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コラム 政治・経済

2013年11月05日

アメリカ、中国、インド、ユーロ、海外のリスクに目を向ける

鉱工業生産指数が上昇して、日本の景気判断はさらに上向きになる。9月中間決算は株価が上昇した影響が大きく、増益企業が増えている。こうしたことを受けて、気分は何となく明るくなっているようにも見えるが、実際はどうだろう。

少なくとも、日本の周りでは楽観ムードがあるようには見えない。アメリカは何とか回復軌道に乗っているように見えるが、毎月発表される指標は、強弱が混在していて、とても順調とは言えない。いつ超緩和を縮小するのか注目されている米FRB(連邦準備理事会)は10月も資産買い入れ規模を縮小しなかった。バーナンキ議長が来年1月に退任するのを控え、イエレン現副議長が後任議長に指名されたが、イエレン氏もいわゆる「ハト派」、つまりは「緩和縮小慎重派」である。アメリカの経済指標とりわけ労働関連指標が確実に回復に向かっていることを示唆しない限り、現在の金融緩和が続くということになるのかもしれない。逆に言えば、現在のアメリカの回復力はそれほど強くないということである。

中国は勢いを取り戻しつつあるとはいえ、シャドーバンキングの問題はまだ解消されているとは言えない。シャドーバンキングとは通常の金融ルートではない金融だ。貸し手は一般企業や個人、借り手は地方政府。その仲介をしている企業は金融機関の関連会社だったりするが、金融機関が通常持っている元金保証などの機能はない。そして地方政府はその資金を地方の開発(住宅や工業団地、インフラなど)に使っている。本来は外国企業も含め、新しい投資を誘致するためのものだったが、いま企業は中国進出に二の足を踏んでいる。人件費が高くなったこと、中国政府が外資系企業に対して厳しい目を向けるようになったことなどが原因だ。もしこのシャドーバンキングが、返済不能になったりすると、中国経済は大混乱に陥る可能性がある。中央銀行は、この金融を引き締めるために市場への資金供給を絞ったりするが、そうすると銀行間金利がはね上がるため、かなり難しい綱渡りを強いられている。

もう一つのアジアの大国、インドはしつこいインフレを抑えるために、金利を引き上げざるをえなくなった。インフレ率が上昇しているのは、通貨ルピーが安くなっていることが大きな理由だ。外貨がインド市場から逃げ出しているのである。今でも、インドは二桁成長が可能という発言も聞こえるが、少なくともIMFは見通しを大きく下方修正し、今年度は3.8%、来年度は5.1%としている。

さらに心配なのがユーロ圏だ。昨年までのいわゆるソブリン危機(ある国が借金できないような状況)は一段落している。しかし企業や家計の過重負債はいまだに解消されていない。ECB(欧州中央銀行)は、主要行128行の財務内容の検査を始めた。これらの銀行を、健全な銀行、資本注入が必要な銀行、つぶしたほうがいい銀行として分けるためである。しかし自分の国の銀行をつぶしてもいいと考える国はあるまい。いくら来年からECBが一元管理するとはいえ、銀行がもし倒産すれば、それぞれの国の政府にとって経済運営に支障をきたすのは当然である。

財務内容が悪いのは銀行だけではない。企業や個人も同様だ。日本でも1990年にバブルがはじけて以来、債務の返済に企業も個人も取り組んだ。その結果、企業や個人のバランスシートはよくなったが、経済は停滞した。いわゆるバランスシート不況である。英語では「借金返済不況とか借金返済デフレ」とか言われる。イギリスはやや強引にこの調整を行って、リーマンショック以降に2番底、3番底をつけたが、このところ急速に回復に向かっている。バランスシート調整を先延ばしにしてきたところは、これから厳しい局面になるかもしれない。

このような海外の情勢を考えると、アベノミクスだけで論戦をするのはやや空しくも思える。すべてが悪いシナリオになると考える必要はないだろうが、それでも都合のいいシナリオばかり考えるわけにもいくまい。そんな危機管理がいざというときには役に立たないということは、2011年3月に政府や自治体、企業は経験したことだ。

藤田正美

藤田正美

藤田正美ふじたまさよし

元ニューズウィーク日本版 編集長

東京大学経済学部卒業後、東洋経済新報社にて14年間、記者・編集者として自動車、金融、不動産、製薬産業などを取材。1985年、ニューズウィーク日本版創刊事業に参加。1995年、同誌編集長。2004年から…

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