これまでこのコラムでは、大人から子どもへの働きかけに目を向けてきました。今回は大人同士の関係に目を向けてみましょう。ゴードンメソッドは、人に指導をする立場の方に大いに役立つコミュニケーションスキルです。
教育現場に限らずどの職場でも、先輩は後輩に指導をすることになります。後輩の仕事がスムーズにはかどり、職場の環境がさらに良い方向に向かうために指導は必要なことです。新人も含め職員全員が気持ちよく働けることで職場は充実します。指導に当たり、相手に不満や反感が生じないように「ものの言い方」には、何かと気を使うことでしょう。
先輩から後輩への働きかけでも気を使うのですから、後輩から先輩に「もの申す」のは かなりな躊躇が伴います。しかし、後輩だからと黙っていたのでは、職場の環境は良くなっていかないのかもしれません。今回ご紹介するのは、医療現場で後輩から先輩に働きかけをした事例ですが、教育の現場でも似たようなことがあるのではないでしょうか。
【ゴードンメソッド】を学んだ看護師Bさんの体験です。
夕方の入院患者があり、Aさんは一人忙しそうにしています。先輩のAさんは、お手伝いの申し出をいつも断るので、スタッフは皆 声をかけずにいます。
後輩のBさんは、今日も定時に仕事が終わりそうもないと感じて声をかけました。
B 「何か手伝えることありますか?」
A 「大丈夫」
Bさんは手伝いを申し出たのに断られてしまったことに少々の寂しさを感じます。そこで、講座で学んだ自己表現を実践することにしました。
B 「Aさん…。病室の名前書きぐらいだったら、私にも手伝えると思うんです」
A 「えっ?」
B 「お手伝いを断られると、何かあったときに、私もAさんにお願いしづらい
気がして、何か寂しいんです」
A 「えっ? そうなの? そんなつもりはないんだけど」
B 「じゃぁ、何かのときはお願いしてもかまわないんですね」
A 「大丈夫よ(笑)」
B 「じゃあ、私、病室の名前書きしますね」
A 「そうね、お願いするわ。いい?」
Bさんの感想です。
仲間から、手伝いを断る人 と、聞いていたので「大丈夫」と言われるといつも「そうですか」と引き下がっていました。思い切って『わたしメッセージ』で伝えたら、Aさんはかなりびっくりしていました。どんな返事が来るのか不安でしたが、言ってよかったです。その後Aさんは、少しずつ簡単な仕事を私に頼んでくださるようになりました。
Bさんは、コラム14でお伝えした、教師学講座で学ぶ『切りかえ』もちゃんと使っています。 仮に、Bさんが働きかけをしないままでいたらどうなるのでしょう。
頼んでも仕事をくれない先輩。そのせいで帰宅も遅くなる。それが続けば、Aさんを意地悪な人と思うようになるのかもしれません。実際に、他のスタッフはAさんを快く思っていないからこそ「手伝いを断る人」とBさんに教えているのではないでしょうか。
Aさんは、スタッフに余分な負担がかからないことを考え、その気配りが「大丈夫」という言葉になっているのかもしれません。
働きかけをしないことで、お互いの間に生じる誤解が少しずつ大きくなっていき、職場全体が嫌な雰囲気になってしまうことは、案外多いようです。
『わたしメッセージ』は相手を非難せず、こちらの思いを伝える言い方です。
自分が、何を考えているのか、どのような気持ちでいるのかを率直に伝えることで、両者の気持ちが分かり合える 一歩 になります。
あなたが相手の変化を期待するのであれば、相手が先輩であれ、後輩であれ、大人であれ、子どもであれ、あなたの自己表現が、心が通うコミュニケーションの『大事な鍵』となるのです。
鈴木みどりすずきみどり
親業訓練協会シニアインストラクター
人間関係をより良くし、相手のやる気を伸ばす方法を、難しい言葉を使わずにお伝えしています。誰にでも即実行可能な方法を手にすることができます。笑いあり、涙あり、実践ありの充実した講演と定評です。
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