TPPは環境や食の安全などの国民生活から日本経済まで様々な影響を与えます。12か国によるTPP交渉は昨年末までには妥結せず越年しました。最終段階に来ていくつかの点で協議が難航しているようです。
また、韓国がTPPに参加の意向を表明しました。今回はTPPの動向と今後の見通しについて触れてみます。
■TPP交渉の動向
TPP交渉は21の分野で協議が進められています。これまでに15の分野でおおよそまとまったものの、次の5分野で米国と途上国で対立しています。
1.環境を守るための規則
2.映画や医薬品データなどの知的財産の保護
3.政府や要人が支配する企業の改革
4.公共事業の発注先の国内外差別撤廃
5.農産品の関税の撤廃
日本にとっては米国との協議内容が重要です。現在、日米間の大きな交渉案件は次の二つです。
1.日本の農産品の関税の撤廃
2.日本の自動車安全審査規制の緩和
世界一の農産物輸出国である米国は日本に農産品の関税の撤廃を強く迫っています。2012年に締結された米韓自由貿易協定では、コメ以外の農産物の関税は多少の猶予期間はあるものの全て撤廃されることになっています。
輸入車に対して厳しい安全審査基準は、日本への自動車輸出国にとって一種の技術的な非関税障壁になります。当面、日米の厳しい攻防が続くものと思われます。
なお、日本にとって食の安心・安全の問題は大きな関心事です。これまでの協議で、食品の安全性や遺伝子組み換え食品の表示に関しては、世界貿易機関の原則に従い各国が現行のルールを適用する方向になっています。
■TPPと関税
TPPは関税の撤廃を目指しますが、日本では次に示すような多くの品目の関税率はゼロです。一方、衣料品や食料品、宝飾品などには関税がかかります。
現在、関税がゼロの品目は、乗用自動車、オートバイ、機械類、電気機器、時計、パソコン、楽器、映像・音楽ディスク、書籍、印刷物、美術品、化粧品、スポーツ用品、家具類、ウィスキー、陶磁食器などです。
TPPにより関税が撤廃もしくは軽減された場合の影響ですが、輸入品の価格が安くなり、小売業の売り上げ量が増加することになります。同様に、輸入食材の調達コストが下がり、価格が安くなり、飲食店の売り上げ量が増加するでしょう。
また、国内の加工食品も原材料費の低下により価格が安くなり、売り上げ量が増加することになるでしょう。ただ、影響の大きさは分野や品目ごとに異なります。
■個別品目の関税の動向
ワインとチーズを例にとってみます。現在、洋酒の中でもウィスキーの関税はゼロですが、ワインには関税がかかります。ワインの年間輸入額は約1100億円で、主な輸入先は、フランス、イタリア、チリなどです。ワインの関税の撤廃が洋酒輸入業界から出ています。また、酒類の添加物については国際基準に合せた扱いを、許可申請手続についても、一層の迅速化、簡素化、透明化、合理化を、酒類に関する施行上の細則を決定するに当たっては国際基準との整合性を、などの要望も業界から出されています。
チーズの年間輸入額は約900億円で、主な輸入先は、オーストラリア、ニュージーランド、アメリカなどです。重要農産物5分野を護るため、輸入品が日本市場で圧倒的シェアを持っている品目や、国内で生産実績が乏しい品目が関税撤廃の対象となる見込みです。チーズには、日本でほとんど生産していない種類があり、部分的な市場開放が検討課題に上っています。
■韓国の参加意向
韓国はこれまでEUや米国と自由貿易協定を結ぶことを優先し、両地域への輸出を伸ばしてきました。しかし、昨年韓国はTPPを重要視して参加の意向を表明しました。韓国は本年1月中に米国、メキシコ、チリなどTPP交渉に参加する計6カ国と予備交渉を行い、最終的に参加の是非を決定する見通しです。
なお、米通商代表部カトラー次席代表代行は、韓国の合流は現在のTPP協議の妥結後になるとの考えを示しています。
■米国の動向と妥結時期
本年1月、貿易協定の議会審議を迅速におこなうために大統領に与える貿易促進権限の法案が議会に提出されました。この法案によれば、大統領の強いイニシアチブの下で交渉の早期妥結が期待されます。
交渉は難航していますが、妥結の一つの時期としてオバマ大統領がアジアを歴訪する4月頃になる可能性があります。米国では、本年10月に中間選挙があり、下院議員全員、上院議員の三分の一、任期が満了する知事などの選挙が実施されます。TPP交渉が春まで長引くと、妥結が中間選挙以降に持ち越される可能性があります。
■今後の展望
さて、関税が撤廃もしくは軽減されれば安い商品を購入できるようになり消費者にとってはメリットが多いと言われていますが、TPPは12ヶ国のみの協定ですので、当面の効果は限定的です。ただし、TPPの結果は日欧等の貿易交渉に影響を与える可能性があります。EUはワイン、食料品等の関税撤廃を常に日本に要望しているところです。
また、平均数%の関税より為替変動の方が影響が大きい場合があります。円高で1ドル80円程度であった為替レートが、アベノミクスにより短期間に円安が進み、1ドル100円ほどになりました。
自由貿易推進は世界の趨勢です。どのような速度で進展していくかの予測は難しいですが、TPPを端緒に日本においても関税撤廃、規制緩和、国際標準の採用などが確実に進行していくことでしょう。
進藤勇治しんどうゆうじ
産業評論家
経済・産業問題、エネルギー・環境問題、SDGs、コロナ問題をテーマとした講演実績多数! 経済・産業問題やエネルギー・環境・災害問題、SDGs、コロナ問題などについて最新の情報を提供しつつ、社会…
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