●仕事をどう選ぶか
先日、埼玉の雇用能力開発機構主催「私と仕事と会社を考える」というシンポジウムのコーディネーターをやりました。
当日の出席者は、在職者4人。大学の教授、中小企業の社長、市役所勤めの公務員、人材派遣会社のOLさん、そして求職者は2人。航空自衛隊を経て、現在転職活動中のA君、そしてこれから仕事を探そうとしている大学3年生の女性Tさん、そして僕です。
今回のねらいは、いま仕事を探している求職者の方に、少しでも仕事を選ぶ際の参考にしてほしい、また仕事を通して生きがいをみつけてほしいというものでした。
今回はフリーターやニートの人にぜひ読んでほしい内容です。
●みなそれぞれの価値観
今回おもしろかったのは、ちょうどバラエティにとんだ職業の人たちが揃ったこと。そして、なぜいまの職業を選んだのか、その理由がこれまたバラバラだったことです。
大学の先生は、当時は4大卒の女性を雇ってくれるところがなかったので教員になったとおっしゃっていました(そんな時代があったんですね)。
また中小企業の社長さんは、ミュージシャンになりたかったものの自分よりウマイ奴を目にし、その道をあきらめて家業を継いだとのこと。いまはユニークな製品開発で有名な会社です。
公務員のMさんは、最初一般企業に入るものの、転勤が多いことに嫌気がさし、地元に腰を落ち着けて働きたいと市役所へ転職。
人材派遣会社に勤める20代後半Tさんは、転職するも「人の成長にかかわりたい」というポリシーは一貫しているようです。
これを聞いて「ああ、人ってそれぞれの価値観で生きているんだなあ」とちょっと安心しちゃいました。
たとえば、「転勤がない」――これって立派な価値観ですよね。フリーの僕には当たり前だと思っていたんですが、もし「じゃ君、来月はここいってくれ」と頻繁に言われたら、僕もちょっと考えちゃうよなあ…。
学校では他人との比較で成績が決まったけど、社会にでたら自分の成績って自分で決めればいい。お給料とか、会社の大きさとか、そんなもので自分の価値は決まらない。自分がその仕事でどれだけ満足感、納得感を得られるかだと思うんですね。
しかし、この「自分の価値を自分で決める」ということが僕にはとても難しかった。いつも、誰か人や世間、資格など、自分以外の「権威」に認めてもらわないと自分の価値がないと思っていました。でも、その考えをやめたとき、やっと自分らしい生き方に出会えた気がします。(その頭の切り替えに、何年かかかりましたが)
だから、いい企業に入った人が勝ち組で、入れなかった人が負けじゃないんです。
●自分は何が譲れないか
僕の価値観は「自分の感性は譲れない」。芸術家みたいな生き方をしたいんです。だから自分のルールで、自分がいいと思ったものを提案したり、発信したい。自分の理念や信念にあわない上司や会社のポリシーに自分を合わせることはイヤだったんです(こうしてみると、僕って結構わがままだったんだなあと改めて発見)。だからそれを通すには、いまの形が最適だと思ったのでサラリーマンをやめてフリーになりました。
いま、翻訳、講演、執筆などの仕事をしていますが、自分の納得したものだけを仕事にでき、あとで人から文句を言われずに仕事ができるので、精神的にはとても健康かな。
もちろん、これも人によって違いますよね。僕の大学時代の友人は、三菱東京UFJ銀行に就職し、スペインやブラジルなどで家族と海外赴任を経て、いまは日本の本店で勤務していますが、こういうダイナミックな経験て、なかなか一人じゃできない。また金融っていう大きなフィールドで自分を試すのもエキサイティングだろうし…。
でも、人をうらやんだったってしょうがないんです。じゃあ、僕が銀行マンになれるかといわれたら、絶対になれない。朝も弱いし数字も弱い(笑)。愛犬との朝晩の散歩にもいけないし(犬、大事)。
仕事を選ぶときは、業種や職種を考える前に、まず「自分にとって何が譲れないか」をよく考えるといいかもしれません。
●自分は何がうれしいか
もうひとつわかりやすいのは、「自分はいったい、どんなことをうれしい、楽しいと思うか」です。僕は、自分の作ったアイデアやビジネス、見つけてきた本やネタを知らない人に見せたとき「あ、おもしろいね」といってくれる瞬間がたまらなく嬉しいんです。
一冊目の翻訳の本を出してくれる出版社がみつかったときなんか、「ああ、僕はこの喜びを感じるために今日まで生きてきたんだ」と思うほどうれしかった。
きっと、僕はずっと自分に自信が持てず、自分を認められなかったから、「認めてもらうこと」に飢えているのかもしれません(笑)。
考えは、そのときの条件で変わるけど、「嬉しい、楽しい」っていう感情はそうは変わらないですよね。
―人の役に立てたとき…
―誰もやっていないことを成し遂げたとき…
―チームで何かを達成したとき…
皆さんにとっては、何がうれしいですか?
●仕事は自分を好きになる手段
そのシンポジウムで、一人の女性がこういっていました。
「私はずっと自分が嫌いでした。顔を上げて歩けなくて、いつも下を向いて歩いていました。でも先日、インターンである接客業を経験したのですが、そのお客さんがとても私の笑顔をほめてくれました。それがすごくうれしくて、やっと私は自分を認める、好きになることができたんです」
これってすごく基本的で大事なこと。
そうです。もし、自分にあった仕事をしていると、どんどん自分を好きになっていくんです。僕も以前のシステムコンサルタントの仕事では、あまり自分を好きになれなかった。でも、いまはすごく自分が好きです。自分のやっていることに誇りをもっていられます。
仕事を通して、自分の新しい可能性がみつかったり、人にほめられたり、認められたりするのって、楽しいじゃありませんか。
やりたい仕事って、たしかになかなか見つからない。それは、その仕事のイメージがわかないから。だから、なるべく多くの職種の人と会って、彼らの生き方にふれることが大事です。食事をしたり、遊びに行ったり、職場をみせてもらったり。その中でどんな生活をして、どう仕事や人生を考えているのか、それを肌で感じることです。
僕は、「あ、この人の生き方いいな」と思ったら、ずうずうしく必ずその人の会社や事務所にお邪魔させてもらって、そこの空気を感じながら話を聞かせてもらいました。その中に必ず自分にピンとくる価値観があるはずですから、そこをヒントにしていってください。やっぱり、たくさんの人に会うことですね。
仕事って、楽しいもんですよ。ぜひ、自分がやって楽しい、喜べる仕事を見つけてくださいね。
川村透かわむらとおる
川村透事務所 代表
「ものの見方を変える」という視点の転換を切り口に、モチベーションアップ、チームビルディング、リーダーシップ、コミュニケーション、問題解決など様々なテーマで講演、研修を行う。自身の体験と多くの研修・講演…
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