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2014年12月05日

顧客を満足させることこそ

家で使っていたiMacが壊れた。使い始めて1年程度しかたっていない。何台ものMacを使ってきたが、ソフトではなく、ハードが壊れたのは初めてである。壊れたのはヒンジの部分。ちょっと動かしたときに、ピキーンという甲高い音がして、ディスプレイが固定できなくなり、お辞儀してしまう。しばらくは後ろに厚い辞書を置いたりして使っていたが、どうにも不便というわけでAppleのサポートに電話した。

詳しい経緯は省くが顧客として見たとき、実に素晴らしい対応だったと思う。感心したのは、何と言っても素早さである。マシンを修理に出すことにして、ヤマト運輸が受け取りに来るという。本体だけを出せばよく、電源ケーブルも含めて付属品は一切必要ない。もちろん箱も必要ない。保証書も必要ない。Appleに登録してあるマシンで、かつアフターサービスにも入っているからだ。

ヤマト運輸が来た。iMac用の専用ケースがあり、それに入れて運ぶのだという。荷物を出したのは土曜日の夕方だった。平日は何かとパソコンを仕事に使うことが多いから、土曜日に出すという選択しかなかった。まあ翌週の半ばすぎに戻ってくると思っていた。仕事は古いパソコンが残っているから、それで代用すればいい。

日曜日、製品を受け取ったというメールが来る。症状を確認して修理にかかるという。その日のうちに、修理が終わって、返送するというメールが来た。そしてマシンが戻ってきた。月曜日の午後4時だ。48時間で修理センターまで行って、修理されて、返されたのである。しかもヒンジの部分を直しただけでなく、画面にシミが認められた(若干あることは承知していたが、気になるほどではなかったため何もクレームはつけていなかった)ため、画面を交換したという。そしてすべて保証の範囲内であるから無料であるとの連絡もあった。

無料というのは保証契約を結んでいるので当然という気もするが、この48時間という時間は想像もできないスピードである。もちろんこのサービスを可能にしているのはヤマト運輸が営々と進化させてきた宅配便があるからだ。

日本の大企業はどうか。ヤマトなどに受け取りに来させるというところは同じでも、配送料金をどちらが負担するのかがまず引っ掛かる。某T社の場合、修理に出しても、見積もりが高すぎるような場合は返送するが、その手数料はたしか2700円だった。その内訳は聞かなかったが、宅急便の送料(往復)と若干の手数料ということなのだろう。

2万円台で買った製品を修理すると2万5000円だという。これでは修理する意味がない。しかたなくその会社の品物を買い続けた。テレビがよかったために、その後の周辺機器もすべて某T社製になったのである。気になるのは、まずは修理のべらぼうな高さ。もっとおかしなこともあった。その機械はBDプレイヤー・ライターだった。家でファームウェアの更新をしようと思ったが、できなかった。それで修理センターでやってくれないかと頼んだ。機械をインターネットにつなぐだけの話だ。答は「やってもいいが7000円かかる」。それを聞いて止めてしまった。

もう一つ、いい例を挙げよう。アマゾンである。アマゾンが得意とするサービスは何と言っても品数の多さ。それになおかつ速い。こんなことがあった。あるBDの機械を買った。翌日午前中に配送され、接続しようとしたら、HDMIケーブルがないと接続できないことが分かった。しかたなくHDMIケーブルをまた注文した。そうしたらその日の夜、届いたのである。

在庫さえあればアマゾンはとにかく速い。アマゾンに出品している販売手から送られてくる場合は、数日かかることも多い。中にはしばらくして注文の品が入荷しないので、キャンセルしますなどという例もあった。

この両者に共通するのがヤマト運輸であるところも興味深い。そして三者に共通するのが、顧客の満足度をいかに上げるかという努力である。Appleはアフターケアが悪いということで「有名」だった時代もある。アマゾンはあんな在庫管理でいつまで続くのかという陰口もあった(今でもある)。ヤマトが開拓した宅急便というビジネスは、当初は悪口ばかりだった。後に多くの会社がそのビジネスに参入したが、ヤマトとの競争に勝った企業は今のところない。

顧客満足度を上げるために、ビジネスのやり方を点検し、常に向上させる。それが一昔前は日本企業の特長だったように思う。しかし今はアメリカのITを代表する会社が顧客満足度を上げている。他にもお掃除ロボットを開発したiRobotの社長も「日本人顧客を満足させられれば、世界で通用する」と語っている。日本の家電業界が凋落した背景の一つに、顧客を満足させることを忘れたという面はなかっただろうか。

藤田正美

藤田正美

藤田正美ふじたまさよし

元ニューズウィーク日本版 編集長

東京大学経済学部卒業後、東洋経済新報社にて14年間、記者・編集者として自動車、金融、不動産、製薬産業などを取材。1985年、ニューズウィーク日本版創刊事業に参加。1995年、同誌編集長。2004年から…

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