条件付きモチベーションとは「~をしたら…をあげる」というご褒美によって人を動かそうとする方法です。たとえば、子どもにお手伝いをさせるとき「じゃ、きちんとお片づけをしたら10円をあげよう」と言ったりしますね。これが条件付きモチベーションです。会社においても「この目標を達成したら、ボーナスをあげよう」という、いわゆる結果主義の報酬は、すべてこの条件付きモチベーションです。
一見、これは効果的なように見えます。しかし今多くの研究により、この方法は短期的にはよくても、長期的にはむしろ悪影響を生むことがわかっています。
1970年代はじめ、心理学者のマーク・レッパー、デイビッド・グリーン、リチャード・ニスベットによってユニークな実験が行われました(※1)。それは、幼稚園児の自由遊びの時間を観察したものです。概要は次の通りです。
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子供たちを次の3つのグループに分け、数日間絵を描かせた。
1.絵を書いたら、リボンがついた賞状をもらえることを知っているグループ
(前もって、絵を描いて賞状をもらいたいかどうかたずねる)
2.賞状をもらえることを知らないグループ
(絵ができたあとにサプライズで賞状を渡す)
3.何ももらえないグループ
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その2週間後、彼らはふたたび自由時間に、同じ子どもたちに同じように絵を描く課題をやらせてみました。さて、どのグループの子どもたちが一番一生懸命絵を描いたでしょうか。答えは2の「賞をもらえることを知らない」グループと3の「何ももらえない」グループです。
1の「賞をもらえることが分かっている」グループの子どもたちは、絵に対する興味を大幅に失い、絵を描く時間も極端に短くなりました。2の「賞状をもらえることを知らないグループ」は、2週間後の実験時には絵を描けば賞状をもらえることを知っています。それでも彼らのモチベーションが低下しなかったのは、それが「絵を描いたら、賞状をもらえる」という条件づけがされていなかったからです(つまり、見返りを期待しているわけではない)。唯一、1のグループだけが、「絵を描いたら賞状がもらえる」という条件付けをされ、結果、彼らの内的なモチベーションが失われたのです。その後、ほかの子どもたちや大人を対象にした実験でも同様の結果が出ました。
こうした実験結果がもう40年前に出ているにもかかわらず、ほとんどの企業では、相変わらず外的な報酬によって人のモチベーションをコントロールしようとしています。私の以前いたコンサルティング会社でも、成果主義が導入され、条件付きモチベーションによって社員は管理されていました。しかし、個人がみな自分の成果を達成しようとすればするほど、クライアントよりも自社のほうを向き、保身、事なかれ主義に走り、責任逃れをするような体質になっていきました。
もちろん、この外的報酬の弊害に気づきはじめた企業もあり、そこではコーチングや他の手法を使って、個人の内的な動機に火をつけようと様々な取り組みをしています。
では、どうすれば人は自分から動いてくれるのでしょうか。それについては次回、考えてみたいと思います。
※1:Mark R.Lepper, David Greene, and Richard E. Nisbett, “Undermining Children’s Intrinsic Interest with Extrinsic Reward: A Test of the ‘Overjustification Hypothesis’
川村透かわむらとおる
川村透事務所 代表
「ものの見方を変える」という視点の転換を切り口に、モチベーションアップ、チームビルディング、リーダーシップ、コミュニケーション、問題解決など様々なテーマで講演、研修を行う。自身の体験と多くの研修・講演…
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