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コラム 政治・経済

2017年12月08日

大学研究は産業の活力源

日本の大学の国際的な評価が毎年低くなっています。近年ではアジアの国々の大学にも差を付けられています。本来、大学は産業の活力源であるはずです。日本の大学に何か問題があるはずです。その原因を探りつつ望まれる改革の方向を示します。日本の将来のために、今回もやや辛口のコラムとなりました。

後退する日本の大学の国際ランク

欧米では世界の大学のランク付けを行う幾つかの組織があり、毎年そのランキングが発表されています。日本は世界第三位の経済大国ですが、日本の大学の世界ランキングはあまり高くはありません。一例をあげますと、最新の英国の教育専門雑誌・THE(Times Higher Education)のランキングでは、日本の東大が46位、京大が74位でした。前年東大は39位でしたが、大きく順位を落としています。ちなみに、THE以外のランキングも含めて結果をみますと、概して日本の大学のランキングは予想以上に低く、また、日本の大学のランキングは毎年少しずつ低下しています。

大学のランク付けの組織はいくつかあり、それぞれの大学評価基準は異なります。概して言えることは、
1.優れた研究論文を主要な科学専門誌に多数発表している
2.優れた教授や研究者がいる
3.基本として理工系の研究組織が優れている
世界の大学ランキングは、ずばり大学の理工系研究機関の評価と言っても過言ではありません。研究論文を多数発表したり、優れた研究者を確保するためには資金が必要です。とどのつまり、ランキングの高い大学は当然のことながら、集金力も高い大学です。
ランク付け組織によっては、評価項目として国際性が重要視される場合があります。その場合は英語圏の大学は高い評価になります。実際に、ランク機関によってはアジアにおいて英国の植民地であったシンガポールや香港の大学が日本の大学より高いランクに位置付けられています。

日本の大学の特殊性

欧米の著名な大学は、積極的に外部から多額の研究資金を獲得して成果を上げています。このような大学は、日本的な感覚では大学というよりも企業と考えた方が理解しやすいと思います。研究資金は民間企業のほか、国防省やエネルギー省などの政府機関からも得ることができます。研究資金を豊富に得るためには、企業の製品に結び付く研究、社会に役立つ研究をしっかりと行うとともに、スポンサー企業や組織とうまく付き合える能力が必要です。

日本の大学の体制と世界の著名な大学の体制を比べると異なる点は多数あります。特に私が感じる二つの大きな相違点を以下にあげます。
1.日本の大学は基本的には教育をする場所と考えられています。対して欧米の著名な大学は教授たちが研究する場所と考えられています。
2.次に大きな違いは教授たちの報酬です。日本の国立大学を例にとりますと、日本では教授ら教員の給料は国家公務員に準じます。しかも、日本の教授らは特別な役職に就かない限り、給料の額は横並びで同じです。優れた研究成果をあげたとかは原則関係ありません。もし副収入があるとすれば、書いた本の印税が入ることなどです。

研究は厳しい競争の環境下で行われます。優れたプロ野球選手は高い報酬を得ます。サッカー選手でもプロの棋士でも同じです。同様に多額の研究資金を得て、多くのスタッフを抱え、優れた研究成果を多くあげている教授は、その能力や成果に応じた高い報酬を受けるということは国際社会ではあたりまえのことです。

日本の大学や教育界では依然として、「企業からお金を貰うな、大学自治が奪われる」「企業の利益のために研究を行うな、学問は金儲けではない」ということが時代錯誤的に叫ばれています。このような論理が通っている日本の大学では、現代社会において果たすべき使命を果たせず、世界からの評価はドンドン落ちていき、アジアにおいても次々と他の国の大学に抜かれて行っています。これが現実です。

日本の大学改革の一提言

日本の大学が真に社会に役立つ大学、経済産業の活力になる大学になるために、その改革の方向性を考えてみます。日本の大学で改革するべき点は数多くありますが、今回は一つだけ提言致します。なお、日本の国公立、私立のすべての大学を対象として議論を行うと、内容が散漫になりかねませんので、ここでは対象を国立大学に絞って大学改革の理想像を述べます。また、世界の大学評価の中心になる理工系学部学科に絞って考えてみます。

国立大学において歴史的使命の終えた学部や学科は縮小や整理して、その分社会が必要としている分野の学部や学科を拡充もしくは新設するべきです。戦後、日本の復興がなされて1964年の東京オリンピックが開催されました。国立大学の学部や学科構成の大枠は大体その頃から変わっておりません。社会が変わり産業構造が変化しても、大学側は我関せずという態度で、ほとんど変わっていません。

今から40年以上前、私が大学を卒業した頃は銀行業務のコンピュータ化が進みました。コンピュータ・情報関連の学生は少なく、それに対応するために銀行は情報以外の学科から新卒者を採用したり、さらには、例えば理学部の生物学科などからも採用しました。理科系出身者であれば入社後に教育、訓練することによりコンピュータ関係の業務を担当させることができるであろうという考えです。実はこの状況は今でも全く変わっておりません。日本の産業界では慢性的にIT技術者不足に陥っています。

OECDによると日本の農業がGDPに占める割合は1%に過ぎません。労働人口に占める割合で言えば、農業従事者は国民全体の4%です。しかし、日本の各都道府県にある国立大学の多くに依然として農学部が存在します。まことに不合理な事態と皆が認識していても、全く変わる様子はありません。これが日本の国立大学の実態です。

日本の経済界は常に大学に対して、産業界のニーズ合った学部や学科構成を要望していますが、全く無視されています。それどころか、大学内に新しい組織をつくるときには現状の体制のまま拡大発展します。日本の大学では欧米のような競争原理も働かず、また学長が学内の選挙でえらばれますので、現状の基本体制が変わることはありません。年々日本の大学の国際評価が低下する中、日本の国立大学が国民や産業界の期待に応えて自己改革を断行して、国民生活の向上と経済の活性化の源になることを切に望みます。

進藤勇治

進藤勇治

進藤勇治しんどうゆうじ

産業評論家

経済・産業問題、エネルギー・環境問題、SDGs、コロナ問題をテーマとした講演実績多数! 経済・産業問題やエネルギー・環境・災害問題、SDGs、コロナ問題などについて最新の情報を提供しつつ、社会…

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