナログにもうひと工夫入れることで、「人を輝かせる」ことは、まだまだ沢山改善の余地があると感じております。

次号はテレワークについて、運用面からというまた違った観点から「ひと工夫」について語ってみたいと思います。

井下田久幸

井下田久幸

井下田久幸いげたひさゆき

ドルフィア株式会社代表取締役

IT業界一筋で34年。SEからマーケティング、営業と幅広く経験。難しいITを分かりやすく、役に立つ情報として伝えることで、セミナー講演はいつも好評。デモを披露したり、世の中の動向とITの動向を絡めて話…

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