感情は、人の行動に大きな影響を与えます。例えば、「やる気」がある時とない時では、行動が違ってきます。私たちの行動の理由を知るためには、感情状態を見ていくことも欠かせません。
先日、女性が多い職場の研修を実施した際、EQというアセスメントを使って、自己理解を深める内容を盛り込みました。EQの「E」はエモーショナルです。このEQアセスメントの結果から自身の感情の状態を知り、成果につながる課題を発見することを目的として行いました。その結果、”「感情的被影響性」と「共感的理解」が高い”という結果となった方は9割に上りました。
「感情的被影響性」は、人の感情にどれだけ左右されるか、「共感的理解」は、人の気持ちをどれだけ自分のことのように感じ想像できるか、といったものです。この結果が高ければ高いほど、”周囲の感情に影響を受けやすい、感情移入しやすい”といえます。
「感情的被影響性」と「共感的理解」が高いことによるメリットは、情報が集まりやすいこと。人は、誰かに何かを話すとき、共感してくれる相手を無意識に選んで相談している、といった傾向があるからです。この素養が高い人は、なんでそんなことを知っているの?と思えるような情報をたくさん持っていたりします。中にはネガティブな情報も含まれるかと思いますが、それも大事な情報源。このタイプの方は、より多くの人と信頼関係構築ができていると言えるでしょう。一方で、「感情的被影響性」と「共感的理解」が高いことにはデメリットもあります。それは、”相手の気持ちに引きずられやすく、冷静かつ客観的な判断に欠けること”です。
以前、ある男性からの相談で、こんな内容のものがありました。「うちの課の女性なんだけど、会議中、『ちょっといいですか?一つ相談があります』と深刻な顔で言ってきたんです。みんな、またかあ・・・、これは長くなるぞ、と覚悟を決めました。相談内容は、『○○さんがかわいそうじゃないですか!』といった内容。まるで自分のことのように真剣に訴えてきたのですが、あまりにも根拠がなく、感情だけで言ってくるのは毎度のこと。正直いつも困ってしまうんです…。」
こういった女性の傾向は、この企業に限ったことではないようです。別の企業で、女性事務職研修の研修前に「今回の研修に期待したいこと、解決したいこと」というアンケートを実施した時も、「隣の席の○○さんの仕事が大変そうでかわいそうです。何とかしてあげてください」といった内容のものを見たことがあります。また、私が企業で働いていた時も、隣の部署の女性が「藤井さんは仕事が大変そう、かわいそうなので、何とかしてあげてください」と私の代わりに上司に訴えてくれた女性もいました。私自身、外向きには「忙しくて大変」と言いつつも、実際にはそんなに大変とは思っておらず、自分の得意分野の仕事で楽しくて頑張っていただけだったのですが…。
比較的、男性はこういう相談を会議で上げたり、上司に当人の代わりに上に言ったり、といった行動はあまり見かけません。女性からこれらの相談を受けた男性は、どんな違和感を感じたのか、というと、
・本当にどうにかしたほうがよいのであれば、当の本人が自分から言うであろう。
・代わりに言うにしても、かわいそう、と言われても…。
もう少し、何がよくないのかを、
根拠をもとに具体的に言ってもらわないと判断できない。
といったことでした。
冒頭の、EQアセスメントの結果が「感情的被影響性」「共感的理解」が共通して高い企業では、まさにそのようなことが起こっていました。お互い、思いやりながら仕事を進めているので、女性同士の人間関係は円滑で、年齢にかかわらず、お互いが気持ちをフォローしあえる関係性にあることが特徴的でした。しかし一方で、「困ったわねえ」「それはひどいわ!」で終わってしまうのです。つまり、本当にその問題を解決するために必要な提案がうまくできていないという課題がありました。また、それが本当に問題なのかどうか、も怪しいところ…。
男性が「システム脳」である一方、女性の脳の構造は、「共感脳、感情脳」という特性を持っています。これは信頼関係構築のために役立つ、大事な社会的スキルですが、一方で、事実に基づき、論理的展開を行うことが苦手、とも言えます。
女性管理職を育成するに当たり、企業からよく「女性は管理職に必要な判断能力が身についていない人が多いので、判断能力の研修を実施してほしい」と言われることがありますが、この”判断能力”を高めるためには、共感脳、感情脳の扱い方が鍵なのではないでしょうか。周囲の感情にも共感しつつ、でも引きずられないで正しい判断をすること。そのために、女性は以下のようなステップを意識するとよいかもしれません。
まずは相手の話を聞き、信頼関係を構築、情報収集するための共感スキルを使う。
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共感できたら、今度は気持ちと頭を切り替えて、客観的に状況を見る。
その際、事実に基づいて、何が相手に起こっているのか、
図に書くなど、可視化してみると客観視しやすい。
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それをどうしたら解決するのか、まで対策を検討。
その際、相手の問題を解決するためではなく、
チーム全体の解決につながるかまで視野を広げる。
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感情のキーワードはなるべく使わずに、
事実に基づいた裏付けを入れて然るべき相手に相談、提案。
判断力を鈍らせないためにも、女性自身は意識して客観性を持つとよいかもしれません。
藤井佐和子ふじいさわこ
キャリアアドバイザー
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