目次
企業においてはCSRの実施、ESG投資、温暖化対策、省エネ対策など、環境問題への取り組みが盛んに行われています。また日本やEUでは環境問題の解決を含む国連のSDGs活動が強力に推進されています。今回は企業の環境経営についてふれてみます。
環境経営の意義と目的
環境経営とは企業が持続的に発展していくために、環境と調和した経営を行っていくという概念です。環境経営の意義と目的をまとめると次の通りです。
- 1.企業の社会的責任を果たす
- 環境問題に積極的に取り組み、環境負荷を低下させる経営を行います。
- 2.持続的成長を図る
- 環境対応はコストがかさむという従来の考え方を捨て、環境問題に取り組むことで、企業の成長につなげようとする新しい経営スタイルです。
- 3.企業の利益につながる
- 国際的な環境規制が厳しくなる中、環境経営は企業に競争力を付け、また利益をもたらします。
- 4.環境経営の導入
- 規制緩和などで企業の効率的な経営資源の活用、健全な物質循環の役割を担うことが要求されており、環境経営を導入する企業は増えています。
- 5.企業価値の向上
- 環境マネジメントシステムの認証取得、排出物を出さず全て再利用するゼロエミッションなどを通じ、企業価値の向上を図ることが目的です。
環境経営の取り組み方
具体的に企業が環境経営に取り組む方法は次の通りです。
取り組む方法
- 1.経営者の主導的関与
- 経営者は環境経営の実行を社会に対してコミット(約束)します。
- 2.環境への戦略的対応
- 重要な事業機会やリスクに対して、戦略的に対応します。
- 3.組織体制とガバナンス
- 環境経営の適切な遂行のための組織体制と、組織体制が健全かつ効率的に機能する上での基礎となるガバナンスを構築します。
- 4.ステークホルダー(利害関係者)への対応
- 企業を取り巻くステークホルダーをよく理解し、期待や要望を把握し、それらに経営活動の中に還元していきます。ステークホルダーには、株主や社員、協力会社、取引先、顧客、地域社会、行政などが含まれます。
- 5.バリューチェーン志向
- 原料の調達から廃棄まで製品のライフサイクル全体における環境負荷を俯瞰して、重要な課題を特定し対話していきます。
- 6.持続可能な資源・エネルギーの利用
- 資源効率性の向上などによる資源の持続可能に配慮した利用をします。
環境会計
環境経営において環境会計という会計手段があります。環境会計は、企業活動における環境側面を管理会計と同様に企業内部の意思決定に活用できます。
環境会計の具体例としまして、1.投資判断、2.マテリアルフロー計算、3.顧客経済効果対策、4.社会的コスト対策などに活用できます。
環境経営の促進の取り組み事例
環境経営の促進のために企業が社員に対する取り組み事例として、
- 1.生活者としての社員の清掃活動の実施、施設見学の受入やイベントへの参加等、環境保全活動への取組みを企業が促進・支援
- 2.表彰制度の他、業績評価への環境項目を盛り込む試みなど、環境経営の担い手としての社員へのインセンティブ制度を導入
- 3.社員への環境教育活動のほか、地域や社会を対象とした環境教育、環境イベントなどを通じての啓発活動
など企業が行う環境教育の実践などがあります。
多くの企業が取り組むCSR
CSRはCorporate Social Responsibilityのことで、企業の社会的責任などと訳されます。企業が倫理的観点から事業活動を通じて、自主的に社会に貢献する責任のことです。日本においては、環境への取り組み、社会貢献、地域社会への貢献などが企業により行われています。環境分野のCSRの意義や目標は次の通りです。
- 1.人間的価値の増大
- 社員一人ひとりが働きがいを持てる職場環境を作れます。
- 2.経済的価値の増大
- 環境保全や環境にやさしい製品の提供ができます。
- 3.社会的価値の増大
- 環境への取り組みが社会に認知されるなど、総合的な企業価値の向上につながります。
CSRを実施するにあたり、世界共通の目標や規則はありません。国や地域において取り組み方は大きく変わっています。EUのCSRについては、次の項目が対象となっています。日本と比べると大変異なっています。
- ・人権
- ・労働と雇用慣行
- ・環境問題
- ・贈収賄・汚職の防止
- ・地域社会への積極的な関与、発展への寄与
- ・障害者の統合
- ・プライバシーなど顧客が関心を持つ案件への対応
- ・従業員のボランティア活動
環境問題に関する国連の動向とSDGs
国連グローバル・コンパクトは、1999年の世界経済フォーラムにおいて当時のアナン国連事務総長により提唱されました。企業に対して人権、労働権、環境、腐敗防止に関する10原則を順守し実践するよう要請しました。次の3つの原則において環境への取り組みが具体的に記述されています。
- 原則7:環境問題の予防的なアプローチを支持する
- 原則8:環境に関して一層の責任を担うためのイニシアチブをとる
- 原則9:環境にやさしい技術の開発と普及を促進する
MDGs(ミレニアム開発目標)は2000年9月に国連で採択されました。2015年までに達成すべき目標として8つのゴールと21のターゲット項目を掲げられました。ゴールの一つとして環境の持続可能性の確保があげられていました。MDGsの理念は次のSDGsに繋がります。
SDGs(Sustainable Development Goals)とは、持続可能な開発のための17のグローバル目標と169の達成基準からなる国連の開発目標であり、2015年9月の国連総会で採択されました。SDGsでは、温暖化問題対策、海洋・陸上の環境・資源への対策、水やエネルギーへの対策が含まれていいます。 日本政府は全閣僚を構成員とするSDGs推進本部を設置して取り組んでおり、企業や各種団体、自治体などが積極的にSDGs活動を進めています。
ESG投資とCSV
ESG投資とは、環境(Environment)、社会(Society)、企業統治(Governance)に配慮している企業を重視・選別して行う投資のことです。たとえば、環境分野では企業における二酸化炭素の排出量削減や化学物質の管理などが評価されます。 投資において、環境、社会、企業統治を重視することが結局は企業の持続的成長や中長期的収益につながります。ESG投資により財務諸表などからは見えにくいリスクを排除できます。
CSVはCreating Shared Valueのことで、共通価値創造、共有価値創造、価値共創などと訳されています。企業が本業を通じ、企業の利益と社会的課題の解決を両立させることによって社会貢献を目指すという企業の経営理念です。 CSVではCSRよりさらに踏み込み、より直接的に課題の解決を図り、企業価値の向上を目指します。CSVの理念は2011年に米国の経営学者マイケル・ポーターによって提唱されました。
なお、米国では企業経営者の第一の目的は株主に対してより大きな利益をもたらすことです。企業が主体となって社会貢献活動を行うという考えは重要視されません。米国では社会貢献は一般に会社の幹部らが個人として行うもので、その費用は給与に含まれています。
環境経営とSDGs
企業が環境経営に取り組む場合、CSRやESG投資は重要な理念や指針となります。しかし、CSRの取り組むテーマは日本とヨーロッパでは大変異なります。米国ではCSRという観点はあまり重要視されません。
しかし、SDGsの目標や達成基準は明確で世界共通です。CSRやESG投資、温暖化対策などを含め、今後は企業の環境経営はSDGs活動を重要視する中で取り組みが進められていくことになるでしょう。
企業における環境経営の取り組みが一層進められ、温暖化問題やプラスチック問題など、人類が直面している多くの環境問題の解決に大きな貢献を期待致します。
進藤勇治しんどうゆうじ
産業評論家
経済・産業問題、エネルギー・環境問題、SDGs、コロナ問題をテーマとした講演実績多数! 経済・産業問題やエネルギー・環境・災害問題、SDGs、コロナ問題などについて最新の情報を提供しつつ、社会…
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