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今、プラスチックをめぐり二つの大きな動きがあります。回収されたプラスチックを中国が資源として受け入れなくなったことと、生態系に大きな影響を与えるマイクロプラスチックの世界的な規制の強化です。今回はこの二つの問題にふれつつ、その対策と新ビジネスの可能性について考えてみます。
プラスチック利用とリサイクル
現代社会においてプラスチックの利用は便利さや豊かさの一つの象徴であり、日本などの先進国では毎年膨大な量のプラスチックが使われています。使用済みになったプラスチックは、理想的には家庭や企業で分別され資源物として回収に出されることが期待されます。しかし、適正に処理されないプラスチックも存在します。
回収された廃プラスチックはリサイクル可能な種類別に仕分けられます。資源リサイクルが推進され、再利用が可能なプラスチックは循環利用されます。
廃プラスチックは資源としてリサイクル事業者に売却されます。昔は日本国内のリサイクル事業者が購入していました。しかし、かなり以前より中国のリサイクル事業者が購入するようになりました。日本の事業者よりも高い値段で廃プラスチックを資源として中国の企業が落札します。このような形で日本のみならずヨーロッパの国々などからも廃プラスチックが資源として中国に輸出されてきました。
廃棄物をゴミとして海外に送り処分することは厳しく禁止されていますが、廃棄物を資源として輸出入すること自体は国際社会で認められています。資源の輸入国の中心は中国です。中国では人件費が安いなど、リサイクルコストが低いため海外のリサイクル資源を高い価格で購入できるからです。
中国のプラスチック資源の輸入禁止
海外から大量の廃プラスチックを資源として輸入していた中国が、今年になってその輸入を全面的に中止しました。廃プラスチックは全てがリサイクルできる訳ではありません。リサイクルのために汚れを洗ったり、もしくは汚れた部分を除去しなければなりません。汚水処理や廃棄物処理の施設が十分に整備されていない中国の状況では、リサイクルを進める結果、新たな環境汚染を招きます。このようなことから中国では廃プラスチック資源の輸入を禁止した訳です。
中国に廃プラスチック資源を輸出していた日本をはじめ多くの国は対策を考えなければなりません。大量に輸入していた中国に代わる国は見当たりません。むしろ中国以外の国々もこれまで行って来た廃棄物資源の輸入を禁止していくことになる可能性が高いです。
マイクロプラスチックとは
マイクロプラスチックとは、環境中に存在する小さなプラスチック粒子のことです。その大きさに共通した定義はまだありませんが、一部では1mmよりも小さいプラスチック粒子と定義されています。
現在、海洋中のマイクロプラスチックが生態系に大きな影響を与えるとして、国際的な問題となっています。リサイクルや焼却など適正な処理が行われなったプラスチック廃棄物が雨などに流されて、やがては海洋を漂います。摩耗などの物理的変化や紫外線による化学的分解などにより微小のプラスチックができます。これがマイクロプラスチックで、小さいので魚の体内にも入ります。消化されず排泄もされない場合は魚の体内に蓄積します。
マイクロプラスチックの生態系への影響
化学物質であるプラスチックの表面には有害化学物質が付着しやすい性質があります。海を漂っている間に有害物質が付いたマイクロプラスチックが魚の体内に入りますと、その魚は有害物質に汚染されます。こうして海洋の生態系が脅かされています。
小さい魚をより大きい魚が食べ、その魚を大型の魚が食べるという食物連鎖があります。マイクロプラスチックを摂食した後の海洋生物への影響は次の三つが考えられます。
- ・魚の摂食器官または消化管の物理的閉塞または損傷
- ・摂食後のプラスチック成分の化学物質の魚の内臓への浸出
- ・吸収された化学物質の魚の臓器による摂取と濃縮
こうして汚染された魚を食べますと人体にも影響が生じます。このメカニズムはダイオキシンやPCBの人体への影響によく似ています。
マイクロプラスチック対策
マイクロプラスチック対策としてプラスチックの使用抑制が欧米を中心に進められています。コーヒー店やファストフード店では、プラスチックのストローの代わりに紙のストローを提供したり、ストローを使わないで飲む容器の提供を行い始めた企業もあります。
EUの新規制案の対象となるプラスチックは、ストローやナイフ、フォーク、皿など多岐にわたります。EUがプラスチック規制に力を入れる理由は主に二つあります。対象となるプラスチック製品の多くはEU内ではなくアジアからの輸入品であること、世界に対してプラスチック規制をリードすることにより、環境対策面でのEU企業の優位性を築けることです。
プラスチック問題と新ビジネスの可能性
中国の廃プラスチック資源の輸入禁止処置やマイクロプラスチック問題など、プラスチックの利用と処分に関して世界の動向は大きく変わりつつあります。プラスチック問題はストローをプラスチック製から紙製に変えれば解決するような簡単な問題ではありません。日本では中国に輸出できなくなった廃プラスチック資源が、行き場を失い保管場所に日々増加しています。次に、プラスチック問題に関連して新ビジネスの可能性をいくつかあげてみます。
これからは、廃棄物のリサイクルはそれぞれの国自身で行うことが徹底されるのではないでしょうか。日本ではかつて廃プラスチックのリサイクル施設が企業や自治体で作られましたが、価格が高くなったプラスチック資源を購入できず、稼働を休止させている施設が少なからずあります。今後はそれらの施設の稼働が再開されるなど、廃プラスチックのリサイクル事業が日本国内で活性化する可能性があります。
自然界の微生物の働きで容易に分解する生分解性プラスチックが1980年代の後半に開発されましたが、結局製造コストが高いということで普及しませんでした。一般のプラスチックの適正処理が困難であったり、もしくは適正処理にコストがかかるようになれば、生分解性プラスチックが利用されるようになるかもしれません。
機械や金属などの廃棄物も、資源として利用できる場合も中国に輸出されています。たとえば、モーターですと、本体の鉄、コイルの銅、磁石の合金などに分ける必要があります。これは機械ではできないので人の手で行われます。将来、中国において今回のプラスチックと同様に機械や金属類の資源の輸入が禁止されることになるかもしれません。そうなりますと、これらの廃棄物のリサイクルや処理を日本国内で行う必要があり、そこに新ビジネスの可能性があります。
製造業等が動脈産業と言われるのに対して、廃棄物処理等の産業は静脈産業と呼ばれます。日本が推進する廃棄物の適正処理と資源リサイクルによる循環型社会の構築のためには、今後は静脈産業の一層の強化は避けられないことと考えられます。
日本の行政や産業界が今回の事態に的確に対処して、日本が地球規模の問題の解決に貢献することを期待いたします。
進藤勇治しんどうゆうじ
産業評論家
経済・産業問題、エネルギー・環境問題、SDGs、コロナ問題をテーマとした講演実績多数! 経済・産業問題やエネルギー・環境・災害問題、SDGs、コロナ問題などについて最新の情報を提供しつつ、社会…
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