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コラム 政治・経済

2014年06月04日

「大国」中国とどう向きあう

いま世界経済にはいろいろなリスクがある。ウクライナ危機、中国関連リスク、それに欧州経済だ。

中国のリスクはいくつかの側面がある。まず東シナ海では尖閣諸島をめぐる日本との軋轢。そして南シナ海では島の領有権や海洋資源開発をめぐるフィリピン、ベトナムとの紛争。そして国内では新疆ウイグル自治区などでの爆弾テロ事件の原因となっている少数民族問題。もう一つが、不動産価格下落に伴う金融リスクである。

6月初めシンガポールでアジア安全保障会議が開かれた。ここで安倍首相は、南シナ海の紛争においてフィリピン、ベトナムを支持し、中国を暗に批判した。続いてアメリカのヘーゲル国防長官は、中国を名指しで批判した。中国はもちろん猛然と反発したが、日米対中国という対立軸が明確に浮き上がったのは事実だ。

中国がなぜそのように外部で敢えて対立しようとするのか。尖閣をめぐって日本と対決し、一方で南シナ海でベトナムやフィリピンとの対立を鎮静化させておけば、日本への同情は少なくなるはずだ。日本にしてみれば、アジアでの孤立を避けるために、安倍首相がASEAN諸国に訪問し、さまざまな協力関係を築こうとしてきたという経緯がある。

それなのに、中国は敢えてベトナムとの「了解事項」を破ってまで石油掘削リグを、紛争のある海域に据えてしまった。こうしたことを見ると、中国の指揮命令系統が一本ではないという合理的な疑いが生じる。いかに内憂を抱えているときには、国民の目を外にそらしたいものだという解説があっても、敢えてアメリカまで巻き込む可能性があるのに南シナ海で新たな「事態」を引き起こしたのか。

ベトナムとはパラセル諸島(西沙諸島)をめぐる領有権紛争があることは中国も認めていたはず。しかし、それでも周辺海域での資源開発はできるという取り決めがあり、それをするときにはお互いに協同でやることも決めていた。それなのに単独でリグを据えたために、ベトナム側が激怒したのだ。東シナ海の日中中間線でのガス田開発も協同でやると言ったのに、中国が単独で開発しているのと同じ構図だ。

それだけ自信を深めているということなのかもしれないが、南シナ海の問題についてアメリカや日本がどう口を挟んでくるかを見極めたいということだったのだろうか。そして例えば、制裁ということにでもならない限り、「やり得」ということだろう。

南シナ海は中国にとって「核心的利益」というのが中国側の論理だ。それは資源開発ということだけではない。南シナ海は中国が輸入する食糧や資源の輸送路として、それこそライフラインなのである。もちろん日本にとってもライフラインだ。その状況は日本が近代国家になってずっと変わらない。だから第二次大戦で日本軍は南下作戦を採用した。資源を確保するためである。

原則的に資源も含めて自給自足であった中国は、いまや資源の輸入国となり、そのルートを確保する必要性を感じるようになった。かつて日本でもシーレーン防衛ということが言われたが、海上保安庁にも海上自衛隊にもその能力もなく、また東南アジア諸国の反発も恐れて、立ち消えになったことがある。それに日本にとっては、南シナ海周辺諸国が「仮想敵国」であるわけではない。しかも米軍が基本的に安全を担保しているという状況は、日本にとっては望ましい。

しかし中国にとってはそうではない。アメリカと何らかの形で対立する可能性はあり、そのときに南シナ海を押さえられてしまえば、中国は干上がる。第二次大戦前の日本に対するABCD包囲網と同じことだ。だからできるだけ自分の勢力範囲を拡大しようとする(ロシアがウクライナを勢力範囲下に置きたいと考えるのと似ている)。

その意味で、世界最大の経済大国になることが見えている中国は、南シナ海で絶対に妥協することはないし、尖閣で譲歩することもない(経済が減速し、国内で矛盾が吹き出すような状態になれば話は変わってくるが)。

そうした中国と今後、どんな形で向きあっていくのか。経済的な相互依存度も高いだけにそう簡単ではないが、もはや今までの延長線ではいけないことだけははっきりしている。

藤田正美

藤田正美

藤田正美ふじたまさよし

元ニューズウィーク日本版 編集長

東京大学経済学部卒業後、東洋経済新報社にて14年間、記者・編集者として自動車、金融、不動産、製薬産業などを取材。1985年、ニューズウィーク日本版創刊事業に参加。1995年、同誌編集長。2004年から…

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