相次いで開かれる主要国の中央銀行や財務大臣の会議。4月24日にはG7の共同声明が発表され、世界経済に安定化の兆しがあると言う。これを素直に信じる人は少ないと思うが、それでも株価はこのところ上がっている。
英エコノミスト誌(4月25日号)によれば、同誌がフォローしている42の証券取引所の3分の2で過去6週間に20%以上値上がりしているという。日本の株価も5月危機とか言われながら、じりじりと値を上げている。
もちろんG7でも景気が下振れするリスクはあるとして、楽観ムードを戒めてはいる。しかし年内に回復に向かう可能性があると言われれば、急激な落ち込みにおびえてきた企業にとっては、それにすがりたくなるのも間違いあるまい。
しかし「回復」といってもそうバラ色というわけではない。だいたい、明るい兆しというのは、回復の兆しではなく、むしろ減速のスピードが遅くなってきたというに過ぎない。昨年のリーマン・ショック以来、金融業界が急速に悪化したことで、世界貿易が急激に減少した。貿易金融がつかなくなるという状況が生まれたからである。貿易が減少すれば当然、輸出企業は生産を落とさざるをえない。それが在庫調整だ。その在庫調整がある程度進んできたために、企業はこれまでの減産の幅を少し緩和する方向に向かっている。それでも減産には違いないのだが、痛みが「緩和」されてきたということだ。
問題は、最終需要がこれで回復へ向かうのかどうかというところにあるのだが、そこはまだ明るい兆しがあるとは言いにくい。たとえばアメリカ。金融危機の発端となった住宅価格の値下がりと住宅ローンの焦げ付きは、住宅価格が下げ止まって反転しなければ、根本的には解決できない。そして住宅価格には下げ止まりの気配があるものの、極端に低迷している住宅市場が上向いているというには力不足であることは否めない。
住宅価格が値上がりしてくれば、またかつてのように家計の消費を促進するということもありうる。景気の回復にはそれが欠かせないのだが、過重な債務を抱えているアメリカの消費者は、当面は自分たちのバランスシートを立て直すのに精一杯だろうと見方をするエコノミストが多い。
それに住宅ローンの問題はほぼ解消されても、今度は商業用不動産の問題が浮上すると警告する向きもある。4月には全米第2位の商業用不動産を保有する会社が連邦破産法11条(日本で言えば民事再生法にあたる)による資産保護を申請した。商業用不動産(ショッピングモールやオフィスビル)に対する景気悪化の影響は少し遅れてくるとされるだけに、これから商業用不動産にまつわる不良債権問題が本格化するという見方もある。もしこうした見方が当たっていれば、アメリカの金融危機そのものが終わっていないということだ。
IMF(国際通貨基金)は2009年の成長率見通しを下方修正した。これで3度目だが、その中で日本の2009年見通しはマイナス6.2%。もちろん先進国中最悪である。
日本は、アメリカやイギリスほど家計が借金を抱えているわけでもなく、企業の在庫調整も急速に進んでいることを考えると、景気回復が最も早くなると理論的には言えそうだが、そうでもない。
これまでの日本は、輸出によって経済成長を果たしてきた。過去20年以上にわたって、日本は内需拡大を求められてきたが、1990年代も、そしてその後も、内需へのシフトは実現していない。それは「円安バブル」に浮かれて構造改革を忘れてきたからである。そして日本の経済政策は、IMFの担当者が「残念ながら、日本の景気対策は手詰まり」と言ったように、将来の日本の姿を想定した財政支出になっていない。そこがきわめて大きな問題なのである。
日本の姿をよく表す数字がある。日本の自動車市場は1990年にピークをつけ、その年、780万台の車が売れた。しかし今、車は500万台程度しか売れない。これは明らかに景気循環の問題ではなく、構造的な問題である。理由はさまざまに議論されているが、要するに、景気が回復に向かうと言っても、日本の場合は過去のピークに向かって戻るというわけにはほとんどいかないということなのだ。
まして日本の人口は減りつつある。人口が減り、そして数の多い団塊の世代が引退して消費を抑えれば、日本の消費は停滞することは間違いあるまい。まして社会保障も抑制されるとか、景気がよくなれば消費税増税ということになると、新たな収入を期待できない引退世代が貯蓄を消費に回すはずがあるまい。
日本に必要なのは、将来ビジョンを交えた景気対策であって、寄せ集めで借金ばかり増やすような景気対策ではない。
藤田正美ふじたまさよし
元ニューズウィーク日本版 編集長
東京大学経済学部卒業後、東洋経済新報社にて14年間、記者・編集者として自動車、金融、不動産、製薬産業などを取材。1985年、ニューズウィーク日本版創刊事業に参加。1995年、同誌編集長。2004年から…
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