第2回では、なぜ今、ワーク・ライフバランスがこれほど注目されるのか、そこにある背景に注目してご紹介してまいります。いくつかある背景のうち、最も大きなものは、急速に進む少子化に対する国の危機感と、そこから派生する企業の優秀な人材の確保に対する危機感でしょう。
少子化問題が大きくクローズアップされたのは20年近く前に遡りますが、今もなお、その流れはとどまるところを知りません。実はこの少子化問題、すなわち出生率の低下はほぼ確実に将来の人口減少をもたらし、ひいては年金や医療をはじめ様々な社会制度の基盤を揺るがし、国力の衰退につながりかねない大きな問題なのです。
国としては、この労働力人口の減少に歯止めをかけるために育児休業制度の整備、保育所の拡充など様々な施策を進めましたが、その効果は限定的で出生率の低下傾向に歯止めがかかることはありませんでした。そしてさらに強まった政府の危機感は、新たな法律や制度の形に表れたのです。その中でも特に注目したいのは、2003年に成立、2005年に施行した「次世代育成支援対策推進法(次世代法)」です。次世代法では、従業員を301人以上雇用する事業主に対して、両立を支援するための行動計画の策定が義務付けられました。
このような経緯から、多くの企業にとってワーク・ライフバランスへの取り組みは、「政府からの圧力」を発端としていました。しかし、前回のコラムでも触れました「2007年問題」と称される団塊世代の大量退職によって人手不足が深刻になってきました。ワーク・ライフバランス施策の充実は、社員の退職を防ぐとともに、新規採用を有利にし、さらには今いる人材の能力を引き出す可能性を持っていることに気がついた企業が続々とワーク・ライフバランスへ関心を高めはじめています。
こうして今や、官民ともに「ワーク・ライフバランス」が合い言葉のようになっています。取り組みの内容についても、従来の「ファミリー・フレンドリー」「男女均等推進」を中心とした施策から、「働き方の見直し」に対する施策が増えています。企業にとっては、女性にとって働きやすい職場環境を整えるだけでなく、優秀な社員の採用・定着によって生産性と競争力を高め、さらに社内風土の見直しを通じ、より強靭な組織を目指すことが重要です。求められているのはまさに「経営戦略としてのワーク・ライフバランス」なのです。
次回は、ワーク・ライフバランス施策を実施するにあたっての人事労務面からのメリットをお伝えいたします。
小室淑恵こむろよしえ
株式会社ワークライフバランス代表取締役社長
ワーク・ライフバランスコンサルティングを900社以上に提供している。 クライアント企業では、労働時間の削減や有給取得率の向上だけでなく、業績が向上し、社員満足度の向上や、自己研鑽の増加、企業内出生率…
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