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コラム 環境・科学

2014年03月10日

新しいエネルギー基本計画

 このたび、新しいエネルギー基本計画の政府案が公表されました。2011年の原発事故を受けて、当面のエネルギー政策を決める重要な計画案です。エネルギー基本計画はエネルギーの需給・利用に関する国の政策の方向性を示すもので、エネルギー政策基本法に基づいて2003年から3~4年ごとに策定されています。

今回は原発問題に関連して再生可能エネルギーの展望と課題を考えてみます。

■新エネルギー基本計画
 新しいエネルギー基本計画案における、国民の関心が高い原子力発電と再生可能エネルギーに関する要点は次の通りです。

  • (1)原発を重要なベースロード電源と位置付ける
  • (2)安全性が確認された原発は再稼働を進める
  • (3)原発依存度は再生可能エネルギーの導入や火力発電の効率化などにより可能な限り低減させる
  • (4)安定供給やコスト削減、温暖化対策などの観点から、将来的に原発について確保していく規模を見極める
  • (5)福島の再生・復興に向けた取り組みはエネルギー政策再構築の出発点(福島県を再生可能エネルギー関連産業の拠点に)

 原発については、上記の(3)の記述から脱原発の方向性のようにも読み取れますが、(4)の記述から場合により原発を増やすことも可能のように読めます。原発政策についてはもう少し時間をかけて議論する必要があるようです。

 再生可能エネルギーについては、上記の(3)と(5)から当面は強力に推進されていくことになるでしょう。

■再生可能エネルギーの展望と課題
 太陽光や風力、中小水力、バイオマス、地熱のほか、波力、潮汐、海流、塩分濃度差などの海洋エネルギー、海水や河川、温排水による温度差発電、ヒートポンプ利用や氷雪熱利用などが再生可能エネルギーです。

 電源別のkWhあたりのおおよその発電コスト(円)を比較しますと、原発は5.9円、石油火力は6.2円、LNG火力は6.5円、太陽光発電は38~42円、風力発電は30円と、再生可能エネルギーによる発電はコスト高です。

 また、発電装置は単に発電容量(kW)を比較するだけではなく、設備利用率(稼働率)を考慮しなければなりません。次の表は原発事故以前の日本における設備利用率のおおよその数値です。

<設備利用率(稼働率)>

石炭火力 原子力 LNG火力 風力発電 太陽光発電
73% 69% 50% 約20% 約12%

 新潟県中越沖地震による柏崎刈羽原発停止前の日本における原子力発電所の設備利用率は約80%でした。現在、韓国や米国では90%以上の設備利用率で原子力発電所が運転されています。

 石炭火力や原子力が昼夜一定の出力であるベース電源を担い、LNG火力は付加追従運転がなされます。風力発電や太陽光発電は天候の影響を受けやすいため、稼働率は低くなります。再生可能エネルギーは、既存のベース電源がしっかり稼働していることが前提で利用されることになります。

■再生可能エネルギーの系統連系の課題
 既存の電力に対して再生可能エネルギーの数%程度の導入ならば比較的容易であるかもしれませんが、数十%の導入となると電力システムが根本的に変わることになるので、計り知れないコスト高となります。

 デンマークでは電力の30%を風力で発電しており、将来的には50%を目指しています。ドイツでは電力の13%を再生可能エネルギーで賄っています。日本でも再生可能エネルギーの大幅な導入は容易にできるのではと言われていますが、EU圏では電力を融通し合える環境が整っているので、一部の国が再生可能エネルギーを沢山導入することができます。しかし、EU全体でみると再生可能エネルギーはまだまだ1桁代に留まっています。

 既存の電力設備では、受け入れ可能な太陽光発電や風力発電による電力の量は5%程度と言われています。電力会社では設備投資をして、再生可能エネルギーによる電力の受け入れ量を増やすことに努めていますが、急な受け入れには応じることができない場合があります。例えば、昨年、北海道電力では40万kWの受け入れ可能量に対して、160万kWの申し込みがあり、全部を受け入れることはできない状況でした。北海道に限らず、その他の電力会社も地域により受け入れを断るケースが起きています。大都市圏では電力需要が旺盛なので、メガソーラー等が稼働しても全体量からすればごく僅かなので、通常は受け入れが可能です。しかし、地方の山間部などでは買い取りできない場合もあります。

 最近の各種の世論調査では国民の半数以上が脱原発を望んでいます。一方、原発の全面的な廃止は巨額の償却費と電力料金の引き上げが必要になり、国民の負担が増加するとともに日本経済の競争力の低下につながるという指摘があります。

 原発をどうして行くかは今後も議論が続くことになると思いますが、国民の声が政治に反映されることを期待致します。

進藤勇治

進藤勇治

進藤勇治しんどうゆうじ

産業評論家

経済・産業問題、エネルギー・環境問題、SDGs、コロナ問題をテーマとした講演実績多数! 経済・産業問題やエネルギー・環境・災害問題、SDGs、コロナ問題などについて最新の情報を提供しつつ、社会…

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