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コラム 政治・経済

2022年08月10日

ウクライナ戦争の背景と動向を探る

2022年2月24日に始まったロシアのウクライナ侵攻は、現在も続いており、いつになれば終わるのか全く予側がつきません。EUやG7の国々はウクライナを支援するとともに、ロシアに対して様々な経済制裁を打ち出しています。日本ではコロナ禍、原油高、円安により厳しい経済状況ですが、さらにウクライナ戦争は、日本経済に様々な影響を及ぼしています。
ウクライナ戦争の今後の動向を探るために、ウクライナとロシアに関する重要と思われる基本的情報について今回は触れます。深く掘り下げた情報と知識で、ウクライナ戦争の背景を把握して、今後の動向を探る材料として下さい。

ウクライナとロシア

歴史的には、ウクライナの前身であるキエフ公国の北東部が分離してモスクワ公国ができました。ウクライナとロシアは歴史的にも地理的にも、密接な関係があります。ソビエト連邦の時代はウクライナとロシアは地域を意識せずに互いに融和して発展しました。
ウクライナはソ連時代には核やミサイル、兵器を製造する工業地帯でもありました。また、国土が広いウクライナは肥沃な土地にも恵まれていて、農業も盛んです。
旧ソ連の書記長であったフルッショフは、ウクライナで頭角を現しました。同じく書記長であったブレジネフは、現ウクライナの地に生まれ、ウクライナで活躍しました。
現在のウクライナ地域の民族構成は、ウクライナ人が77.8%で、ロシア人が17.3%です。プーチン大統領のウクライナにおけるロシア人の定義は幅広く、ロシア国籍を持つ人のほか、ロシア語を話す人はロシア人、ロシア正教の信者はロシア人としています。今回のウクライナ侵攻の大義名分の一つとして、「ウクライナで不当に虐げられている同胞を救う」と主張しています。

近現代のウクライナとロシアの関係史

ソ連邦時代

1917年 ロシア革命
1919年 ウクライナ社会主義ソビエト共和国の成立
1922年 ソビエト連邦が成立し、これに加盟

中立期

1991年 ソビエト連邦からウクライナとして独立 
1994年 ウクライナはロシアや他の独立国家共同体(CIS)諸国と限定的な軍事提携を結びつつ、北大西洋条約機構(NATO)とも平和のためのパートナーシップを結んだ

激動期

2005年1月 独立色強いユシチェンコが大統領に
2006年6月 ウクライナ国会においてユシチェンコ大統領派が惨敗し、政治混乱
2010年2月 親露派のヤヌコーヴィチが大統領に
2014年2月 反政府運動によりヤヌコーヴィチ大統領がロシアに脱出
2014年3月 ロシアがクリミアを併合
2014年6月 独立色強いポロシェンコが大統領に
2019年4月 独立色強いゼレンスキーが大統領に
2022年2月 ロシアのウクライナ侵攻

その他の特記するべき歴史事項

  • ブダペスト覚書:
    旧ソ連の崩壊後、ウクライナは運用管理をしていないものの、世界第3位の核兵器の保有国となった。ウクライナが核を放棄してロシアに搬送することに対して、ロシア、米国、英国が、1994年にウクライナの安全保障を約束しました。これがブタペスト覚書です。なお、中国とフランスも個別の覚書でウクライナの安全を保障しました。
    今回のウクライナへの侵攻の際に、ロシアは一方的にブタペスト覚書を破棄しました。理由は「現在のウクライナは国家として変化し、1994年当時のウクライナではない」という主張です。
  • ソ連のアフガニスタン侵攻と影響:
    親ソの傀儡政権を支援し、アフガニスタンをソ連勢力圏に入れようとしましたが、実質失敗しました。侵攻は1979年の出兵から1989年の完全撤収まで約10年に及び、「ソ連のベトナム戦争」と言われました。
    ソ連側は1万4000人以上が戦死、7万5,000人が負傷、出兵ソ連兵の中に麻薬が蔓延などの社会問題も。ソ連の社会や経済が疲弊し、1991年のソ連崩壊に繋がったと指摘されることもあります。今回のロシアのウクライナ侵攻は、ソ連のアフガニスタン侵攻の二の舞になる可能性が大きいと言われています。
  • ロシアの主要な多国間同盟:
    1992年に発足した集団安全保障(CSTO)は、ロシア、アルメニア、ベラルーシ、カザフスタン、キルギス、タジキスタン、ウズベキスタンの7ヶ国が加盟しており、NATOに対抗する多国間同盟です。
    1996年に発足した上海協力機構は、中国、ロシア、カザフスタン、キルギス、タジキスタン、ウズベキスタン、インド、パキスタンの8ヶ国が加盟しています。幅広い協力を掲げていますが、軍事同盟の色彩が強い同盟で、イラン、モンゴル、ベラルーシ、アフガニスタンがオブザーバ参加しています。

 軍事面と、制裁面から考える今後の展望

本年2月末から始まったロシアのウクライナ侵攻は、当初は短期に終了するようにも見えました。しかし、現在も戦闘は続いており、まさに終わりの見えない泥沼状態に落ちっているようです。ロシアは、もしEUやG7が直接ウクライナを軍事的な支援をすれば、核戦争も辞さずと表明しています。EUとG7のウクライナ支援は物資的な支援に限定されていますので、当分は消耗戦が続くことになるでしょう。
ロシアとウクライナ、EU、米国との人口、GDPを次の表に示します。

表:各国の人口とGDP表:各国の人口とGDP

GDPで考えますと、ロシアとEU+米国の経済力は圧倒的に差がありますから、戦いが長引くとロシアが大変不利になるでしょう。
次にEUとG7等のロシアに対する経済制裁ですが、現在は非常に有効な対応策です。昔に比べて今は国際間の経済は大きくグローバル化しています。ロシアにおいては天然ガスなどの資源をEU等に買ってもらって、自国の経済や国民の暮らしが成り立っています。
今後ロシアに対するEUとG7等の経済制裁が続きますと、相対的に経済規模が小さいロシアには相当効いてくることと考えられます。戦争の結果がどうなるにせよ、ロシアにとっては、これからはまさに苦難の道、茨の道を歩むことになるでしょう。

 ウクライナに内在する不安定さ、不明確さ

今は侵略者がロシアで、同情すべき被害者はウクライナという捉え方が、西側民主主義国では基本です。しかし、ロシアの侵略については、非難はしますが、ウクライナ支援やロシア制裁の取り組みや対応の方法はまちまちで、国ごとに温度差が感じられます。その最大の理由はウクライナが最近まで、ロシアや中国、北朝鮮などの社会主義国と極めて親密な関係があったことです。
歴史を辿れば、ウクライナは旧ソ連時代には今のロシアと一緒に行動していました。朝鮮戦争、ハンガリー動乱、ベトナム戦争、アフガニスタン侵略などは軍事的な一員でした。
ウクライナは北朝鮮との関係が深く、長年に渡りICBMなどの兵器技術提供も行ってきました。ウクライナの協力なしでは、北朝鮮の現在の核ミサイルの開発はなかったでしょう。
また、ウクライナは中国とも軍事的および経済的な強い結びつきがありました。当時ウクライナで建造途中であった空母「ヴァリャーグ」を中国が買取、空母「遼寧」として完成させました。これに合わせて、ウクライナが保有していた艦載機スホーイ33を中国が輸入して、空母搭載戦闘機の開発を行いました。ウクライナの協力なしでは中国の空母はもっと遅くなったことでしょう。
経済面では、中国と欧州や一帯一路の沿線国を結ぶ国際貨物列車の定期運行が、武漢市からウクライナの首都キエフ市向けて2020年からなされていました。中国の一帯一路政策は、現在国際的に非難を浴びていますが、ウクライナはまさに中国の一帯一路政策の欧州における拠点でした。

さて、ウクライナにおいては、例えば2010年の大統領選挙では、親ロシアのヴィクトル・ヤヌコーヴィチが当選しました。このことは、ウクライナ国民も情勢によっては半分以上が親ロシアになる可能性があることを示唆しています。
EUやG7等が行った莫大な資金援助や武器などの軍事援助に対して、将来ウクライナが手のひら返しを行い、「EUやG7にそそのかされて反ロシア的行動をとったが、間違いであった」などと言い出さない保証はありません。
ウクライナ国内の状況をしっかりと把握し、冷静に判断することも大切でないかと私は思っております。これが杞憂にならないことを望みます。

進藤勇治

進藤勇治

進藤勇治しんどうゆうじ

産業評論家

経済・産業問題、エネルギー・環境問題、SDGs、コロナ問題をテーマとした講演実績多数! 経済・産業問題やエネルギー・環境・災害問題、SDGs、コロナ問題などについて最新の情報を提供しつつ、社会…

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