この連載記事で、人が輝くためにITで出来ることについて模索して来ましたが、その本命とも言える「タレントマネジメント」について今回は触れてみたいと思います。
どの企業でも、ITを当たり前のように活用する時代になりました。
単調作業の多くの部分をITが担い、業務の効率化が図られて来ました。
この連載記事でも何度か主張して来ましたように、これからの時代はコストの削減というよりは、売り上げの向上にITを如何に上手く駆使していけるかが勝負となって来ています。
そんな中で変動要素が大きく、最も効果が出る余地のあるところが「人材」になります。
経営者の最大の関心事も、人の育成だったり、活性化だったりします。
こんな風景によく遭遇します。
社員のことは全員把握しているつもりでも、優秀な人材が突然辞めてしまい、「何であいつが辞めたんだ?!」と落ち込んだり、もっと言えば社員の能力どころか名前さえも思い出せなくて、咄嗟に「君」とかで誤魔化す。そんなことはあったりしませんか?
例えば大阪支店に行く新幹線の中で、自分の部下にも関わらず
「あれ、先月入った営業部のあいつ、なんて名前だったかな?」とか、
「あいつ、確か出来ちゃった婚だったよな。お子さんは女の子だっけ?男の子だっけ?」
と予習したくなることはありませんか?
また例えば、海外の新しい大きなプロジェクトの話が来た時に、
「さて最高のチームで臨みたいが、英語の堪能な山田を引き抜くと、現状のこっちのプロジェクトが弱くなるしなー。」
と悩みますよね。
さあどうしたものかと、社員の名前と能力が書いてある一覧表の紙を眺めても、シミュレーションすることも出来ず、困り果ててしまうことはありませんか?
人間は9割はイメージで処理し判断する動物だと言われています。
人の顔や、組織図、スポーツならフォーメーションなどイメージを見ながら、能力も併せて把握できる、そんな新感覚なインフラがあればどれだけ便利かとも思いますが、意外とそれに応えてくれるITのツールは今のところ見当たらないようです。
このイメージとセットで能力も合わせ見ながらシミュレーションすることの便利さについて、わかりやすい例で体感してみましょう。
こんな想定で、下の図を見てみてください。
いまあなたは大きなプロジェクトのリーダーを任されています。
東京にいるあなたは、これから大阪支店に半年間だけ赴任することになりました。
そのプロジェクトのキックオフとして、アメリカ本社のCEOが今度来日することになり、お客様向けのイベントをすることになりました。
秘書にメンバーの一覧を印刷してもらいました。毎日接している部下たちではありませんが、会えば何となく思いだせる部下たちです。そのイメージを出してもらい易くするために、読者の多くの方がよくご存じであろうと思われる俳優さんをリストに載せてみました。1分程度で、司会やエスコート役など最適な役割分担をしてみてください。
では、同じことをもう1度行ってみたいと思います。
今度は下の図をご覧ください。
写真を見ながら役割分担をしてみて、先ほどと比べて、どのくらい役割分担しやすくなったか感じてみてください。
文字だけでなく写真もあった方が、いかに人間の判断の助けになっているか、体感出来たのではないでしょうか?
人間がイメージと紐付けて記憶していて、文字だけでは的確な判断が難しいことがお分かりいただけるのではないかと思います。文字で「司会」と書かれているよりも、そこに写真もあれば「ああ、あの時の司会をされていた方だ。上手かったな。」という記憶まで呼び起こしてくれます。「TOEIC 910点」と書かれた文字を見るよりも、写真付きであれば、「ああ彼女か、あの時の流暢な喋りが・・・」と文字にはなっていない情報までも呼び起こしてくれるのです。
このような人の才能を検索出来る仕組みが、IT業界では「タレントマネジメント」と呼ばれている仕組みになります。10年以上前から存在している仕組みですが、高額なツールであることもあり、まだ全然普及していないジャンルのツールでもあります。
企業でも社員が増えれば、社員を把握しコンタクトしやすくするために「社員検索」のシステムを導入する企業は増えて来ました。しかしそれは、社員の名前で検索したり、組織図から探し出す程度の仕組みで、電話番号やメールアドレスを引き出すためのものが殆どです。そこを一歩も二歩も踏み込んで、「能力」という項目でも検索出来るようにし、人材の最適配置に利用出来るようにしたのが「タレントマネジメント」です。
しかし現存の「タレントマネジメント」では、まだまだ文字情報だけで管理するものが多く、非常に静的なツールです。検索結果に該当者の写真は出て来ることがあっても、それは見るだけでシミュレーションに使うことは出来ません。スポーツの監督がしたくなるように、選手の顔を見ながら配置のシミュレーションをする、これを企業の「監督」も行いたいはずです。
これから「個」の時代を迎えます。
20世紀の時代は、いい教育を受けて、いい会社に入れば安泰という時代がありました。
優れたビジネスモデルさえ確立されていれば、あとはそれに忠実に活動すれば利益を出すことが出来たので、企業もいい人材さえ確保すれば稼働率をあまり気にせずに運営していくことが出来ました。ところが21世紀に入り、少子高齢化が進み、作れば作るほど消費された時代は終焉を迎えています。価値を創り続けないと買ってもらえない時代となって来ました。
「入ってしまえば寄りかかれる」時代ではなくなり、常に個人の能力を高めていく時代です。
やる気のある人間にとっては、とてもいい時代であり、そうでない人にとっては厳しい時代でもあります。そんな21世紀の働き方は、1人がダブルワーク、トリプルワークと複数の会社に所属して、動的に自分の価値を表現していく時代となりました。
これが「個」の時代です。個人でもそこそこ大きな仕事が出来るために必要なテクノロジーインフラが整って来たということも背景にあります。映画のキャスティングのように、プロジェクト毎にいい人材を動的に集めて、よりいい仕事が出来る、そんな時代が目の前まで来ているということです。
そんな未来を見据えた時に、最適なチームを組むために必要なのは人の才能を迅速に知ること、また集まったチームの個々の才能を把握することです。
これらを実現してくれるのが「タレントマネジメント」ということになります。
しかし既存の「タレントマネジメント」には、まだまだ多くの課題が潜んでいます。
なぜ普及しないのか、なぜ失敗するのか。
次号では、その辺の課題を浮き彫りにしてあるべき「タレントマネジメント」について語ってみたいと思います。
井下田久幸いげたひさゆき
ドルフィア株式会社代表取締役
IT業界一筋で34年。SEからマーケティング、営業と幅広く経験。難しいITを分かりやすく、役に立つ情報として伝えることで、セミナー講演はいつも好評。デモを披露したり、世の中の動向とITの動向を絡めて話…
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