日本政府は、昨年の12月に「2050年カーボンニュートラルに伴うグリーン成長戦略」を発表しました。グリーン成長戦略はあらゆるCO2削減活動が経済の成長に伴うということです。2050年カーボンニュートラルは、エネルギー関連技術の様々なイノベーションが生まれ、その結果多くの企業にとって新しいビジネスチャンスが産まれることになります。今回はカーボンニュートラルの推進と企業の取り組みについて触れます。
カーボンニュートラル、成長が期待される分野
カーボンニュートラルという言葉は、CO2の排出を、削減や吸収でプラスマイナスゼロにすることを意味します。2050年カーボンニュートラルへの挑戦に、成長戦略として取り組む観点から、今後の産業としての成長が期待される重要分野は次の通りです。
(1)洋上風力産業
(2)燃料アンモニア産業
(3)水素産業
(4)原子力産業
(5)自動車・蓄電池産業
(6)半導体・情報通信産業
(7)船舶産業
(8)物流・人流・土木インフラ産業
(9)食料・農林水産業
(10)航空機産業
(11)カーボンリサイクル産業
(12)住宅・建築物産業/次世代型太陽光産業
(13)資源循環関連産業
(14)ライフスタイル関連産業
上記の分野では様々なイノベーションが生まれ、その結果エネルギーや環境関連の多くの企業にとって新しいビジネスチャンスが生じます。
電力部門の脱炭素化とエネルギーミックス
電力に関するカーボンニュートラル政策では、再生可能エネルギーを最大限導入し、系統を整備します。また洋上風力産業と蓄電池産業を育成します。
火力については、CO2回収処理を前提とした利用を選択肢として最大限追求します。水素発電も選択肢として最大限追求します。カーボンリサイクル産業や燃料アンモニア産業を創出します。
確立した脱炭素技術である原子力については、可能な限り依存度を低減しつつも、安全性向上を図り引き続き最大限活用していきます。安全性に優れた次世代炉の開発も行います。
2050年の電力需要は、産業・運輸・家庭部門の電化によって、現状の30~50%増加するとの試算があります。カーボンニュートラル実現のための2050年の電源構成については、現時点での参考値として、次のように検討されています。
- 原子力、及びCO2回収前提の火力発電で30~40%程度
- 開発・実証段階の技術でありますが、水素・アンモニア発電で10%程度
- 太陽光、風力、水力、地熱、バイオマス等の再エネの発電で50~60%程度
カーボンニュートラルから生まれる新技術
上述の中で、CO2回収処理技術や水素発電技術、燃料アンモニア技術は今後技術開発を進めて行くことになります。これらの技術について少し説明を加えます。
CO2回収処理技術は、火力発電所や製鉄所などのCO2の大量固定発生源において、CO2を大気に放出することなく回収して、地中や深海底に処分する方法です。図1にCO2地中処理の概念図を示します。
図1 CO2の回収・地中処理 (経産省資料)
CO2回収処理技術が実用化されれば、石炭などの化石燃料をCO2を排出することなく使い続けることができます。
燃焼させてもCO2を排出しない水素は、化石燃料から、また水からも作ることができます。多様な可能性を持つ水素をうまく利用することにより、カーボンニュートラルの達成に大きな寄与が期待されています。また、水素そのままでは常温では気体ですので、輸送や貯蔵には液化するなどの対策が必要です。なお、水素から輸送や貯蔵に便利な液体のメチルシクロヘキサンを生成して、利用する方法もあります。水素を燃料として発電を行った場合は、当然CO2の排出はありません。
燃焼してもCO2を排出しないアンモニアは、石炭火力での混焼など、水素社会への移行期では主力となる脱炭素燃料です。石炭火力においてアンモニアを20%混焼(カロリーベース)した場合には、20%のCO2排出減となります。仮に国内の全石炭火力での20%混焼を実施した場合には国内の電力部門からのCO2排出量の約1割を削減することになります。
なお、アンモニア生産は世界全体で年間約2億トン程度であり、大半が肥料の製造に使われています。アンモニア混焼の推進のためには、アンモニア製造プラント、輸送設備等の新たな整備が必要です。
カーボンニュートラルと企業経営
温暖化対策として企業は次のような項目に取り組んで行くことが期待されます。バリューチェーン全体でのCO2の削減を、そして、生産現場では省エネ活動や再エネの利用の推進が期待されます。また、ライフサイクルアセスメント(LCA)を考慮したCO2排出の少ない商品の製造、販売も期待されます。
環境に配慮した物流の実践、営業や研究開発、オフィス等においてもCO2の削減に取り組みを行うとともに、環境に優しい商品の利用、グリーン調達やグリーン購入が望まれます。
カーボンニュートラルには多岐にわたる新技術が含まれます。個々の企業にとってその技術や関連技術において新しいビジネスチャンスが存在するかもしれません。企業がカーボンニュートラルにお取組むことは、パリ協定のみならず、SDGs、ESG投資、CSRなどにも寄与することになります。
企業経営者においては、国や行政の補助金、助成金、優遇税制、融資金の活用を期待します。エネルギー計画や施策は、国の内外の情勢に左右されます。国の内外の温暖化対策に関する情報の的確な入手と理解が大切です。
進藤勇治しんどうゆうじ
産業評論家
経済・産業問題、エネルギー・環境問題、SDGs、コロナ問題をテーマとした講演実績多数! 経済・産業問題やエネルギー・環境・災害問題、SDGs、コロナ問題などについて最新の情報を提供しつつ、社会…
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