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2025年04月01日

「ビロンギング」とは?~進化するDE&I施策と日本企業への影響~

トランプ政権に代わり、人事に関する、特にDE&I(ダイバーシティ、公平性、包括性)に対するアプローチが変化しているようです。政府主導のDE&I施策が一時的に後退したことが注目されており、一部の大統領令を通じて、連邦政府機関やその契約者に対する「多様性トレーニング」の実施を制限しています。日本へのHRの影響として、特にアメリカ資本の企業が受けていると感じます。

クライアントからは、たとえアメリカ資本の外資であっても、日本は引き続きDE&Iを重要視し、特にジェンダー平等や多様性の推進に取り組み続けなくてはならないという声が多くあがっています。また、この政策変更により、組織が推進していた多様性施策が一部で停滞しましたが、逆にこれを機に独自のDE&I戦略を強化する企業も現れています。
アメリカ本土でも一部の企業は、政府の方針に従いDE&I施策を縮小しましたが、逆にいくつかのテック企業では、独自の戦略を強化し、引き続き多様性を重視し、従業員の多様性データを公開し続けています。
アメリカの政策はDE&Iの進展に一時的な影響を与えていますが、社会全体で多様性推進の重要性を再認識する結果となったのではないでしょうか。

そんな中、独自の戦略として最近出てきているのが「ビロンギング(Belonging)」というワードです。
これは、DE&I(ダイバーシティ、エクイティ、インクルージョン)の進化形で、「DEIB」とも表現されています。ビロンギングとは、所属感や帰属意識、一体感を表す言葉です。具体的には、従業員一人ひとりが「自分の居場所はここにある」と感じ、組織の一員であることを実感している状態を指します。これは、心理的安全性の確保や、社員がその能力を十分に発揮できる環境づくりと密接に結びついています。

なぜこのビロンギングが組織に必要なのかというと、 多様性(Diversity)や包括性(Inclusion)だけでは、従業員が組織に対して深い愛着や安心感を持つことが難しい場合があるからです。そのため、ビロンギングが注目されるようになりました。組織全体のパフォーマンス向上が期待されるといわれていますが、これはビロンギングが単なる「所属」ではなく、従業員が組織の一員として認められ、成長できると感じる状態を目指しているからです。いわゆる真の心理的安全性の確保につながることで、帰属意識が芽生えるようです。

ビロンギングを高める方法として、以下3点が挙げられています。

  1. 心理的安全性の確保
  2. 社内での交流を活発化させるコミュニケーションの促進
  3. 組織のビジョンや価値観を従業員と共有

これにより、社員ひとりひとりの一体感の醸成を図ることにつながるのだそうです。

日本がDEIBと向き合い、取り入れるには、どんな課題があるのか考えてみました。
私は、長年ダイバーシティ推進のサポートとして、企業のコンサルティング、研修や講演をさせていただいておりますが、周知のとおり、日本の同質性の高さ、大手を中心とした終身雇用、年功序列が日本がグローバル企業となるためには、デメリットとなってしまっています。それは、イノベーションを起こしづらかったり、多様な意見を受け入れづらかったりという状況を引き起こしてしまいます。その課題を解決するために、リーダーの多様性が必要で、まずは女性管理職を増やすという施策に関わってきました。

内需だけであればこの同質性、終身雇用、年功序列はプラスに働く部分も大きかったのですが、グローバル企業に成長するためには、マイナスになってしまいます。
どの企業も文化を変えなくては、と先に述べた女性管理職を増やす、中途採用を増やす、若手でも仕事をどんどん任せる、など、過去にはない取り組みをやってきました。
それなのに、トランプ政権に代わり、DE&Iのアプローチが変化していくのではないか、日本はまだ課題の途中なのに、とクライアントからご不安の声が聞こえてきます。

そんな中、新たに出てきたのがビロンギングです。アメリカの企業を中心に、ダイバーシティ推進から、このビロンギングに軸足を置いた施策に切り替えようとしています。私自身、日本がどのような影響を受けるのかを調べてみたのですが、これによって今までの施策がガラッと変わることにはならず、ビロンギングを取り入れることで、国籍、性別を超えて、一人一人の異なる価値観を尊重しながら、組織のビジョン、パーパスを丁寧に社員と共有していく、いわゆるお互いにとって対等な、WinWinの関係を目指すことになるのでは、と思っています。
つまり、DE&Iでは、社員同士の平等性、公平性、といったテーマが大きかったのですが、ここに組織も入ってきます。誰の力が大きい、ということではなく、組織も社員ひとりひとりもそれぞれがフラットで対等である、WinWinの関係です。

以前にもコラムで書かせていただきましたが、エンプロイアビリティ(個人側が雇用されるための能力)とエンプロイメンタビリティ(雇用環境の改善や機会提供など個人に働きたいと選ばれる企業能力)の関係性がポイントです。この2つの概念は、個人の成長と社会全体の雇用環境改善を両立させるために連携して重要な役割を果たします。

エンプロイアビリティとエンプロイメンタビリティをお互いが果たすことで、組織と個人の力関係は同じになります。過去の日本は、社員よりも組織のパワーが大きく、乱暴な言い方ですが、個人が組織に同質化し、会社からの期待に応えていけば、年功序列、終身雇用で組織に守ってもらえました。しかし、組織と社員がWinWinになるためには、先にあげた、ビロンギングを高めるための「心理的安全性の確保」「社内での交流を活発化させるコミュニケーションの促進」「組織のビジョンや価値観を従業員と共有」を実践し、組織が社員に提供していく必要があります。

DEIBを実践するために会社としてすべきことは、会社が何を目指しているか、大事にしているか、パーパスなどをしつこいくらいに社員に伝え、心理的安全性をしっかりと感じられる組織風土にすること。そして社員はそれぞれが自らの価値・持ち味を理解し、惜しみなく周囲のために貢献することで自己肯定感、自己有用感が高まっていく経験を積むこと。これらがうまく回れば、ここにいたい、ここでもっと貢献したい、という帰属意識が高まっていくのではないでしょうか。多様な人達が活躍し、貢献しあえる世界を目指していけることになるように、と願っています。

藤井佐和子

藤井佐和子

藤井佐和子ふじいさわこ

キャリアアドバイザー

個人と企業からの依頼によるキャリアカウンセリングは、延べ17,000人以上の実績。学生からシニア層まで年齢や性別を問わず、自分らしいキャリアデザインをするための選択とアクションに向けたカウンセリングを…

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