安倍政権2年目に突入した。最初の1年は上々の滑り出しだったと思う。日銀総裁に積極緩和派の黒田東彦氏を起用し、「異次元の金融緩和」を実現した。そのおかげで株は高くなり、円が安くなって輸出企業を中心に収益が大幅に好転した。そして需要不足(需給ギャップ)を支えたのが、就任直後に策定した補正予算だった。GDP(国内総生産)の2%を超える規模の財政支出である。これで景気悪化を反転させたのである。
しかしこの2つの政策は持続的に実行できるわけではない。日銀が無限に国債を買い入れることができるわけではない。もしそれが財政ファイナンス(中央銀行がお札を刷って政府に資金を供給する)と受け止められれば、市場は日本国債を売り、長期金利は急騰することになるだろう。実際、外国系のヘッジファンドは常に日本国債の「売り」を狙っている。これまでは彼らの思惑どおりには行かなかった。それでもこれからも同じであるという保証はどこにもない。もし日本国債が売られれば、長期金利は高騰する。円は安くなって外からの物価上昇圧力も高まる。これは景気が好転したときの「良いインフレ」ではなく、悪いインフレだ。
もう一つの柱である財政による刺激は、国の債務がGDPの2倍という状況では財源を確保しないかぎり難しい。それこそ民主党が主張していたような「予算の組換え」でもやらなければ、すぐに首が回らなくなる。実際、2014年度予算案でも、社会保障関連費用は40兆円を超えた。ここは構造的に膨らむ項目だから、国の予算はどんどん身動きがつかなくなっている。だからこそ成長戦略が重要なのだが、規制緩和などを盛り込んだ成長戦略はいまだに概要が示されているに過ぎない。
それに何と言っても、世界経済もまだまだ不安定なのである。ユーロ圏は銀行の不良債権をめぐって一波乱ありそうだし、中国も不気味な動きを見せている。ECB(欧州中央銀行)は、加盟国の銀行検査を一本化することで、金融の安定を図るのだが、その前提は銀行の資産が健全であることだ。それを確認するための検査だが、もちろん不良債権にまみれた「ゾンビ銀行」が存在する。それが検査で明らかになり、資産の健全化を図らなければならない。そこまでは誰も反対しないが、その資本注入を誰がするのかという問題がある。たとえばスペインの銀行に資本注入しようにもその資金を出すのは誰なのか。政府にそんなお金があるわけもないし、市場で借りようにもそもそもソブリンリスクのある国なので資金調達は思うようにはいかない。しかしもし当該銀行を潰したりすれば、ユーロ圏全体ではいいことでもその国にとっては少なくとも一時的にマイナスである。それだけの政治リスクを取れる政権がどれだけあるだろう。
中国の問題はやはり理財商品と呼ばれる正常な金融ルート以外の融資だ。残高は160兆円を超えるとされるが、見方によってはもっと多いかもしれない。その資金を出したのは、国有企業や個人投資家である。国有企業は銀行から借りたお金を利回りが大幅に有利な理財商品で運用しようとしたのだ。
そのお金の行き先は、主に地方政府だ。地方政府は経済発展の実績を上げるために、農民などから土地を取り上げ、それを住宅開発などに充てた。もちろん住宅に入る人々がいるときはよかったが、企業の設備投資がスローダウンするとたちまち全体計画が齟齬を来したのである。工事は中断し、人が住まない高層アパート群ができあがった。要するにバブルのつけである。このため中国の中央銀行は資金市場に流すお金を絞ろうとした。バブルを潰すためである。しかしそうなると金利が急騰し、結果的に普通の銀行の資金繰りが苦しくなる。絞りたいという意思と普通の銀行を苦しくさせてはならないというジレンマに襲われていると言い換えてもいい。
もちろんこの「バブル」がはじけることなく静かに萎んでくれればそれに越したことはない。しかしこれまで膨らんだバブルは弾けるのが常である。
もし中国のバブルが弾ければ、急激に起きるのは信用の縮小だ。それは企業活動にもろに影響する。いわゆる貸し渋り貸し剥がしだけでなく、貿易金融も減少するだろう。それは2008年に起こったことでもある。中国に進出している日本企業は大きな打撃を受けるに違いない。
こうした内外のリスクを抱えながら、日本経済が進むためには、何と言って成長力を上げることだ。それを生み出すのは規制緩和と貿易の促進、そして資本の投下である。規制緩和では主にサービス業を成長させることが主眼となるだろうし、資本投下では企業が日本で設備をつくるインセンティブを与えなければなるまい。さしずめ必要なのは実行法人税率の引き下げだ。そのほかにも外資を中心に免税や減税などの特典を用意する必要があるだろう。そうした手を打てるかどうかによって、4月の消費税引き上げのショックを吸収できるかどうかが決まってくる。
藤田正美ふじたまさよし
元ニューズウィーク日本版 編集長
東京大学経済学部卒業後、東洋経済新報社にて14年間、記者・編集者として自動車、金融、不動産、製薬産業などを取材。1985年、ニューズウィーク日本版創刊事業に参加。1995年、同誌編集長。2004年から…
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