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コラム 政治・経済

2021年12月10日

弱者を思いやり人間本位の温暖化対策を

地球温暖化対策として、カーボンニュートラル、さらには石炭火力発電の廃止が世界の趨勢となっています。これらの厳しい対策に対して、負担の大きい途上国や新興国からは「歴史上で温暖化を招いた国がまず主な責任を負うべきだ」という声があがり始めています。

地球温暖化に対して正面から対策をとるのか、それとも温暖化の影響をできうる限り小さくして対応する、いわゆるWith温暖化の方策をとるか、そろそろ一度真剣に考えてみる時期が来たように感じます。今回はこの点について触れてみます。

日本の火力発電休廃止の動向

日本は石炭火力発電の休廃止について、様々な角度から対策を模索しています。2021年4月に経済産業省から出された石炭火力に関する検討の中間とりまとめ案では、次のような対策が打ち出されています。

省ネ法による石炭火力の発電効率目標の強化等により、個別発電所の休廃止規制ではなく、安定供給や地域の実情に配慮しながら、非効率石炭火力のフェードアウト及び石炭火力の高効率化を着実に促進することとしています。

具体的な方策として、次の規制的措置が挙げられています。

  1. 既存の火力ベンチマークとは別枠で石炭火力に特化したベンチマーク指標を新設し、フェードアウトの実効性を担保する。
  2. 発電効率目標を、既設のUSC(超超臨界)発電の最高水準である43%に引き上げ、高効率石炭火力は残しつつ、非効率石炭火力をフェードアウトさせる。
  3. アンモニア混焼や水素混焼への配慮措置を新設し、バイオマス等混焼と同様の算出方法を使用して、脱炭素化に向けた技術導入の加速化を後押しする。

さて、石炭火力発電所は燃料の燃焼による熱で水蒸気を作り、その水蒸気でタービンを回して発電をします。水蒸気は高温、高圧ほど発電効率は上がります。水蒸気温度374.2℃および圧力22.1M㎩(218気圧)を臨界温度及び臨界圧力といいます。臨界温度及び臨界圧力の状態は臨界点と呼ばれ、水と水蒸気の密度が同じになった状態です。温度や圧力を高め、臨界点の状態を越えると超臨界と呼ばれます。超臨界では水は液体でも気体でもない両方の特徴を持つ状態で、液体とも気体とも違う性質を有します。温度593℃以上、圧力24.1M㎩以上という高温高圧の水蒸気を発生させて、発電する方法はUSC(超超臨界)発電といいます。また、700℃を超える高温と35MPaの高温高圧水蒸気を使う発電はA(Advanced) –USCと呼ばれます。

発電効率を高める別の方法として、石炭をガス化炉でガス化してガスタービンを回し、さらにその熱で水蒸気を作り蒸気タービンで発電する方法は石炭ガス化複合発電(IGCC)と呼ばれ、実用化されています。さらに、IGCCに燃料電池を加えた方法は、石炭ガス化燃料電池複合発電(IGFC)と呼ばれ、実証事業が開始されています。

石炭火力の廃止の世界情勢

石炭から天然ガスにエネルギー変換を進めてきたヨーロッパですが、現在天然ガスの高騰と供給不足に直面しています。ヨーロッパの天然ガスはパイプラインで生産地から輸送されてきますが、その約41%はロシアからです。天然ガスの供給不足になっても、思うようにロシアからの輸入量が増やせない状況に陥っています。これはまさにヨーロッパが大きな政治リスクに直面していることを意味します。

中国やインドでは現在電力不足に直面しています。両国は電力の約80%を石炭火力で発電しています。電力不足は国の安定維持にも影響を与えますので、両国共に石炭火力による発電を増強することになるでしょう。自前のエネルギーを持たない国家は、時に主権を失ったような状況に追い込まれます。中国やインドは今後、40年、50年かけて原子力発電所を建設していくことでしょう。

途上国においても国の発展のためには電力は必要です。燃料が安価で、小規模、中規模の発電にも対応できる石炭火力は途上国においても利用しやすい発電方法です。

現在、石炭火力を廃止という理想が国際的に掲げられていますが、それを実現するには大きな困難が予想されます。石炭は他のエネルギー資源に比べて世界中に豊富に賦存します。日本にとっては、価格も安い石炭は安定供給、経済効率性の面で重要な資源です。

石炭火力の約80%は電力会社で、残りは一般企業の自家発電です。2011年の東日本大震災のとき、多くの発電所が稼働を停止しましたが、それを少しでも補うために企業の自家発電の石炭火力が通常以上に発電を行い、電力会社に提供しました。

人類はWith温暖化を真剣に模索する時期か

上述の日本の対策案は、世界で推進されている石炭火力の廃止には遠く及ばない措置です。石炭火力の効率をいくらあげても、廃止には結びつきません。日本はこれまでパリ協定やカーボンニュートラルなど、ヨーロッパが主導している国際動向には歩調を合わせてきました。しかしながら、2030年石炭火力の廃止目標を達成するのは極めて困難な状況と思われます。このまま石炭火力の休廃止に突き進んでいいのでしょうか。

温暖化問題において、今後世界は次の3点を考慮した対策を真剣に考えるべきではないでしょうか。

  1. 各国のエネルギー安全保障が維持されること
  2. 人類に大きな経済的、社会的負担をかけないこと
  3. 温暖化防止対策か、それとも温暖化の影響の緩和と回復かを費用対効果の観点から選ぶ
  4. 特定の対策を採りあげるのではなく、国家単位で、全体で炭素削減となる手段をとる
  5. 環境問題を政治や経済の優位性を求める道具にしてはならない
  6. 様々な情況下にある国や人々を包み込みながら、人間性ある対策を進める

ヨーロッパの環境圧力、政治圧力による厳しい温暖化防止規制を選ぶのか、それとも人類に対して人間本位のWith温暖化方策を選ぶのか、今は選択のときのように思えます。

図1に大気中の二酸化炭素濃度の増加の様子を示します。1997年に採択された京都議定書、2015年に採択されたパリ協定に関係なく、二酸化炭素濃度はドンドン増加しています。ヨーロッパ主導の京都議定書やパリ協定は、一体、何だったのかという素朴な疑問を感じるのは私だけでしょうか。2度あることは3度あると言われます。カーボンニュートラル、石炭火力の廃止と騒いでも、結局は二酸化炭素濃度が右肩上がりで、増加していくことになる可能性は大きいと思います。

地球が温暖化したときに、その影響は赤道付近が小さく、極地に近づくほど大きくなると言われています。極地付近では人口が少ないことを考慮しますと、大きな影響を受けるのは日本やヨーロッパ、北米が位置する中緯度地方となります。私は何度かロシアに行ったことがありますが、冬のモスクワの寒さは厳しいものでした。単純に厳寒と温暖のどちらを選ぶかとなると、温かさが選ばれるのではないでしょうか。赤道付近の国々では温暖化の影響が少ない分、温暖化への関心が小さいと思います。

図1 ハワイ、マウナロア山で観測された大気中の二酸化炭素の濃度変化図1 ハワイ、マウナロア山で観測された大気中の二酸化炭素の濃度変化

石炭火力の廃止の中で、天然ガスは使ってもよいが石炭は使うべきでないという主張があります。天然ガスも燃焼すれば二酸化炭素を排出しますので、すんなり受け入れられない気持ちにもなります。

環境先進国、経済先進国である日本は、ヨーロッパ主導で進む国際社会において、ブレーキをかけることができる唯一の国ではないでしょうか。それを可能にするためにはヨーロッパ発の世界に対する様々な圧迫的環境政策に対して、十分に反論できる理論武装が必要です。特にエネルギーや環境に関する科学論、技術論を土台とした上で政策論争を行う必要があります。そうしないと、京都議定書における日本の政治的な失敗や、石炭火力の廃止で困惑する日本、これらを永遠に繰り返すことになるでしょう。

COP26をはじめ最近の国際会議では、中国、インドの新興国と大多数の途上国が、先進国に対して再び厳しい発言、ときに厳しい批判が出るようになりました。このままの状態で進みますと、この対立は新たな南北問題に発展することでしょう。そうなると世界的な解決策は見出だせなくなることでしょう。

理想論を述べ合うことや、単に国際会議を繰り返して政治が何かを行っている感を出すのみの状態はそろそろ終わりにしなければなりません。人類が温暖化に対処する新しいパラダイムを日本が提唱し、それにより世界が温暖化問題を克服していくことを期待いたします。一番大切なことは、弱者への思いやりと人間本位の対策を世界が構築することです。

進藤勇治

進藤勇治

進藤勇治しんどうゆうじ

産業評論家

経済・産業問題、エネルギー・環境問題、SDGs、コロナ問題をテーマとした講演実績多数! 経済・産業問題やエネルギー・環境・災害問題、SDGs、コロナ問題などについて最新の情報を提供しつつ、社会…

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