電車に乗れば、圧倒的に多数の人がスマホを操作している。中には居眠りをしながらもスマホを握りしめている人もいる。歩きながらスマホを見ている人はもう数え切れない。
ゲームに夢中になっている人も多いだろうが、多くの人はLINEやFacebook、Twitterを読んでいる。知人や友人などとのコミュニケーションに加えて何らかの情報を得ようとしているようだ。しげしげと他人のスマホをのぞき込んだわけではないので、これは印象にすぎない。
天気予報、災害情報、電車の遅延情報などなど、人々が知りたいと思っている情報はいろいろあるだろう。テレビでは放送として流している情報の他に、データとして流している情報もある。しかしスマホの簡便さに比べたら、テレビは太刀打ちできない(ネットにつながったテレビなら多少は違うかもしれないが、あの文字入力のしにくさは使い物にならないと思う。わが家のテレビが時代後れなのかもしれないが)。10代、20代では、テレビとネットの利用時間はほとんど同じか、ネットのほうが長い。
そして世の中には情報が溢れている。全世界の情報のかなりの部分はネットで流れているが、そのうち普通の人の目にとまるのは全体の中のどれくらいだろう。1億分の1? 10億分の1? もっと少ないだろうか。自分にとって有用な情報を集めるというのはかなり大変なことだ。上手にネットを使える人と、上手に使えない人では、決して埋められないほどの差があるだろう。
これだけ光ファイバーが日本全国に張り巡らされ、これだけWi-Fiが普及し、携帯の電波も着実に速くなっているというのに、実はその状況についていってない所もある。ある日本海側の都市に行ったときのことだ。宿泊施設で「インターネットは?」とたずねた。「ありません」と言う。「部屋にはなくてもロビーでWi-Fiが使えるとか?」と重ねて聞くと「ネットの設備は一切ない」との答えだった。しかも最悪なことに携帯も圏外。すなわち完全にネットから切り離された状態に置かれたのである。この施設はもともと簡保の宿。それを地元が買い取って研修などに使っているのだという。ただの旅館というわけではないのにこの体たらくだ(先日、やはり日本海側のある都市で泊まった温泉旅館は部屋でWi-Fiが使えた。温泉旅館では比較的珍しいかもしれない)。
それでいて、町の有力者は「やはり東京に行って情報収集をしないと」などと言う。もちろん面と向かって情報収集することを否定するつもりはない。それも大事だろう。有力な政治家と面談することも重要だ。しかしネットを使えば、もっと広く、外国情報もふんだんに集められる。自分たちの町の運営、町の産業に関しても外国から参考例を探すことだって可能だ。
どんな情報が自分たちに必要なのか。それをもう一度見直すことをしていないという感じがする。ある銀行関係で講演したときだ。その銀行の幹部はお客である企業経営者に向かって「皆様の資金は我行がしっかり面倒を見ます」と言った。しかしお客である経営者が欲しいのは、実はお金よりも情報なのだということをある経営者は語ってくれた。
自分の会社の納入先である企業は、今後の生産計画をどう練っているのか。海外進出と言っても、それはどこなのか。今さら中国でもないし。タイに工場を持っていったら、製品の精度が一桁さがってしまうのではないか。工場からの輸送はどうするのか。従業員を雇うときにどうしたらいいか。宗教はどう扱うべきなのか。そういった情報をいろいろなところから集めたい。中小企業にとって、一つの情報源は明らかに銀行なのである。
しかし当の銀行マンたちの多くがそういう情報を持っていない。あるいは持たなければいけないという意識が薄い。
アメリカのテレビドラマと日本のテレビドラマを見比べると、情報意識の差は歴然としている。アメリカではアクションドラマであっても情報分析官が重要な役割を演じる。分析した結果を現場に伝えることで、現場が的確な判断をできるようにするのである。
個人情報というとメディアも含めて敏感なのに、情報分析というと反応が鈍い。今の世の中、ネットとコンピュータがあれば相当の情報を取ることができる。しかもコストをかけずに手に入れることができるものだけでも相当量ある。外国語にまで幅を広げればそれこそ読み切れないほどの情報が手に入るし、元データに当たることも可能だ。
これからの企業経営にとって、どういった情報を分析してどういう結論を導き出すかが会社の業績を左右する。なぜなら経験則がなかなか通用しない時代に入っているからだ(たとえば少子高齢化で人口減少社会がどのような姿になるか、これは例のないことだから過去に学ぶことができない)。
世界にある有用な情報を選り分け、それをどう利用するか、それは経営者の意識次第だと思う。そして残念なことに、ネットの利用という点で、日本が世界の先進国に比べると周回遅れになっていることは明白な事実だ。
藤田正美ふじたまさよし
元ニューズウィーク日本版 編集長
東京大学経済学部卒業後、東洋経済新報社にて14年間、記者・編集者として自動車、金融、不動産、製薬産業などを取材。1985年、ニューズウィーク日本版創刊事業に参加。1995年、同誌編集長。2004年から…
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