女性向けに講演やキャリアカウンセリングを実施していると、度々出てくるキーワードに「専念」というものがあります。例えば、「今は子育てに専念する時期にしたいので」とか、「管理職になると仕事に専念しなくてはならないので」といった感じです。ワークライフバランスという観点から考えると、専念という言葉は、真逆のもののように感じますが、働く女性の皆さんから、いまだにこのような言葉が出てきます。
おそらく、一昔前の女性の生き方は、仕事か、結婚か、どちらかを選ぶという考え方が当たり前でした。実際、結婚したら仕事を辞めて専業主婦になるのは、半ば当たり前のような時代と認識されていました。ですから、仕事を続けたい人は独身という道を選択しました。両立している人は稀で、周囲のサポートや理解を前提に、本人がよほどキャリア志向でなければ、叶いませんでした。
一方、男性の働き方はというと、常に「仕事に専念」でした。
働き方改革では、この「専念」という概念を取っ払う必要があります。誰もが常に何かを両立するという考え方です。
企業研修では、人生を司る要素を総合して合計100%にした場合、どの要素にどの程度の時間を掛けていくかといったワークシートを実施してもらいます。それは、今現在だけでなく、10年先まで想定して記載してもらいます。
その項目の中には、「仕事」「育児」「勉強」「ボランティア」「介護」「近所づきあい」などがあります。それらも併せて、どう自分でバランスをとっていくか、時間配分を考えてもらうのです。もちろん、項目の中には、掛ける時間がゼロのものもあります。例えば、まだ親が元気な人は、当面、介護にかける時間は「ゼロ」になります。「ボランティア」も若いうちは「ゼロ」でも、年取った時に社会のコミュニティとつながるという理由から数パーセント配分する予定を立てる方もいます。
今は仕事に専念、介護や育児に専念ではなく、どう両立をしていくかが大事です。これからは、いわゆる人生100年時代。
人生(寿命)が長くなっている分だけの生活費と健康が必要なのです。
定年退職した後も、生活は続いていきます。退職したら1年くらいのんびりして、それから仕事でも何か探そうか。しかし、60歳まで組織に勤め上げた(専念した)方が大変ご苦労されご相談に来られる様子をたくさん見ています。もちろん、のんびりするのはよいことなのですが、組織にいる間に、何か準備したり、勉強したり、外とのつながりを持ったりしないと、いきなり職探しをすることは思った以上に厳しいものです。
子育てが一区切りついた女性も、全く同じです。「今まで自分自身のことを考えてこなかったから、これからどうしようか不安です。」といったご相談に乗ることがあります。子供や家族中心に母親業を専念してやってきたが、いざ、子供が大きくなって自分の時間ができた時、どうしたらいいのかと悩んでしまいます。それは、専業主婦の方だけかと思いきや、実は、組織でお仕事をされている方も同じ悩みを抱えているのです。
「子供が大きくなってから、仕事は頑張ろうと思っていました。幸い、自分のいる会社は、福利厚生も充実しているし、それに甘えて、今は仕事よりも子育てに専念と思ってやってきました。でも、いざ、子育てがひと段落ついて、周りを見渡すと、自分は周囲よりもだいぶ経験値が遅れていることに気が付きました・・・。子育て中はそれでもいいと思っていたのですが、手が離れた今、どうしたらいいか。」これは時間内に終わる仕事をこなしてきた、マミートラックの状態です。
何度も繰り返してしまいますが、私たちの寿命は延びています。未来に備えるためには、男女共に、何かに専念し、それのみに時間を費やすのではなく、計画的に様々なことを両立させながら、人生を設計することが必要な時代となっています。
膨大な残業時間は、「仕事に専念」とイコールになります。効率よく仕事をし、それ以外のための時間を作ること。これが未来の安心につながるのではないでしょうか。
藤井佐和子ふじいさわこ
キャリアアドバイザー
個人と企業からの依頼によるキャリアカウンセリングは、延べ17,000人以上の実績。学生からシニア層まで年齢や性別を問わず、自分らしいキャリアデザインをするための選択とアクションに向けたカウンセリングを…
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