大筋合意したTPPに対して、輸出を中心とした中小企業の振興、またデメリットを受ける農業への支援が実施されます。今回は日本政府のTPPへの政策大綱についてふれます。
TPPと日本政府による中小企業の支援策
TPP交渉の大筋合意を受けて日本政府はTPP関連の政策大綱を発表しました。要点はTPPの日本経済と中手企業へのメリットを最大限に活用することと、TPPでデメリットを受ける農業分野をしっかりと救済することです。その概要は以下の通りです。
TPPがもたらす効果はこれまで海外展開に踏み切れなかった地方の中堅・中小企業に幅広く及びます。TPPが多国間の経済連携である特色を生かし、産業空洞化を抑え、技術力等を持った中堅・中小企業が居ながらにしての海外展開すること、地域の特色を生かした地場産業、農産品等がTPP参加国の8億人の市場へ打って出ることを政府は支援します。
国や地方自治体、商工会、商工会議所、金融機関等の各種支援機関等によるコンソーシアムが作られます。イノベーションや農商工連携も含めた他産業との連携を通じて、コンテンツや食文化などに代表されるクールジャパンや環境技術など、モノやサービス、コンテンツのグローバル市場開拓・事業拡大を目指す企業に対し、コンソーシアムを通して製品開発、国際標準化、知的財産、人材、海外企業とのマッチングや展示会等を含めた販路開拓等の総合的な支援が行われます。
現在の日本の農林水産物・食品の年間輸出額は約3000億円ですが、今後政府の支援により、2020年の農林水産物・食品の輸出額1兆円目標の前倒し達成を目指します。高品質な我が国農林水産物の一層の輸出拡大、輸出阻害要因の解消、6次産業化・地産地消による地域の収益力強化等により、攻めの農林水産業が推進されます。日本産酒類等の海外展開が推進されるほか、観光プロモーション等を通じて和食文化や食品の海外展開が促進されます。
TPP参加国の中央政府・地方自治体の調達が一層解放され、日本は2020年に約30兆円のインフラシステムの受注を目指します。円借款等手続きの迅速化や相手国の状況や事業の性格に応じたリスク・マネーの供給拡大、人材育成によるソフト面の協力、トップセールスの実施を通じた案件形成支援等を進め、日本の企業が強みを有する分野等でのインフラシステムの輸出を加速化します。
農業対策と地域の中小企業
TPPにより農業は大きな影響を受けますが、影響の度合いは品目ごとに異なります。たとえば、1~3等級の牛肉は影響を受けますが、4、5等級の牛肉は逆に輸出が伸びると予測されています。同様に、こだわりのおコメである有機米も輸出が伸びることになるでしょう。
大都市近郊の酪農家は主に生乳の生産を行いますのでTPPの影響は少なく、対して北海道の酪農家では牛乳は加工品用に回されますので、ニュージーランドなどからの安い乳製品の輸入により影響を受けやすくなります。
TPPに参加する日本にとって一番大切な事は影響を受ける分野、特に農業に対してどのように的確な救済策を採るかということです。今後、日本政府は次のような対策を実施します。たとえば、コメに関しては現在のコメ備蓄制度を見直し、米国やオーストラリアからの輸入相当量を備蓄米として買い入れることでコメの流通増加を抑制してコメの価格を維持します。また、牛肉・豚肉に関しては、畜産農家向けの経営安定対策の拡充と、法制化により牛肉・豚肉の課税引き下げに伴う減収を補填します。麦については、引き続き経営所得安定対策を着実に実施します。テンサイやサトウキビなどの甘味資源作物については、加糖調製品を新たに糖価調整法に基づく調整金の対象とします。
また、これまで日本では農業事業者(1次産業)が食品加工(2次産業)や流通販売(3次産業)も手掛けることによる農業の6次産業化が推進されて来ました。これにより、地域ビジネスの展開と新たな業態の創出を促し、農村の一層の活性化が期待されます。また、農商工連携事業も一層推進されます。
さて、農業者経営安定対策などによる農業保護政策は、すでにEU諸国や米国で広く実施されています。日本においても小麦専業農家の収入の約8割は補助金ですが、これからもTPP対策として影響を受ける農家の所得補償をしっかりと行うことが必要です。
TPPによって日本へ輸入される安価な農産物が日本の農業に大きな影響を与えるのではないかと心配されています。しかし、TPPによって関税が軽減されるとともに貿易の制度が整備されて、日本からの輸出が増えると期待されている農産物や食品が多数あります。たとえば、リンゴやイチゴ、ナガイモなどの青果物、有機栽培のコメや米菓、日本酒などのコメやコメ加工品、味噌や醤油などの加工食品、ブリ、サバ、ホタテなどの水産物、和牛肉、チョコレートやキャンディーなどの菓子類、レトルト食品、麺類、健康食品などです。
3000億円を超える補正予算、TPP対策費
本年1月に国会で承認された2015年度の補正予算では、農業のTPP対策として約3400億円、TPPを活用した中小企業の海外進出支援に約74億円が計上されています。
昨年12月に示されたTPPの経済効果に関する政府の試算によれば、TPP発効から10~20年がたち、TPPの恩恵が十分に行き渡った時点で経済の好循環によって実質国内総生産・GDPを2.6%底上げすると予測されています。2014年度の日本のGDP=525兆円で計算しますと毎年13.6兆円のGDP押し上げ効果になります。
TPPなどの自由貿易協定のメリットを理解するするとともに政府の動向を的確に把握し、また行政の様々な支援施策を活用するなどをして、企業の発展と地域産業の振興が図られますことを期待します。また、農業事業者に対しては国による経営安定対策が的確に実施されることを期待致します。
進藤勇治しんどうゆうじ
産業評論家
経済・産業問題、エネルギー・環境問題、SDGs、コロナ問題をテーマとした講演実績多数! 経済・産業問題やエネルギー・環境・災害問題、SDGs、コロナ問題などについて最新の情報を提供しつつ、社会…
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