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コラム 環境・科学

2015年03月10日

地球温暖化問題の国際動向

地球温暖化に関する第5次IPCC報告書と昨年12月に開催されたCOP20の結果について紹介し、地球温暖化問題への国際的な取り組みの現状と将来展望について今回は触れてみます。

■IPCC報告書
IPCCとは「気候変動に関する政府間パネル」のことで、国際連合環境計画(UNEP)と世界気象機関(WMO)が共同で1988年に設立したものです。IPCCは次の3つの作業部会に分かれています。

第1作業部会:温暖化の科学的根拠
第2作業部会:影響と適応
第3作業部会:温暖化の緩和対策

それぞれの部会には延べ1000人以上の専門家が参加し、約2000ページにも及ぶ「報告書」を作成します。この「報告書」は極めて重要な意義を持っており、世界の国々が温暖化対策について話し合う国際交渉の場で、共通の認識として依って立つ科学的な根拠として扱われます。
IPCCは4、5年に一度報告書を取りまとめています。第5次IPCC報告書が2013年9月から2014年10月までに発表されました。第5次報告書の主要な結論は次の通りです。

■第5次IPCC報告書
「気候変動の状況と今後の見通し」
第5次IPCC報告書では、地球温暖化について疑う余地がないことが改めて指摘されました。20世紀半ば以降に観測された温暖化の支配的な原因は人間による影響があった可能性が極めて高いと指摘されています。今後の見通しについては、厳しい温暖化対策を取らなかった場合、1986年~2005年と比べて2081年~2100年までの世界の平均気温が2.6~4.8℃、平均海面水位が45~82cm上昇する可能性が高いと予測されています。

「気候変動による自然や社会経済への影響」
ここ数十年、世界中で気候変動の影響が現れていることが指摘されています。将来予測についても、1986年~2005年の平均気温と比較して1℃の気温上昇でも、熱波、極端な降水、沿岸域の氾濫のような極端な気象現象のリスクが高くなると予測されています。さらに、2℃上昇では北極海氷システムやサンゴ礁が非常に高いリスクにさらされ、3℃上昇に至っては、氷床の消失による大規模な海水面上昇のリスクが高くなると予測されています。

「温室効果ガスの排出削減に関する評価」
気温上昇を産業革命前に比べて2℃未満に抑えるためには、2010年と比べて2050年の世界の温室効果ガスの排出量を40~70%削減し、さらに2100年には世界の温室効果ガスの排出量がほぼゼロかまたはそれ以下に削減することが必要であり、そのためにはエネルギー効率をより急速に改善し、低炭素エネルギーの一次エネルギーに占める割合を、2050年までに2010年の3~4倍近くに増加させることが必要であると指摘されています。ここで言う低炭素エネルギーとは、再生可能エネルギー、原子力エネルギー、二酸化炭素の回収と貯留を伴う化石エネルギーやバイオエネルギーのことを指します。
ここで示された温暖化対策のための目標値は極めて厳しい数値であり、温暖化抑制の実現は大変困難を伴うことが予測されます。

■COP20の主な結果
COP20とは、2014年12月にペルーのリマで開催された地球温暖化に関する国際会議のことです。COP20での主な結果は次の通りです。
すべての国が共通ルールに基づいて温暖化ガスの削減目標をつくる方針で一致しましたが、各論を巡り先進国と途上国の対立は残り、内容や手続きに曖昧さも目立ちました。2015年12月にパリで開くCOP21では、ポスト京都議定書として2020年以降の新たな枠組みづくりの最終合意を目指しますが、難航が予想されます。
なお、これまであまり議論されていなかった温暖化に対する適応策について、COP20では洪水や高潮といった温暖化に伴う被害を抑えるための適応策も目標に加えることが認められました。

■COP20と日本の動向
従来から日本は、一部の先進国のみが温室効果ガスの削減義務を負う京都議定書に代わり、途上国も含めたすべての国が参加する枠組み作りを主張しています。
COP21の開催に先立ち、すべての国が温暖化ガスの削減目標をとりまとめて報告することになっており、排出量の多い日本は早期の目標提出が期待されています。しかし、東日本大震災後により原子力発電所の扱いが定まらない政策の停滞が響き、欧米や中国に比べ日本国内では2020年以降の温暖化ガス削減の目標づくりの作業が遅れています。

■京都議定書の第二約束期間
1997年に定められた京都議定書の第一約束期間は2008年から2012年でした。現在、2013年から2020年までを京都議定書の第二約束期間と定めて、各国が取り組みを進めています。温暖化ガスの排出削減目標として、ウクライナは24%の削減、EUは20%の削減を表明しています。日本やロシア、ニュージーランドは削減の数値目標を定めずに参加しています。カナダは京都議定書を2012年に脱退しており、米国や中国は参加しておりません。
なお、京都議定書の第二約束期間の発効には締約国の4分の3以上が受諾する必要がありますが、現在4か国のみしか受諾しておらず、発効が危ぶまれています。

■温暖化問題の展望
ロシアやカナダ、北欧諸国などにとって温暖化は必ずしもマイナにはならないという考えがあります。また赤道付近の国々では温暖化による影響は非常に小さいという指摘もあります。
さらに、中国やインドなどの新興国や途上国からは、「現在の地球温暖化は産業革命以来、大量の二酸化炭素を排出してきた先進国に責任がある」、「途上国や新興国は先進国と同じように大量にエネルギーを消費して発展する権利はある」、「今、途上国や新興国が先進国と同じ義務を負うことは不公平である」、などの声が聞こえます。
温暖化対策への国際的な枠組み作りは、年を追うごとに困難さを増しているのが現状です。このような国際情勢の中では、地球温暖化を防ぐというのではなく温暖化は進行するということを前提として、その影響を可能な限り軽減する適応策を真剣に考えることが現実的な対策になるかもしれません。

進藤勇治

進藤勇治

進藤勇治しんどうゆうじ

産業評論家

経済・産業問題、エネルギー・環境問題、SDGs、コロナ問題をテーマとした講演実績多数! 経済・産業問題やエネルギー・環境・災害問題、SDGs、コロナ問題などについて最新の情報を提供しつつ、社会…

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