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コラム 環境・科学

2015年01月19日

化学物質と環境問題

 科学の進歩とともに人類は様々な化学物質を製造して利用してきました。しかし、便利と思って使っていた合成物質の中に、極めて重大な環境破壊や健康被害を及ぼす物質がありました。中には現在も処理しきれず、対策が未完了の有害物質もあります。今回は化学物質と環境問題についてふれてみます。

■フロン
 フロンは不燃、無毒で液化が容易であり、しかも不活性であるなどの優れた性質を持ち、クーラーや冷蔵庫などの冷媒、半導体を洗浄する溶媒、またスプレーなどの噴霧剤として世界中で使用されました。この便利なフロンは産業や人々の生活を支え、1985年の1年間で100万トン余りが生産されたという報告があります。
フロンは日本特有の言葉で、様々な種類のあるフルオロカーボン類の総称名です。米国ではフレオンと呼ばれます。フロンはメタン分子やエタン分子の水素を、塩素やフッ素で置換した化合物です。フロンは人間が作り出した化合物で、自然界には存在しない物質です。

■オゾン層の破壊
生物に有害な太陽からの紫外線を、成層圏にあるオゾン層が吸収します。オゾン層のおかげで地球上に生物が生息できます。しかし、人間が創り出したフロンがオゾン層を破壊することがわかりました。大気に放出された後、成層圏に達したフロンが紫外線により分解します。そのときに発生する塩素原子が触媒となって、次々とオゾンを酸素に変えていきます。こうしてオゾン層の破壊が進みますと、より多くの紫外線が地上に届いて癌の発症が高まります。
フロンには水素を含むものと含まないものがあります。水素を含むフロンは水素が取れやすく、オゾン層に到達する前に分解します。しかし、水素を含まないフロンはなかなか分解されず、オゾン層に達してしまい、その結果オゾン層を破壊します。

■地球温暖化とフロン
1987年にモントリオール議定書が制定され、フロンの中でオゾン層を破壊する特定フロンの国際規制が始まりました。その結果、1995年には先進国でフロンの生産が中止され、代わりに登場したのが代替フロンです。
これでフロン問題は解決したかに見えましたが、1988年頃から地球温暖化が大きな問題になりました。フロンも地球温暖化ガスの一つで、中には二酸化炭素の約5000倍の温室効果を持つフロンもあります。現在では温暖化を防ぐために、特定フロンのみならず一般のフロンも回収や処理が厳しく義務付けられています。

■PCB
PCBはポリ塩化ビフェニルのことで、ビフェニルの水素原子が塩素原子で置換された化合物の総称です。置換塩素の数により10種類の化学式があり、さらに置換塩素の位置によって、計209種の異性体が存在します。
PCBは電気絶縁性が高く、熱に対して安定で耐薬品性にも優れており、変圧器やコンデンサといった電気機器の絶縁油、加熱や冷却用熱媒体、可塑剤、塗料、ノンカーボン紙の溶剤など非常に幅広い分野に用いられました。
しかし、PCBは生体に対する毒性が高く発癌性があり、また皮膚障害、内臓障害、ホルモン異常を引き起こします。過去には、PCBなどが混入した食用油を摂取した多くの人々に障害等が発生したカネミ油症事件がおきました。
PCBはダイオキシンと構造がよく似ており、なかなか分解されにくい物質です。人体に摂取されると脂肪組織に蓄積されやすく、肝臓ではほとんど分解されません。
PCBや枯葉剤を製造すると副産物として微量のダイオキシンが含まれることがあります。また、PCBは加熱されると一部がダイオキシンに変わることもあります。

■困難を極めるPCBの処理
日本ではカネミ油症事件後に、PCBの製造、使用、輸入が原則禁止されました。さらに世界でPCB油症事件、食品のPCB汚染事故が起きるとともに、近年はPCBを含む電気機器、特に老朽化した機器からのPCB漏えい事故が世界で相次ぎ、大きな社会問題となりました。
日本では大量にストックされたPCBの処理法について、カネミ油症事件後の1972年から検討が進められてきましたが、処理施設の立地の困難からPCBの十分な処理はなされず30年以上も時間が経過しました。その間、企業等は法律によりPCBを保管する義務を負いました。2001年にPCB処理に関する国際的な条約に調印した日本は、2016年までにすべてのPCBを処理する制度を作りました。

■PCB処理の現状
 PCBの処理は主に国の支援で作られた施設で行われています。民間技術による処理も可能ですが、実施に際して条件が多くあまり進んでいません。PCB処理は計画通りに進んでおらず、2016年までにすべてのPCBの処理は不可能の状態です。その間にもPCBの漏えい事故や、保管しているはずのPCBが行方不明になることが起きています。未処理のまま残っている大量のPCBの存在はまさに眠る爆弾として恐れられています。

 フロンやPCBで経験したように、便利で有益と思った物質が、実は環境や人体に大きな被害を及ぼすものであることを後で知ることになりました。環境ホルモンという物質も同じことが言えます。
今、人類は数万種もの化学物質を人工的に製造して使っています。決してフロンやPCBの轍を踏まないようにしなければなりません。なお、自然界に化学物質が拡散しないためにも、適正な廃棄物処理と資源リサイクルは極めて重要です。

進藤勇治

進藤勇治

進藤勇治しんどうゆうじ

産業評論家

経済・産業問題、エネルギー・環境問題、SDGs、コロナ問題をテーマとした講演実績多数! 経済・産業問題やエネルギー・環境・災害問題、SDGs、コロナ問題などについて最新の情報を提供しつつ、社会…

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