1月25日、ギリシャで総選挙が行われた。そして政権党が負け、急進左派が勝った。争点となったのは、EU(欧州連合)やECB(欧州中央銀行)、IMF(国際通貨基金)がギリシャを支援する条件とした緊縮経済政策を止めるかどうかである。
緊縮政策をやめ、支援条件の見直しをEUなどと協議すると主張したのは野党である急進左派。チプラス党首は勝利が明らかになった後、こう語った。「わが政権は、現実的な財政再建策についてEUなどと協議するが、これまでの支援条件(緊縮政策の実行など)は反故にする」
もちろんギリシャの要求がすんなり受け入れられるはずはない。もともとギリシャはユーロ加盟の条件(財政赤字の上限や国の債務の上限など)を満たしていなかったのに、「粉飾決算」によってパスしてしまった(それを指導したのはアメリカの投資銀行ゴールドマンサックスである)。それだけにさらに支援することにドイツを始めとする「優等生国」が猛反対したという経緯がある。
今回のギリシャの総選挙前にもドイツでは「ギリシャのユーロ圏離脱容認」という議論があり、メルケル首相も以前とは変わって、容認すると匂わせたこともある。もちろんギリシャ国民への「牽制」のつもりだっただろうが、結果的にはその牽制球もあまり効果がなかった。
ギリシャがユーロを離脱する(もともとの通貨ドラクマに戻る)と言っても、そう簡単ではない。交換レートをどうするのか、あまり対ユーロで安く設定すると、ギリシャが抱えているユーロ建て債務の返済額が膨らみ、それこそデフォルト(返済不能)という可能性も出てくる。
離脱せずにギリシャに対する支援条件を見直し、債務の切り捨てに応じるというのも難しい話だ。当然、他の国、スペインやポルトガル、ひょっとするとイタリアなども債務減額を要求するかもしれない。それはフィンランドなどにとっては到底受け入れられないだろう。
ギリシャがユーロを離脱するにせよ、デフォルトにせよ、ユーロ加盟国としては初めてのことであり、それがどのように世界の金融市場を揺るがすのかはあまりよく分かっていない。なかにはリーマンショックをしのぐということを言う向きもあるが、銀行間の信用が急激に縮小したリーマンショックほどのことは起こらないだろう。
それでも先進国中央銀行の「量的緩和」によって、世界的に資金がだぶついており、その資金が少しでも有利な条件を求めて世界を徘徊している。アメリカのFRB(連邦準備理事会)やイングランド銀行は、金融調節手段を非伝統的な手段から伝統的手段(金利の上げ下げ)に戻そうとしているだけに、基本的にはユーロはジリ安基調になるだろう。
もともとEU(加盟28カ国)にせよ、統一通貨ユーロ(加盟18カ国)にせよ、2回の世界大戦の舞台となったヨーロッパが統一された国をめざして歴史的に壮大な実験をしているようなものだ。そうであれば、実験は前に進めるしかない。EU内にあるそれぞれの「地方」の不均衡を「富の再配分」によってある程度均すということをしなければ、競争力の強い国と競争力の弱い国の格差は広がるばかりだ。それがEUの結束を弱めることは間違いない。
誤解を恐れず敢えて言えば、ドイツが財政赤字を克服しつつあるのも、実は域内貿易で稼いでいるという側面がある。そして域内貿易はユーロ建てであり、その意味ではドイツとギリシャの貿易は「固定相場」で行われているというのと同義だ。為替調整という手段をもたないままギリシャが弱っているとすれば、ドイツにはそれを支援する義務があると言ってもおかしくはない。実際、日本でも都道府県の財政不均衡を再調整する仕組みがあるし、東京都にもそれはある。
もし富める国が貧しき国を支援しないということになれば、この歴史的大実験はほろ苦いショックを残し瓦解してしまう可能性もないわけではない。その時にはそれこそリーマンショックが可愛く見えるほどの大ショックになるのだろうと考える。
藤田正美ふじたまさよし
元ニューズウィーク日本版 編集長
東京大学経済学部卒業後、東洋経済新報社にて14年間、記者・編集者として自動車、金融、不動産、製薬産業などを取材。1985年、ニューズウィーク日本版創刊事業に参加。1995年、同誌編集長。2004年から…
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