今回は、キャリア自律のテーマに欠かせなくなっている「リスキリング」についてです。
学ぶ、という言葉でよく使われるのが、リスキリングとリカレントです。その違いですが、まず、リカレントは「生涯学習」と言い換えられるもので、自らが学んだものを自身のキャリアや人生に活かしていく、というものです。一方、リスキリングは、今の仕事における価値を高めるために、新しい知識を習得したり、学び直したりするものです。リスキリングは、所属している組織と繋がっているもので、いわゆる会社主導、学んだことをもって組織に価値を提供していくイメージです。例えば企業研修は、リスキリングになります。自社が社員に向けてリスキリングを実施しているかどうか、は簡単に言えば、企業研修やEラーニングを実施しているかの有無でわかります。
さて、企業研修や講演を実施していると、「なんで私が受けなくちゃいけないんですか?忙しいんです」と本人から不満のクレームや「私がスキル不足だったいうことですか!?」なんて驚くような質問が人事に入ったり、時に対象となる人の上司から「うちの部下に業務を抜けられたら困る」といった声が上がってきたりすることがあります。
学ぶことに対して抵抗感がある人が、一定数いるようです。
しかし、リスキリングの本来の目的を考えたら、学んだことを将来的に会社に貢献し続けてほしい、ということなのです。しかし、現場では「今」しか見えていないこともあります。そして何よりも当の本人が「今」しか視野に入っていないことも多いのです。
さて、なぜ日本では学ぶことに抵抗感のある人がいるのでしょうか。リンダグラットン氏の有名な著書「ライフシフト」によれば、日本の過去の歴史的体系にあるそうです。過去の日本は教育⇒働く⇒余生、という3ステップでした。教育は学生時代にやるべきことで、就職した後は働くことに集中、といった意識が強いようです。若手の人からすると残念にうつるかもしれませんが、そのような歴史的背景から、多くの50代60代の人は、社会人になってから学ぶ習慣がありません。実際、私は仕事上、また好きなこともあり、常に何かを学ぶ習慣があるのですが、周囲の50代の知人たちからは「偉いねー」という声があがってきます。頑張って勉強しているってなぜか恥ずかしいことに感じてしまう・・・。だから勉強が好き、なんて最近まで周りの人に言えずにいました。勉強して自分(だけ)上を目指すことに対する批判、同調圧力は、組織にもなんとなく文化として残っていることがあります。
さて、リスキリングがなぜ必要なのか、にお話を戻しますと、これは会社の経営課題だからです。会社が発展し続けるためにも、人的資源が大事で、この資源をどうやって磨いて、会社の将来的発展に活かしていくか。案外現場では、このようなリスキリングの意味をきちんと理解していない社員もいるのです。学びの場を提供する前に、なぜ学ぶ必要があるのかを伝えていただくことが大事ではないかと考えます。
先日、ある会社の企業研修時、受講生がもっと学びたいのに上司に業務時間外はダメ、残業して勉強するのは禁止と言われ、悩んでいる話をお伺いしました。その方はお子さんもいらっしゃり、でももっとスキル向上して貢献したいと思っている中、どうしても業務時間内では学びきれない、自宅に持って帰って学びたいことを上司に相談したところ、早朝に早く来て勉強の時間にあてなさい、と言われたそうです。本人としては、子供がいることで早朝はまず無理、仕事が終わって子供が寝てからの学びも難しく、土日のどこかの時間を活用したいそうなのですが・・・。
実はリスキリングは日本では業務時間内に実施するものとして捉えられています。というのは、仕事の一環であり、業務である、という考えだからです。そうなると、自主勉強や時短勤務の方にはなかなか厳しいものがあります。日本的な考え方に当てはめると、上司の考えは、残業や休日出勤でリスキリング以外の業務をすることは、時にやむを得ないと思われているもの、学びはどうかな・・・となっているのではないでしょうか。
今後、リスキリングを進めていくにあたり、仕事の効率化を図り、業務時間内で学ぶための時間を捻出したり、学ぶための時間的ルールを変更したりするなど、工夫が必要そうです。
藤井佐和子ふじいさわこ
キャリアアドバイザー
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