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コラム 環境・科学

2008年06月25日

温暖化が変えるビジネスルール

前回のコラムでは、これからはCO2を多く出すのか、それとも減らすのかがモノの判断の基準になり、間違いなくビジネス・ルールを変えていくと書いた。今回は、その例を引こう。

■新しい価値基準
ドイツは2020年までにCO2の排出を40%削減すると公約し、いまその具体案作りの最中である。その中に、自動車に掛ける税金の基準を、従来の排気量や重量から、CO2基準に切り替えると発表した。つまり、自動車税の大きさは、排気ガスの中に含まれるCO2の量に比例するというわけだ。もちろん、CO2を多く出す車は税金が高い。逆に少ないほど税金は安くなるのである。

自動車といえば、EUでは2012年を目処に、1km走行中に出すCO2の量を130g以内とする規制法案を発表している。130gは車種ごとではなく(さすがにこの規制をクリアーできる車種は、いまだわずか数種しかない)、メーカー全体での平均になるようであるが、それにしても高いハードルである。なぜ、車がこれほどまでに厳しい規制を受けるのかというと、車は大きなCO2排出源だからである。例えば、米国では電力と自動車だけで全体の半分を超える。

このように、CO2を基準に<良いもの>と<悪いもの>とに判断される時代が始まったのである。

■「緑の消費革命」、「カーボンバランス」
また、CO2基準が消費行動をも変える時代になっている。英国最大のスーパーであるテスコ社は、すべての消費者が環境基準で買い物をする緑の消費革命を推進している。環境配慮型の商品の値段を下げ、何が環境配慮型かが分かる情報の記載を始めた。例えば、クッキーの袋に「CO2:75g」と書いてある。クッキーの生産から袋の廃棄までのライフサイクルで計ったカーボン・フットプリント(CO2の負荷)を計測して記載しているのである。
 日本においても試験的に同様の取り組みが始まる。大手食品企業の味の素がカーボン・フットプリントを表示するし、サッポロビールは缶ビール(350cc)に「161g」と表示を始めるそうである。つまりこれからは消費者の選択はCO2の多寡で決まるのである。

さらに、この3月、ドイツの有名な化学会社であるBASF社が「カーボン・バランス」なるものを発表した。自社の生産過程で排出されるCO2の量と、それらの製品を使ったユーザーが減らせるCO2の量を計測し、差し引きで大幅なCO2削減(自社で出す量の2倍分)となると発表したのである。化学会社といえばCO2をたくさん出す。その会社が自社の存在意義を、社会全体で減るCO2の量で売り込みをする時代が訪れたということである。

■ビジネスモデルの入れ替え
こうなると、ビジネスモデルも当然変わる。20世紀型のそれは「大量生産型」と言われたが、もうその時代は終わった。21世紀が求めるモデルは、「環境が許す中で最も優れたものゆっくり届ける」ビジネスモデルが繁栄することになるに違いない。
 「CO2を出すのは悪いことだ。CO2を減らすのは良いことだ」―こんな座標軸の原点が、これから社会を動かしていくのだ。

末吉竹二郎

末吉竹二郎

末吉竹二郎すえよしたけじろう

UNEP金融イニシアチブ特別顧問

東京大学を卒業後、1967年に三菱銀行(現 三菱UFJ銀行)に入行。1998年まで勤務した。日興アセットマネジメントに勤務中、UNEP金融イニシアチブ(FI)の運営委員メンバーに任命された。現在、アジ…

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