2月に行われた愛知県知事選、名古屋市長選、そして名古屋市議会の解散を問う住民投票のトリプル選挙。結果は河村たかし前市長が圧勝で再選を果たし、市議会も解散されることになった。また県知事選は、国会議員を辞して河村氏と組んだ大村秀章氏が勝った。
この勢いで3月13日に行われる定数75の名古屋市議選で、河村氏が率いる「減税日本」が過半数を占めれば、民主党、自民党という国政の二大政党とはまったく異なる地方政治が動き出すことになる。
この河村・大村連合と連携しているのが橋本徹大阪府知事だ。橋本知事も「大阪維新の会」という地域政党を立ち上げ、大阪府議会、大阪市議会、堺市議会での過半数確保を狙っている。橋本知事が打ち出しているのは「大阪都構想」だ(愛知の大村知事も中京都構想を語っている)。
この大阪都構想の基本的な問題意識は、人口260万の大阪市は果たして住民サービスの主体として適当な規模であるのかということにある。規模が大きいということは、行政府と住民の距離が大きいということだ。住民の個々の声はなかなか行政府に届きにくくなるし、行政府の出先窓口(大阪で言えば○○区長である)は住民の側よりも中央すなわち市長のほうを向いて仕事をしがちになる。次の異動でよりよいポストを得るためには中央で評価されなければならない。中央の評価と住民の評価は必ずしも一致しない。
だから橋本知事は、大阪市を7つか8つの特別区に分けるという大阪都構想を打ち出した。これによって広域の行政については都、住民に密着した行政は、選挙で選ばれる区長と区議会が担うというのである。大阪市の平松市長はもちろん反対している。大阪市長の権限が縮小されるのだから当然といえば当然である。
私が住んでいるのは横浜市だが、ここは大阪のほぼ5割増の368万という人口を抱えている。そして身の回りを見ると、生活道路の悪さが目立つ。幅も十分ではなく、何と言っても車道と歩道が分離されていないところがあまりにも多い。車の通行にびくびくしながら保育園に子ども預けに行く親も多い。そんな道路があるのが新横浜の裏側だ。表側は何とか格好がついてきたものの、裏は取り残されたまま。とかく役所は規模が大きくなると、細かいところに目が行き届かなくなる典型例であるように思える。
いずれにせよ大阪の橋本知事は基礎自治体は人口20万とか30万であるべきだと考えているようだから、もしこれで大阪府議選、大阪市議選で維新の会が勝てば、ひょっとして実現しないとも限らない。もしそれがうまく行ったら、政令指定都市を抱えた県や府は、場合によっては都構想を目指すというような動きが出るかもしれない。
基礎自治体は大きくすべきではないと考える理由はもう一つある。人口が10万の市と100万の市を比べてみれば明らかだろうが、選挙に立候補する人が住民と密に接することができるのはどちらだろうか。当然、人口が少ないほうが接触頻度は高い。高くなればなるほど、住民は地域の問題を自分たちの問題として考え始めるチャンスがあるということだ。
日本の場合、もともと地方自治といっても、実態はお粗末なものだ。地方が自分たちの意思に基づいて行政の長を選び、地方議会を選んで政策を実行することが本来の姿だとすれば、ほとんどなきに等しい。中央の役所に政策も資金もコントロールされているからである。さらに地方議会は行政側が提案したものを追認するだけというのが役割であり、政策立案能力もなければ、政策チェック機能も果たしていない。朝日新聞の調査によると、この四年間で議員提案の政策条例を何本制定したかという問いに0と答えた市町村が91%にも達した。首長提案の議案を修正したことがない議会も半数に達する。そして議案に誰が賛成したのか、反対したのか、それを公開していないところが84%だ。つまり住民は議会の公聴会にでもいかない限り議員の活動を知ることができないということである。
河村名古屋市長は言う。議員報酬が高いから議員を生業として世襲で行うという人がいる。実際の活動日数はそれほど多いわけではないのだから、市民の平均年収並でいいのではないか。その一方で、小さな市では議員報酬が非常に少なく、他の仕事と掛け持ちでなければ生活できないケースもある。いくらが適当かは一概には言えないとしても、ローカルの議員にはボランティア的な要素がもっとあってもいいかもしれない。
こういった動きが今年を起点に大きなうねりになってくると、もはや時代後れになってしまったかのような民主党や自民党の在り方にも変化が出てくるかも知れない。それを占うのがこの四月の統一地方選である。選挙ばかりが多くて国政が前に進まないという感じはあるが、この統一地方選はちょっと期待をもって注目してみたいと思う。
藤田正美ふじたまさよし
元ニューズウィーク日本版 編集長
東京大学経済学部卒業後、東洋経済新報社にて14年間、記者・編集者として自動車、金融、不動産、製薬産業などを取材。1985年、ニューズウィーク日本版創刊事業に参加。1995年、同誌編集長。2004年から…
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