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2011年06月24日

原発事故と放射能汚染

3月11日に発生した大地震とそれに伴う大津波の被害を受け、福島第一原子力発電所で極めて重大な事故が起きました。放射能汚染は大きな環境問題です。当面は原発事故と放射能汚染に関してコラムを書いてみます。今回は、原発事故とそれにともなう放射能の放出について触れてみます。

【3月11日の地震と原発事故】
 福島第一原発で原子力事故が起きた経過は次の通りです。

3月11日14:46 震度6強の地震が発生、15:27に津波の第一波襲来。
          全電源を喪失し、冷却手段を失った。
3月11日20:50 2km圏内住民に避難指示。
3月11日21:23 3km圏内住民に避難命令、3km~10km圏内住民に屋内待機指示。
3月12日15:36 1号機の建屋で水素爆発。
3月12日18:25 20km圏内住民に避難指示。
3月14日11:01 3号機で爆発。20kmの屋内退避勧告
3月15日6:10 2号機の圧力容器の損傷。
3月15日6:14 4号機の壁の一部損傷、火災発生。
3月17日以降、自衛隊、消防等により放水による冷却が実施された。

 原発事故が起きた場合には、
(1)「まず核反応を止める」
(2)「次に原子炉を冷却する」
(3)「最後に閉じ込めて放射能を漏らさない」
 という処置をとることが大切です。

今回の大地震の直後に制御棒が、核燃料がある炉心に挿入され、臨界状態の核反応が停止されました。(1)の「核反応反を止める」が実施されましたので、チェルノブイリ原発のような大爆発(核爆発)は起こりません。

 制御棒が入れられても、燃料棒の中に生成した核種の崩壊が続いており、それに伴う反応熱が発生しています。その結果、圧力容器が高温になり、それにともない内部は高圧になりました。危険な高圧状態を避けるために、圧力容器の中の高圧の気体を外部に放出致しました。いわゆるベント操作が実施されました。それでも圧力容器の内部は熱を発しておりますので、熱の除去のために圧力容器を冷却しなければなりません。これが(2)に当たります。本来の冷却系装置が機能していない状況では、外部から水をかけて冷やすしかありません。3月17日以降に放水が実施され、「冷却する」が進められました。

今後は、事故が起きた発電所全体を何らかの覆いで包み、(3)の「放射能を漏らさない」措置が実施されるでしょう。

 尚、放射性物質の放出は、テレビで繰り返し映像が放映された3月12日、14日の水素爆発ではなく、3月15日の2号機の圧力容器で発生した重大な損傷事故による放出が大きいと言われています。その時に南東の風が吹いており、原発から北西の方向に大きな放射能汚染が生じました。
 
【放射能や放射線に関する正しい理解を】
 「放射能」とは「放射線」を出す活性力を表します。「放射線」とは一般的に高いエネルギーを有する電磁波や粒子線を指し、アルファ線、ベータ線、ガンマ線、電磁線、X線、中性子線などがあります。「放射性物質」とは放射能を持つ物質を表し、ウランやプルトニウム、セシウム、ヨウ素などがあります。「放射能」は「放射性物質」とほぼ同じ意味で使われておりますが、専門的には異なる語です。「放射能を浴びる」という用法は厳密には誤りです。ただし本コラムでは皆が認識している通り、「放射能」を「放射性物質」とほぼ同様の意味で使用します。

 放射線を浴びる事が「被曝」であり、放射性物質が付着したり体内に取り込まれることが「放射能汚染」です。「被曝」と「汚染」を混同しないように注意して頂きたいと思います。放射線を浴びた人、すなわち被曝した人に放射線や放射能が蓄積することはありません。一つひとつの放射線の被曝は一瞬の事で、光や電波の照射を受けるような事です。光や電波が体内に残らないのと同じように、放射線を浴びることによって体内に放射線や放射能が蓄積したり、または体外にそれらを放出することもありません。また、放射線は伝染病のように、人から人へ伝染することもありません。放射線に被曝した人に触れたり、近づいたりしても放射線や放射能を浴びることはありません。

 放射能や放射線の存在は直ちに危険な訳ではありません。放射能や汚染を考えるときに一番大切な事は、その濃度や強度です。放射能や放射線は自然界や私たちが生活する周りに常に存在します。水道水やホウレンソウの放射能の測定値が暫定基準値を超えたという報道が原発事故の直後にあり不安に思われた方も多いかと存じますが、実は、私たち人間も60kgの人で7000ベクレル程の放射能を持っています。人間自身も放射線を出しているのです。これは、主に農産物の中に放射性のカリウムや炭素が含まれているからで、人間が農産物を食する以上は避けられない事です。これが自然界の実態です。

 放射線や放射能に対する誤解が、無用な不安を助長したり、さらに風評被害を広めることにもつながります。放射能、放射線に対する正しい理解の下で、適切な判断と行動を行って頂きたいと思います。

 事故を起こした原子炉は(1)~(3)の適切な処置をした上、最終的には解体処理をしなければなりません。それが完了するまでには十年以上の年月がかかる可能性があります。それまで、私たちは原子力問題に向かい合っていかなければなりません。原子力に関する正確な知識や情報を吸収し、正しい理解に努めて頂きたく期待致します。

 

進藤勇治

進藤勇治

進藤勇治しんどうゆうじ

産業評論家

経済・産業問題、エネルギー・環境問題、SDGs、コロナ問題をテーマとした講演実績多数! 経済・産業問題やエネルギー・環境・災害問題、SDGs、コロナ問題などについて最新の情報を提供しつつ、社会…

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