総選挙に向けて、少数政党が乱立している。戦後、長期にわたって政権をほぼ独占してきた自民党。その賞味期限が切れて登場してきた民主党は、残念ながら仮免さえ合格できずに終わってしまった、と言っては言い過ぎだろうか。
民主党議員は「自民党時代には絶対できなかったことをやった」と強調する。たとえば高校授業料の無償化や子どもの養育に関する支援などを挙げる。もちろんそれは民主党の成果だろうと思う。野田首相が3党合意してようやく実現した消費税引き上げは、マニフェストに書いてなくても、やらなければならないことだった。
しかし、民主党は肝心要の党内ガバナンスで失敗した。およそ組織の態をなしていない。その証拠はまだ参院がねじれる前でも史上最低の法案成立率だったことと、相次いだ離党者である。民主主義は究極的には数の論理なのだから、数を減らしては負けである。それなのに民主党執行部は、2009年の地滑り的勝利をほぼ失い、今回の総選挙では党の方針に従うという誓約書を書かせて公認しようとしている。
異論はあっても党の方針に従えということは、政治の最も重要な機能である「説得」ということをないがしろにしかねないものだと思う。党内ですら説得できないものが、何で国民を説得できるだろうか。小泉純一郎首相は、国民に対して問題点を簡潔に訴え、高い支持率を得た。その支持率を背景に党内を説得し、長期政権を維持した。
今の民主党には党内の説得ももちろん国民への説得も欠けている。たとえば原発。原発をどう考えるか、基本的な原理原則が党にないから、国民の意見を聞くという体裁を取った。結果的に、政権が考えていた落としどころに落ちず、原発ゼロを選択せざるをえなくなった。しかし2030年代に原発をゼロにするという方針を閣議決定することはできなかった。日本の原発政策を懸念するアメリカから圧力がかかったからだと伝えられている。
日本は、世界の原子力産業の重要なベンダーの役割を果たしている。東芝がアメリカのウエスチングハウスを買収できたのは、日本に対する「信頼」の結果でもある。もし中国企業が買収しようとしていたら、米政府は拒否しただろう。核保有国以外で使用済み核燃料の再処理を認められているのも日本だけだ。日本が核物質を軍事用に転用しないと認められているからである。
その日本がもし原子力から撤退するとすれば、その技術がどこかよその国に流れないか心配するのは当然だ。日本の原子力技術者が、将来性のない(廃炉やゴミ処理しか仕事のない)日本にとどまって仕事をすると考えるほど、米政府はお人好しではない。
そうであれば、人材をどう確保するのか、外国をどう説得するのか、国民をどのように説得するのか。ソフトランディングを目指して、野田政権は懸命に考えなければならなかった。そこに失敗した結果、2基が稼働しているだけで、48基は何のめども立っていない。一方で、青森県の大間では新しい原発の建設が進んでいる。使用済み燃料の再処理施設も建設は続行中だ。高速増殖炉もんじゅも巨額の維持費を使い続けている。そしてまた東電に続いて関電も料金値上げを申請した。
難しい問題は、原発だけではない。TPP(環太平洋パートナーシップ協定)や領土問題、そして何よりも社会保障や経済対策。そうした大きな問題では、党内の議論ですら容易にはまとまらないのが常である。だからこそ、できるだけプロセスを透明化して、国民の前で議論をすることで、自民党時代の密室政治を変えられたはずだ。
民主党がそれに失敗した今、有権者はどこに政権を任せたものか、悩んでいる。首相になってほしい人物として自民党の安倍総裁の「支持率」が3割に満たないところに、国民のフラストレーションが見える。もちろん、維新などいわゆる第三極はまだ海のものとも山のものとも分からない。
2005年の郵政解散、2009年の政権交代と政治が熱気を帯びた選挙から一転して、今年の総選挙は、選択肢のない選挙ということになりそうだ。これは日本にとって非常に不幸なことであり、その責めは民主党が負わなければならないと思う。
藤田正美ふじたまさよし
元ニューズウィーク日本版 編集長
東京大学経済学部卒業後、東洋経済新報社にて14年間、記者・編集者として自動車、金融、不動産、製薬産業などを取材。1985年、ニューズウィーク日本版創刊事業に参加。1995年、同誌編集長。2004年から…
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