大筋合意になったTPPの大きな目的は、関税を撤廃もしくは軽減し、制度の共通化や手続きの簡素化を図り貿易を振興することにあります。今回は製造業を中心に中小企業の輸出振興という観点からTPPについてふれてみます。
輸出品の関税撤廃・軽減のメリット
日本からのTPP参加国への輸出工業製品について、11カ国全体で99.9%の品目の関税撤廃が実現されました。合計約19兆円の輸出額で見ても99.9%を達成しました。また、関税の即時撤廃の割合は76.6%です。
輸出工業品の中でも、自動車、自動車部品についてはこれまで各国のガードは固い状況でしたがTPP交渉の結果、表1に示す通り米国が日本の自動車部品にかけている2.5%程度の関税は8割以上の品目で即時撤廃されます。また、日本の自動車にかけられているカナダの6.1%の関税が5年目に撤廃されます。総じて、TPPにより自動車、機械、電気を中心に工業製品の輸出が一層促進されます。貿易会社や商社もビジネスチャンスが増えてメリットがあります。
一般に海外志向の強い企業を除いては、ほとんどの中小企業は直接輸出を行うことはありませんが、TPPで輸出が促進される中で、製造業を中心に多くの中小企業はサプライチェーンの一つとして輸出にかかわり、メリットを受けることになります。
なお、国内の製造業者において輸出用商品の発注が増加した場合、生産設備も増やさなければなりません。この場合、TPP関連の事業であれば今後金融機関からの融資が比較的容易に得られる可能性があります。
国 | 関税撤廃の合意内容 |
---|---|
米国 | 乗用車(現行税率は2.5%)は、15年目から削減開始、20年目で半減、22年目で0.5%まで削減、25年目で撤廃 自動車部品(輸出額2兆円弱、現行税率は主に2.5%)に関し、8割以上の即時撤廃 |
カナダ | 乗用車(輸出の約3割に相当し、現行税は率6.1%)について、5年目に撤廃 自動車部品(現行税率は主に6.0%)は、日本からの輸出の9割弱が即時撤廃 |
オーストラリア | 乗用車、バス、トラック(輸出の5割弱に相当し、現行税率は5%)の新車は、100%即時撤廃 |
ベトナム | 3,000cc超の乗用車(現行、最高70%弱の高関税で保護)について、10年目に撤廃 |
制度面でのTPPのメリット
日本は国際労働機関の基本的な原則に基づく国内法令を既に有していますが、TPP参加国で労働者の権利保護が進めば、公正・公平な競争条件の確保につながり、日本の相対的な競争力強化につながることが期待されます。同様に、環境保護面でも日本は既に高いレベルで施策を講じており、TPP協定において他の参加国も高水準の規律に服することが明確化されたことで対等な競争条件が整い、健全な競争が確保されことになりました。
他国に進出のために投資を行った企業が、進出先の政府を相手取り賠償を求める紛争解決条項、いわゆるISDSでは訴訟が乱発される懸念もありましたが、大筋合意ではむやみに訴訟を起こせないよう申立期間が制限されました。
さて、関税がゼロになるということは、TPP参加国の中のどれか一つの国で製造された商品は、他の国の中で製造された商品と同様な扱いになるということです。たとえば、日本の繊維メーカーがベトナムで繊維を製造して、その繊維を使って日本の衣料メーカーが製造した衣服は、関税ゼロで米国に輸出して販売するということもできます。
TPPで輸出や海外進出がよりスムーズに
商品がどの国で作られたかを特定する原産地規則と呼ばれるルールにおいて、TPPでは完全累積制度が実現しました。これにより商品の生い立ちが細かく問われる煩わしさから解放され、部品の供給網が広がることになり、優れた加工技術を持つ中小企業の輸出競争力は一層高まります。
また、輸出産品が相手国税関で関税優遇の適用を受けるには、資格を満たしていることを証明しなければなりません。そのための原産地証明書はこれまでは日本商工会議所が発給していましたが、TPPでは輸出者や生産者が自己申告することになり、輸出手続きがが一層容易になります。
TPPでは投資先の国が投資企業に技術移転を要求したり、特定のロイヤリティー率の採用を義務付けることが禁止されました。急送貨物については必要な税関書類提出から6時間以内に引き取りを許可されることになりました。また、関税分類や原産性について書面での事前教示制度が義務付けられました。これらも、TPP参加国間の投資や輸出を一層促進されることになります。
その他、ビジネス関係者の一時的入国において、TPP参加国の多くの国で滞在可能期間の長期化や家族の帯同が許可されることになりました。電子商取引において、デジタルコンテンツへの課税賦課やソースコードの移転やアクセス要求が禁止されることになり、TPP参加国間でインターネット活用による売買が一層促進されます。模倣や偽造品に対する厳格な規律が設けられ、著名な産地名を知的財産として指定する地理的表示の保護が規定されました。模倣品や海賊版に対してTPP参加国政府は厳しい規制策をとることになり、海外に進出する日本の中手企業の知的所有権が保護されます。
TPPにより各国の中央政府および地方自治体の調達が一層解放されます。TPP参加国の中ではマレーシア、ベトナム、ブルネイの3カ国にとって初の市場開放となります。チリやペルーは調達基準額の引き下げを約束しました。米国は対象機関として航空宇宙局を追加したほか、豪州の交通安全局やカナダの社会資本庁、シンガポールの国立図書館も政府調達の対象になります。
TPPの合意内容は日本経済の活性化と地域産業の一層の振興が期待されるものです。中小企業におきましてはTPPの的確な理解の上、TPPのメリットを活かして一層発展されますことを期待致します。
進藤勇治しんどうゆうじ
産業評論家
経済・産業問題、エネルギー・環境問題、SDGs、コロナ問題をテーマとした講演実績多数! 経済・産業問題やエネルギー・環境・災害問題、SDGs、コロナ問題などについて最新の情報を提供しつつ、社会…
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