前回のコラムではいくつかの次世代自動車についてそれぞれの特徴を述べました。これからは電気自動車が主流となるのか、それとも日本が得意なハイブリッド車や燃料電池車が中心になるのか関心がもたれます。今後の自動車産業を考えますと世界の動向が極めて重要です。今回は次世代自動車の国際動向についてふれてみます。
米国の動向、ZEV規制
ZEVとはゼロ・エミッション自動車のことです。ZEV規制とは米国のカリフォルニア州が実施している制度で、州内で一定台数以上自動車を販売するメーカーに対し、ZEVを一定比率以上販売することを義務付けている制度です。カリフォルニアにおいては、特にロサンゼルスなどの大都市部では自動車の排ガスによる大気汚染が大きな問題になっており、対策に力を入れています。
2018年からはZEV対象車についても大きな変更があります。現在では二酸化炭素の排出量が少ないハイブリッド車、天然ガス車、低燃費ガソリン車がZEV対象車に含められていますが、これらが対象から除外されることになります。そのため、ZEV対象車は電気自動車、燃料電池車、プラグインハイブリッド車に限定されることになりました。日本が得意とするハイブリッド車はZEV規制のエコカーとは認められなくなるということです。
なお、カリフォルニア州で実施されているZEV規制は2018年から新たにニューヨーク州など11州でも実施されます。
米国政府は電気自動車について具体的な政策は表明しておりませんが、現在、電気自動車の販売数は米国と中国が抜きんでています。
欧州の動向
2017年7月に英国とフランスは2040年までにガソリン車やディーゼル車の販売を全面的に禁止すると発表しました。排ガスによる都市部での深刻な大気汚染問題や地球温暖化に対応するのが狙いで、電気自動車の普及を促すことで関連技術の開発を後押しする政策です。
また、ドイツにおいても2030年までにガソリン車などの販売を禁止する決議が国会で採択されました。2015年にドイツのメーカーによる排出ガス規制不正問題が発覚し、欧州で良く乗られていたディーゼル車への信頼が低下しました。消費者の不振を振りほどくために、ドイツを中心に電気自動車やプラグインハイブリッド車へのシフトを一気に加速しているようです。
アジアの動向
中国の都市部では車による大気汚染が大きな問題になっています。そこで、都市部におけるガソリン車の購入は政府によって厳しく制限されていますが、電気自動車であれば優先的に購入できます。
中国で電気自動車にシフトが進む理由は、環境面のほかガソリン車では太刀打ちできない欧米や日本に対して、電気自動車でなら逆転も可能だと見ているからです。現在の中国の官民あげての取り組みは、次世代自動車はハイブリッド車や燃料電池車ではなく電気自動車であるという強い信念、決意が感じられます。
インド政府は2030年までにガソリン車やディーゼル車の販売を全面規制し、インドで販売する自動車を全て電気自動車に限定するとの方針を表明しています。
日本の動向
日本では、ハイブリッド車、電気自動車、プラグインハイブリッド車、燃料電池車、クリーンディーゼル車等を次世代自動車と定め、2030年までに新車乗用車の5~7割を次世代自動車とする目標を掲げています。
日本は水素を燃料として走行できる燃料電池車を推進するために、水素ガススタンドの設置などに取り組んでいますが、日本以外の国々では燃料電池を重要視していません。むしろ次世代車として議論の対象にもしていません。
水素は取り扱いが容易ではない燃料です。日本のような管理された社会では水素スタンドを多数設けることはできるかもしれません。しかし、世界的に見て水素スタンドを多数設置することは簡単な事ではないと思います。その点、電気は広く利用されていますので、電気自動車を世界的に広く普及することは容易です。
世界の趨勢
次世代自動車は何が主流になるかを見極めることは重要です。日本でも電気自動車の製造は行われていますが、依然として主流はハイブリッド車です。さらに次世代自動車として燃料電池車にも官民挙げて取り組んでいます。対して世界の趨勢は電気自動車やプラグインハイブリッド車です。
次世代自動車を考える場合には、燃費、二酸化炭素削減、環境性、経済性などの点を総合的に検討することが大切です。ただ、燃費ひとつとっても、測定基準は国や地域によって異なります。また、電気自動車は二酸化炭素の排出をゼロと取り扱う国や地域もあります。しかし、世界的に見ますと電気の約3分の2は火力発電で作られます。実際は電気自動車といっても、ガソリン自動車程度の二酸化炭素を電気の製造時に排出していることになります。
次世代自動車は現状のままで進めば、世界の趨勢は電気自動車になるでしょう。ただ、現在日本が優位なハイブリッド車や燃料電池車には電動機技術も含まれており、極端な表現をすれば安価で高性能の蓄電池を調達できれば、電気自動車の大量生産は容易ではないかと考えられます。
自動車業界には次世代自動車のほか、自動運転車の開発競争もあります。今後の世界の自動車社会がどのようになるかを占うことは容易ではありません。将来を見越して次世代車や自動運転車の開発に協力に取り組んでいる国は多数あり、展開次第では世界の勢力図が大きくかわる可能性があります。日本の自動車産業が的確に新時代を乗り切っていくことを期待致します。
進藤勇治しんどうゆうじ
産業評論家
経済・産業問題、エネルギー・環境問題、SDGs、コロナ問題をテーマとした講演実績多数! 経済・産業問題やエネルギー・環境・災害問題、SDGs、コロナ問題などについて最新の情報を提供しつつ、社会…
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