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コラム 政治・経済

2012年01月05日

2012年は「先楽後憂」の年?

欧州を揺るがす債務危機。長期的な対策としては財政赤字の縮小を義務づけ、毎年の予算についてEU(欧州連合)が監視するという方向が決まった。しかしこれで欧州経済の問題が解決したわけではない。

ひとつは累積債務に悩むいわゆる周縁国(とりわけギリシャやイタリア、スペインなど)が緊縮財政に舵を切っている結果、どうしても景気には悪影響が出る。増税と財政支出カットが同時にやってくるわけだから無理もない。

もちろん折にふれて金融市場ではイタリア国債、スペイン国債、ときにはフランス国債まで売り込まれることがあるだろう。弱気と強気が交錯する市場はヘッジファンドの稼ぎどころだ。もちろん、こうした国の実態は徐々に悪くなっていくだろうから、大手金融機関はここから手を引いて例えばアジア市場、あるいは困ったときのドル市場に流入していくことになる(ついでに言ってしまえば円高という基調に大きな変化はないと思う)。

欧州が景気後退に陥れば、当然のことながら欧州への依存度が比較的高い中国の成長率がスローダウンすることになる。もちろん中国の場合は内需の懐がまだ深い、つまりは成長余地があるということは言えるが、それでも世界経済に足を引っ張られることは間違いあるまい。その他のアジア諸国も概して同じ動きとなるだろう。眠れる巨象インドは高いインフレに悩まされているが、それでも金融引き締め政策を転換した。それだけ景気の先行きに不透明感があるということだろう。

アメリカの足取りも重い。失業率は少し低下してきたようにも見えるが、年末にかけては季節要因もあるから油断はならない。オバマ政権の中流に手厚くする政策のひとつ給与減税は何とか2カ月だけ延長になったが、風前の灯火。減税がなくなれば当然、消費は落ちるだろう。それに2008年以来、米政府は巨額の財政支出をすることで景気を支えてきたが、政府の債務額が上限に張り付くのが常態化している。しかし景気の自律回復というにはいまだほど遠く、FRB(連邦準備理事会)は量的緩和を当面続ける予定だ。

こうした中で日本は、震災復興の3次補正予算が効いて、2012年前半は成長率が比較的高くなるのではないかと予想されている。例えばOECD(経済協力開発機構)が出した見通しでは2011年が若干のマイナスであるのに対して、2012年は2.0%と高い。もっともこれが経済自律的な回復というわけではなく、いわば「震災特需」だから当然その勢いは衰えるだろう。

問題はその先なのである。韓国や中国の台頭が日本の産業にとって必ずしもマイナスばかりというわけではないにせよ(設備や部品はやはり日本が供給し続けるからである)、日本企業が海外に生産拠点を立地するようになる影響は大きい。円高がしばらく続く(欧米のバブル処理が終わっていないことが金融危機を招いているとすれば、当面、日本円への資金流入が続くと考えられるからだ)とすれば、企業も日本から輸出を続けることを諦めざるをえなくなるからである(その上、FTAやEPA、TPPといった自由貿易協定で後れを取れば、関税面から考えても日本企業が日本で生産を続ける意欲は薄れるに違いない)。

こうした中で2012年には何としても「成長戦略」を具体化しなければならない。それは日本が抱える巨大な債務を考えても、いちばん必要なのが経済成長であるからだ。もちろん歳出カット、増税というのも債務を減らす手段ではあるが、両者とも景気には悪影響を及ぼす。それに歳出カットと言っても、巨額の社会保障関連費(年間で30兆円弱ほど)はそう簡単に抑えることはできない。むしろ毎年1兆円ずつ増えてしまうのである。

来年の景気が「先楽」であるうちに、経済成長目標を掲げ、そこにどうやっていたるかの道筋を示すことが野田内閣の最優先課題だ。そしていちばん限られているのは時間なのである。それは日本の公的な借金がGDP(国内総生産)の2倍に達しているからだ。今のところ、1000兆円の借金のほとんどは国内で賄われているだけに、海外の投資家から売り込まれるということはないが、国内で賄いきれなくなるのは目前に迫っている。個人金融資産は1500兆円あるが、ネットでは1000兆円とされ、ほぼ公的債務と見合ってきた。

もし海外の投資家にも日本の国債を買ってもらわなければならないような事態になれば、市場の動向によって日本の借金コストが振り回されるようなことにもなりかねない。消費税増税は前回のこのコラムでも書いたようにひとつの選択肢ではあるが、これだけで足りるわけでもない。

成長戦略を描くこと、そしてそれを具体化すること。それができるかどうかで、2012年の後半が明るくなるかどうか分けると思う。

藤田正美

藤田正美

藤田正美ふじたまさよし

元ニューズウィーク日本版 編集長

東京大学経済学部卒業後、東洋経済新報社にて14年間、記者・編集者として自動車、金融、不動産、製薬産業などを取材。1985年、ニューズウィーク日本版創刊事業に参加。1995年、同誌編集長。2004年から…

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