東京モーターショーに行った。久しぶりのモーターショー取材だったが、その閑散ぶりには驚いた。出品会社の数は前回の半分、海外メーカーにいたっては、わずか3社。大手は全滅である。韓国の現代自動車はキャンセル料を支払っても出展を中止した。100万人と目論んでいた入場者も、目標には届きそうにないという。
今年上半期の乗用車メーカー8社の生産台数が発表された。国内生産分は373万台、前年同期比32%のマイナスである。9月だけの生産台数は80万台で前年同月比20%減。7カ月連続で減少幅は縮小しているから、「回復軌道」にも見える。もっともエコカー減税などの後押しがあったために買い換えが促進されたということもあり、この回復軌道が「実力」と判断するのは早計かもしれない。一方で海外生産分は493万台と前年同期比で15%減だから、海外は一足お先に回復軌道に乗ったということだ。
この2つのイベントは日本経済の先行きがそう明るくないことを示唆していると思う。東京モーターショーは海外メーカーが日本市場に興味がないということの表れだ。実際、今年4月に行われた上海国際モーターショーには、東京の出展者数が113社だったのに対し1500社も出展していた。理由は明白である。中国の自動車市場が成長市場だということだ。
今年の中国の自動車販売は1000万台に乗せるだろうと思う。単体の市場としてみれば、世界最大になる。これに対して、日本はこのところ500万台の市場だから半分だ(しかも外国車のシェアはわずか3%にすぎない)。これでは海外メーカーが日本から撤退していってもおかしくはない(日本のシェアが大きかったブランドでもベルサーチが撤退したのは象徴的である)。
縮小する国内市場を見捨てる海外メーカーという構図はそう簡単に変わらない。第一、日本のメーカーですら、企業の至上命題である「成長」ということに関しては、国内市場よりも海外市場に目を向けざるをえなくなっている。キリンとサントリーの経営統合にしても、その先にあるのは国内生産拠点や物流拠点の統廃合だ。キリンは来年2工場を閉鎖する予定だという。流通では突出して業績好調のユニクロも、海外展開によって成長しようとしている。
もちろんこうしたことに手をこまねいて見ていれば、日本という市場は縮小するばかりだし、結果的にマイナス成長が当たり前になってきてしまうだろう。だから新しい産業をつくらなければならないのである。自民党は、民主党には成長戦略がないとよく批判してきたが、自民党の成長戦略が過去の路線の延長線上にあったことは明白であり、それでは行き詰まるということはすでに実証されていると思う。その意味では民主党の成長戦略のほうがまだ「変化の兆し」がある分だけましだと言えなくもない。
東京モーターショーの会場でふと思った。消費者に車を見せて購買意欲を刺激するためのモーターショーの役割は、少なくとも日本の場合は終わったのではないか。むしろ将来の自動車のあり方、排ガスゼロとか、安全とか、もっと個人のモバイルに適した形とか、そういった将来への提案型に切り替えていくべきではないだろうか。
電気自動車や燃料電池自動車といったエネルギー源には注目が集まっているが、ボディの素材も内燃機関という発熱部品がなくなってくれば当然変わってくる。モーターショーに素材メーカーや今までの自動車部品とは違う部品メーカーなどなどの出展があってもいいと思う。つまり東京モーターショーは、従来とはまったく違う新しいコンセプトのもとに、世界中のメーカーが「人間の移動」をテーマにアイディアや技術を競う場になるという道が残されているのではないかと思う。
日本が温暖化ガス25%削減という目標を打ち出したのも、こうしたモーターショーには追い風となるはずだ。温暖化問題からも、そして化石燃料の枯渇という問題からも、従来型の自動車産業には限界がくる。そうであれば日本が新しい形の発信源になることが必要だと思う。活気に乏しい幕張メッセの会場でそんなことを考えた。
藤田正美ふじたまさよし
元ニューズウィーク日本版 編集長
東京大学経済学部卒業後、東洋経済新報社にて14年間、記者・編集者として自動車、金融、不動産、製薬産業などを取材。1985年、ニューズウィーク日本版創刊事業に参加。1995年、同誌編集長。2004年から…
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