私は様々な機会で、原子力事故と放射線汚染問題についてお話をしています。その時に、聴講者の方から様々な質問を頂きますが、中には極めて専門的な説明を要する質問もあります。その多くは原子力事故問題の本質や、真相に迫る重要な質問です。私はそのような質問にも丁寧に回答するよう心がけております。ただ、どうしても科学的な内容になってしまい、聴講者の方にとって理解が難しい場合があります。
今回はそのような事項について、なるべく解りやすく触れてみます。どうしても専門的な記述にならざるを得ない部分もあるかもしれませんが、ご容赦下さい。
■核燃料・ウラン235の平和利用、軍事利用
原子力の平和利用としては原子力発電所があげられますが、軍事利用としては原子爆弾があります。原子力発電所の燃料はウラン235で、広島に落とされた原爆の原料もウラン235です。
天然のウランは主にウラン235とウラン238の混合物で、ウラン235が約0.7%含まれています。天然のままではウラン235の濃度が低すぎるため何の原料としても使えません。原子力発電所の燃料として使う場合にはウラン235を3%~5%にまで濃縮する必要があり、原爆の原料とするにはウラン235を90%程度に濃縮します。
ウラン235は天然で唯一、核分裂連鎖反応を起こす物質であり、中性子を介して核分裂連鎖反応を起こします。そのときに発生するエネルギーを、原子力発電所では発電に利用します。原爆では核分裂連鎖反応を一瞬に行うことで、大きな破壊力が生み出されます。
原子力発電所でウランが燃焼する様子は、使い捨てカイロがゆっくり燃焼しながら熱を出し続ける様子に似ています。それに対し原爆で爆発的に燃焼する様子は、火薬や花火が一瞬に爆発的に燃焼する様子に例えることができるでしょう。
広島に落とされた原爆に含まれていたウランは数十キログラムです。それに対して、福島第一原子力発電所には千倍以上のウランが保管されており、それらが核爆発を起こしたら大変なことになると心配される声もありあすが、原子力発電用の核燃料は、決して原爆のように爆発はしません。また、核分裂連鎖反応を起こす原発と原爆では、厳密にいうと反応自体が異なりますので、生成される放射性物質も異なります。
現在、核拡散防止、すなわち核兵器を持つ国が増える事を防ごうという国際動向が強まっておりますが、それに反して、新たに核兵器を持とうという国も数カ国あります。それらの国にとっては、ウラン型の核兵器を持つためにウラン235を90%程度まで濃縮しなければならず、その技術を持てるかどうかが鍵になります。
■プルトニウムの利用法 <原発から原爆まで>
福島第一原子力発電所の4号機では、ウラン燃料に「プルトニウム」を混ぜたMOX燃料が使われていました。
プルトニウムとは、原子力発電所でウランを燃焼すると必ず発生する物質です。この生成したプルトニウムをウランと一緒に核燃料として使う使用法を、プルサーマルといいます。ウラン自身が有限な鉱物資源ですから、プルトニウムを核燃料として再使用できることはエネルギー的には極めて魅力的な方法です。
さて、ここで原爆の種類をご紹介します。原発には2つの種類があり、一つは一段落目でもご紹介したウランを原料とするもの、もうひとつは本段落でご紹介しているプルトニウムを原料とするものです。日本で広島に投下された原爆はウランを原料とするもので、長崎に投下されたのはプルトニウムを原料とするものです。
ウラン型の原爆は、輸送や貯蔵時に間違えて衝撃を与えると爆発する恐れがあります。プルトニウム型にはそのような危険性はありません。安全性の観点から、現在核兵器保有国が持っている原爆はプルトニウム型です。
日本では核兵器に転用できないように、余分なプルトニウムは持たない事を国際社会に表明しています。そのためには原子力発電所から出るプルトニウムをMOX燃料などとして再利用しているのが現状です。
■放射性物質の半減期と安全性
放射性物質の半減期とは、核崩壊によって「放射性物質の量が元の半分になる時間」をいいます。ただ、半減期が10年だからといって、20年で総てが消滅するわけではありません。20年後にはまだ元の4分の1の量が残ります。
原発事故で大量に放出された放射性のセシウム137の半減期は40年です。やはり大量に放出された放射性物質のヨウ素131の半減期は8日で、事故から9ヶ月が経つ現在ではほとんど残っていません。放射性物質の半減期は様々で、中には何億年という場合もあります。
さて、ここで半減期が1年の放射性物質と1万年の物質を比べたとき、どちらが危険か考えてみましょう。
多くの人は1万年以上も放射線を出し続けることになる、半減期が1万年の放射性物質を直感的に危険と思われるかもしれません。しかし、半減期が1万年の場合、1年で放出する放射線の量は全体の1万分の1、と極めて少ないと考えることもできます。比べて、半減期が1年の放射性物質は1年で全体の1分の1、1年間で全放射線量を放出することになります。
半減期が長いから危険とか、逆に安全とかと考えるのではなく、どんな放射線をどれだけの量を出しているかということを数値的に把握して判断することが重要です。
今回はやや難しい内容になりましたが、今後何十年と原発事故問題に向き合っていかなければならない私たちは、時には科学的、専門的な情報や根拠に基づいて冷静に判断することも必要ではないかと私は思っております。
進藤勇治しんどうゆうじ
産業評論家
経済・産業問題、エネルギー・環境問題、SDGs、コロナ問題をテーマとした講演実績多数! 経済・産業問題やエネルギー・環境・災害問題、SDGs、コロナ問題などについて最新の情報を提供しつつ、社会…
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