第3回「心理的安全性」
さて、昨今この「心理的安全性」という言葉をよく耳にします。心理的安全性とは、職場において、どんな発言をしても、相手から嫌われたり非難されることなく、相手との関係を損なうことなく、安心して自分の意見を言える状態のことを言います。
おそらくこれは、誰しもがなんとなく気づいていたことでしたが、グーグル社の研究調査をしたハーバード大学のエイミー・エドモンソン教授によってそれが文字化・可視化され、多くの人に認識されるようになったのだと思います。
私がシステムコンサルティング会社で新入社員だったころの話です。ある会計ソフトの日本語化プロジェクトを進めていたのですが、途中でどうも「これは本当に使えるのか?」という疑問があったものの、いまさらそんなことを言い出せるはずもなく、結局そのプロジェクトは日の目を見ずに流れたことがありました。そんなとき、この「心理的安全性」が担保されていたら、臆することなくプロジェクトの中止を訴えることができたかもしれません。その当時はまさか上司に向かってそんなことを言えるわけもなく…そう思えば隔世の感があります。
さて、会社でこの心理的安全性を確保するにはどんなことが必要なのでしょうか。これにはたくさんの考え方がありますが、そのひとつとして私が思う「3つの大切なこと」を次にまとめてみました。
1.リーダーの振る舞い・考え方
やはり、まずは組織のトップからです。もし思考が昭和のままならばそれを改め、次のポイントを明確にすべきです。部下を人として誠実に接すること(いまだに部下を数字を上げる道具のように思っている残念な上司も少なくないのです)。頻繁な1on1のミーティングが奨励されるのも、いままでのような年に一度の評価ミーティングではなく、日常的に相手の話を聞くためです。上司の権力を振りかざして押さえつけたり、失敗を大声で叱責したり、部下の話を聞かずに一方的にしゃべり続けるようなリーダーの下では、みなビクビクし、ミスの報告も遅れ、結果的に組織の生産性が高まりません。まずは上司が自己開示し、話しかけ、部下に安心感を与えましょう。
2.場のルール
組織において、何が求められ、何がいけないのかをはっきり提示しましょう。人の批判やマイナスな空気を生むような発言は慎み、挑戦を奨励し、失敗してもそこから学べたことにフォーカスを置く、またお互いを認め、助け合うことは奨励する。こうした基準をミーティングなどで部下に伝え、組織で共有できるようにしたいものです。組織によっては、仲間同士の評価のフィードバックをメッセージで送ったり、それが評価や給与に紐づいているようなシステムを導入しているところもあります。
またふだんから「もし少しでも違うと思ったらどんどん発言してほしい。そうしたほうが早くミスを回復できるからね」「人を扱うのではなく行動を扱おう。誰それが悪いんでなくて、その行動は変えた方が良いよね」のように、必要な発言を促すような声掛けが必要です。上司や相手との関係を気にするあまり、正しいことが言えないような事態は避けなくてはいけません。
3.評価の軸
GE(ジェネラル・エレクトリック社)では、これまでの段階的評価基準をやめ個人の成長を評価の尺度にしました。これは、以前「失敗、エラーをゼロに」としていた基準を「失敗を恐れずにチャレンジしよう」というものに変えたことからです。数字至上主義、売上のみを追求するような評価軸だと、人同士が競争し利己的に行動しがちになりますので、そこは個人評価をチーム評価にしたり、メンバー間からの評価も取り入れたりして、人同士の関係性をよくしようというねらいもあると思います。またミスをしても、それを叱責するのではなく、そこから学べたことや、それにチャレンジした勇気にフォーカスをあてるよう、上司がリードしていくとよいでしょう。
中小企業などでは、どうしても社長の影響力が強くこの心理的安全性を担保するのが難しいような会社がまだたくさんあります。そういう組織こそ、まずは社長自らがこの心理的安全性を職場に作る努力をしていただきたいものです。これで定着率、生産性が上がるならやってみる価値はあるはずです。
【心理的安全性をつくる】
1.リーダーの振る舞い・考え方
・人としてしっかりと対話を。話を聞く。権力で押さえつけない。
2.場のルール
・奨励すること、しないことをハッキリさせる
奨励→助け合い、プラスの発言
NG→誹謗中傷、利己主義、遠慮して言わないこと
3.評価の軸
・数字オンリーから個人の成長へ
・行動、新しいことへの挑戦
川村透かわむらとおる
川村透事務所 代表
「ものの見方を変える」という視点の転換を切り口に、モチベーションアップ、チームビルディング、リーダーシップ、コミュニケーション、問題解決など様々なテーマで講演、研修を行う。自身の体験と多くの研修・講演…
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