再生可能エネルギーの固定価格買取制度(FIT法)が2017年4月に改正されました。日本の再生可能エネルギーが新しい時代に入ったようです。今回は再生可能エネルギーの最新の動向について、太陽光発電を中心に触れてみます。
旧FIT法の課題点
2012年7月の旧FIT法の導入から5年以上が経ち、再生可能エネルギーの導入は飛躍的に伸びました。その反面、いくつかの問題も明らかになりました。旧FIT法の問題点を要約すると次の3点になります。
(1)電気を買い取るための国民負担が急激に増大
再生可能エネルギーは既存の火力発電などに比べると、発電コストは大変高いものです。割り高な分は電気料金に上乗せされています。FIT制度が始まった2012年度は、平均的家庭における負担額は毎月50円程度でした。しかし、再生エネルギーによる発電が増えるにつれて買い取り額も増えました。その結果、負担額は10倍以上に増加して、2017年度では標準的な家庭の電気料金は月額6000円で、そのうち「再エネ発電賦課金」は約700円まで膨らみました。国民全体の年間の負担総額はと言いますと、2017年度は2兆円を超える見込みです。
(2)不安定な太陽光発電の導入比率が大きい
日本の再生可能エネルギーのうち太陽光発電は全体の45%を占め、風力発電の約6倍の量を発電しています。太陽光は昼間しか発電できず、また雨や曇りの日も発電量は低下します。風力発電も適度な風が吹いていない時は発電量が落ちます。自然に依存するエネルギーは不安定なエネルギー源であり、本質的に既存の火力発電等の代替にはなりません。
(3)売電する権利を確保しているのに設置しない案件の増加
旧FIT法が開始されてから、太陽光発電においては発電パネルの単価が年々急激に下落しました。売電の権利を保有しても、装置の設置を遅らせることにより、初期設備費の負担を少なくできて、経済的メリットを得ることができます。このような事例が増えましたが、これは旧FIT法の不備によるものです。
改正FIT法の5つの大きな変更点
国民負担を抑えつつ、太陽光発電以外の再生可能エネルギーをより多く導入するためにFIT法が改正されました。改正FIT法の大きな変更点は次の5つです。
(1)事業計画の登場
固定価格買取制度を活用するのに必要な経済産業省への手続きが、「設備認定」から「事業計画認定」へと変わりました。ポイントは3つあり、まずFIT制度の改正により旧制度で認定を取得した人も事業計画の提出が必要となりました。また、認定の審査基準が明示され、変更手続きも変わりました。
(2)メンテナンスの義務化
改正FIT法では、保守点検・維持管理の計画を作り、実施する必要があります。
(3)運転開始期限の導入とパネル変更が可能に
認定を受けた日から売電開始するまでにタイムリミットが設けられ、事業計画の認定日から一定の期間内に発電開始しなければペナルティが生じます。一方で、所定の手続きを行えば、設置する太陽光パネルのメーカーや種類の変更が可能になりました
(4)旧認定取得者の扱い
旧FIT法で設備認定を取得した事業者は、2017年4月1日に新認定制度で認定を取得したとみなされます。みなし認定でも改正FIT法で定める手続きや義務が発生します。
(5)2017年度以降の売電単価の決まり方
改正FIT法で売電単価の決まり方も変更されました。10kW未満の太陽光発電では、3年後に事業計画認定を取得した場合の売電単価まで公表されます。これにより事業者がある程度の見通しを持って事業に参入することができます。また、2MW以上の太陽光発電には入札制度が導入されました。より安い買取価格を提示した事業者から買い取ることになります。こうすることにより買取価格の低減が図られ、国民の負担が軽減されます。このような入札制度は既にドイツでも実施されています。
改正FIT法による入札結果
改正FIT法による入札制度は、当面は2MW以上の事業用太陽光発電が対象となり、1kWh当たりの価格と発電出力についての札が入れられる形となります。最も安価な札を入れた事業者から順次、入札全体の募集容量に達するまでの事業者が落札者となります。
2017年夏に実施された最初の入札の結果が11月に公表されました。入札の募集規模は総出力50万kWに対して、落札企業の総出力は約14万kWにとどまりました。採算が合わないとして、日本企業の多くは入札を見送ったもようで、落札事業者の半数は外資系企業でした。落札の最安値は17.2円/kWhでした。2012年のFIT制度の開始から今回の入札までの、大規模太陽光のkWhあたりの買取価格の変遷は次の通りです。
2012年度、40円/kWh
2013年度、36円/kWh
2014年度、32円/kWh
2015年度、29~27円/kWh
2016年度、24円/kWh
2017年度、21円/kWh
2017年度、17.2円/kWh(入札最安値)
2012年から比べると、2017年は半額近くになっています。その最大の原因は、初期の設備投資費が安くなったからです。特に太陽光パネルの価格が大きく低下しました。このような事はドイツの固定価格買取制度でもみられたことです。なお、上述の買取価格の変化は、たとえば2012年に発電を開始した事業者に対して、その買取価格が年々下落していることを表してはいません。2012年にメガソーラ発電で契約した場合、契約が終了するまでの20年間はkWhあたり40円で買い取られます。
再生可能エネルギーの展望
FIT法は開始後5年経って早くも大幅に改正されました。2012年の開始時に細部において検討不足のまま、再生可能エネルギーの買取制度がスタートしたとものと思われます。改正FIT法の実施により問題点が整理されて、これからは地に足の付いた再生可能エネルギーの発展が見られるものと期待致します。なお、再生可能エネルギーの系統連系できる電力量を増やすために、送電、変電設備の一層の拡充・整備が望まれます。
新FIT法の影響でしばらくの間は太陽光発電市場は後退することになるでしょう。一方、2009年度から2011年までは古い制度での再生可能エネルギーの買取が実施されましたが、この制度における住宅用太陽光発電システムからの余剰電力買取期間が2019年から終了する世帯が出てきます。こうした世帯が蓄電システムを導入し、日中貯めた電力を夜間に利用するなど自家消費が進むため、2019年頃より太陽光発電市場は再び大きく拡大するという予測があります。
さて、FIT法の実施により電力料金が割高になっているのも事実です。現在では国民は2兆円を超える負担をしています。一方、高齢化社会への対策などの財源確保に消費税を上げることが予定されています。2兆円は極めて大きな額で、2兆円あればいろいろのことができます。そろそろ国民は冷静になって再生可能エネルギーについて考えるべきときが来たように思えます。
進藤勇治しんどうゆうじ
産業評論家
経済・産業問題、エネルギー・環境問題、SDGs、コロナ問題をテーマとした講演実績多数! 経済・産業問題やエネルギー・環境・災害問題、SDGs、コロナ問題などについて最新の情報を提供しつつ、社会…
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