今回は特別編として、先日、仙台の某大手電機メーカーで行った、ワークショップの模様を紹介したい。それは実に感動的な体験だった。
1.『モチベーションが上がらない…』ある一通のメール
5月初旬、事務所に一通のメールが入った。ある大手電機メーカーの30代の若手社員からだった。
読んでみると「職場のモチベーションが上がらない。なんとかしてものの見かたを変え、やる気が出るようなことをしたい」というものだった。
はじめは「発想法」のセミナーをやろうとか、「新しいビジネスアイデアを考えては」と考えたが、工場訪問をして担当者の方と話しているうち、あるひとつのことに気づいた。それは皆とてもいい人たちばかりなのだが、個人での作業が多く、ワイワイガヤガヤと気さくに話し合う習慣がないこと、また皆言いたいことがあってもそれが言える環境が与えられていないことだった。この問題を解決するには、『ワークショップ』という手法がぴったりだと考えた。
2.ワークショップとは?
誰しも「会議」と聞くとうんざりするだろう。それは時間がエンドレスだったり、何のために話しているか目的がはっきりしなかったり、実り少ないことが多いからだろう。イヤイヤ参加していることがほとんどだ。
これに対し、ワークショップとは「参加者が自ら参加、体験するプロセスを通して、互いが学び、自分ごととしてテーマをとらえ、全員合意のもとに新しい知を生み出す」新しい手法だ。(※1)
【普通の会議とワークショップの違い】
誰でも人から押し付けられたものはいまひとつ身が入らないが、自分たちで決め、作っていくものには責任、愛着を持つ。その人間性をうまく活用したのがこのワークショップである。
日産のカルロス・ゴーンが、会社を大改革するときに用いた手法もこのワークショップと聞く。異なる部門から選ばれたメンバーが組織を横断するかたちでチームを作り、会社の問題点や今後のビジョンについて話し合う。
その成果がいまの日産の復活をつくっているといっても過言でないだろう。
3.「ボク、のりこで~す」?
ワークショップでは、リラックスした雰囲気づくりが大事だ。そこで必ずアイスブレークセッションがある。今回やったのは「他己紹介」。これはペアになった相手にインタビューし、自分がその相手に成り代わって相手を紹介するというやりかただ。これは実は『聞く』という練習にもなっている。一組ずつ発表していくのだが、なかには男女のペアがいて、男性が「○○のりこで~す」とやって大爆笑。
一気に緊張が解けた。次に4、5人ずつのグループに分かれ、各チームに名前をつける。
4.たまっていた思いが一挙に爆発?
さて、次からセッションの本番だ。最初のワークショップのテーマは「いま、会社で困っていること」。自分が感じていることをどんどん出してもらう。ワークショップでは、ブレーンストーミング流にアイデアをどんどん出してもらう。 ひとつのテーマに5分というように時間制限をつけ、これがほどよい緊張感を生み出す。そしてグループごとに脇においたフリップチャートに出た意見を書き出す。
大切なのは「自由、そして無責任」。皆、「自分の言ったことに責任をとらなくてよい」とわかった瞬間に、堰を切ったようにアイデアがあふれだす。
5.驚くほどのクリエイティブなアイデアが
次のセッションに移る。テーマは「もしすべてが可能ならそれをどう解決するか」。
普通、問題を解決するのは現状からスタートするが、「現実はさておき、すべてが可能ならどうやって解決するか」という設定をするだけで、斬新かつ奇抜なアイデアがおもしろいように出る。各チームの発表に、皆しばし聞き入ってしまう。たとえば「閉塞感」という問題に対し「同じ業界同士でインターン制度を設け、よその企業での勤務を体験する」というのもあった。
職場をオープンにすることでかえって磨きがかかり、よりよいものにしようという意識が働いてプラスの効果が生まれる。実際問題としては難しいかもしれないが、似た制度を社内で行うのは可能だ。こんなところからも組織を活性化するヒントはたくさんある。
6.大盛り上がり『やる気の出る制度』コンテスト
最後のセッションは、これまで議論してきたテーマの集大成だ。「どんな制度があったらやる気がでますか?」という課題を出した。「最後に全員で投票をし、優秀チームには図書券が…」といった瞬間、皆の目つきがガラッと変わる(笑)。
時間を20分くらいとったがなかなかまとまらない。決められた時間内でひとつの考えをまとめ、形にするというのもひとつのよい経験だ。
そしていよいよ発表。野球のFA制度を応用したもの、マックのバリューセットにヒントを得たもの、ネットオークション形式で仕事を落札するものなど、実に多彩なアイデアが出た。
そして発表のあとに投票。無人島での生き残りテレビ番組「サバイバー」さながら、一枚一枚広げてはチーム名を読み上げる。こういった演出も大事だ。そして投票の結果、ネットオークション形式を提案したチームが優勝した。
7.「こんなに会議が楽しいなんてはじめて知りました!」
2時間あまりのセッションはあっという間に終わってしまった。最後に会食をしながら振り返りの時間を設ける。皆の表情がワークショップの成果を物語っていた。以下、感想をいくつか紹介する。
「楽しかったです!このワークショップを職場に定着させるしくみが欲しいです」
「皆で考えればよい案がでること、進め方を学んだので職場に広げたいと思います」
「枠のない議論で様々な方向性の意見が得られる。新規ビジネス開拓のディスカッションなどに使っていきたい」
「ミーティングも手法を変えるだけで、皆積極的に意見を言う状況になるとは驚きました」
「ワークショップを活用し、会社の中で何かおもしろいことをやりたいと思った。やる気がでました」
「会議は楽しく、短期間で行ったほうが効率も結果も良いことが体験できてよかったです」
「納得のいく合意が、仕事へのやる気につながるのかなと感じます」
「社内会議が多いので、こういったブレスト式にすると良いですね」
「ワークショップだと、本当に画期的なアイデアが生み出せることがわかった。皆で勇気を出して集い、ワークショップを開けば、いまの社内に蔓延する閉塞感を打開できるかかも知れない」
8.ワークショップ成功のカギ
ワークショップは素晴らしい。会議にひとつの枠組みをつくるだけで、これほどまでに人は変わり、組織は活性化するのだ。参加者の皆さんは、多くのことに気づいたと思う。時間内で結果を出すことの難しさ。短い時間で相手に伝わるプレゼンをすることの難しさ。自分たちにもこれほどのアイデアがあったんだという驚き。そして全員が参加してひとつのものを作り上げる素晴らしさ。皆さんと一緒にこんなエキサイティングな経験ができ、言葉にできないほど私は感謝している。
ワークショップを成功させるポイントが私が思うに2つある。一つ目は、実施する企業側との事前準備だ。当日、突然講師を連れてきてもまず成功しない。実際に企業を訪問し、担当メンバーと何度も打ち合わせをし、焦点を定め、参加者の意識を聞き、落としどころを探っていく作業は不可欠だ。二つ目は、できれば女性をメンバーに加えたい。女性の存在は場の雰囲気を明るくし、自由な発想に花を添えてくれる。枠にはまりがちな男性の中にあって、女性の感性はとても大切だ。
9.ワークショップをうちでもやってみたい!
通常は講演に続いてワークショップを行う。講演が90分、ワークショップは3時間弱といったところが目安だ。講演だけでは一方的に話を聞くだけだが、ワークショップでは参加者が主役。これをすることで、参加者の中により当事者意識が根付いていくことは間違いない。やる気の創造、ビジョンの策定、新企画の立案などに最適だ。
我が社でもワークショップをやってみたい、という方は、気軽にメールをください。
講演+ワークショップのお問合せは info@tkoffice.com 、川村透事務所まで。
今月はイタリアへ行きます。ブォンジョルノ~!
(取材協力:ソニー株式会社仙台テクノロジーセンター)
<今月のレッスン:枠組みを変えるだけで、人も組織も驚くほど生き返る>
(※1)参考『わかる!ビジネス・ワークショップ』(博報堂HOWプロジェクト著、PHP研究所)
川村透かわむらとおる
川村透事務所 代表
「ものの見方を変える」という視点の転換を切り口に、モチベーションアップ、チームビルディング、リーダーシップ、コミュニケーション、問題解決など様々なテーマで講演、研修を行う。自身の体験と多くの研修・講演…
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