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2024年04月17日

サーキュラーエコノミーの技術的課題と企業の対策

カーボンニュートラルの次に世界が取り組むべき環境課題として、サーキュラーエコノミーが大変注目されています。しかし、サーキュラーエコノミーには多くの技術的課題があります。今回は、鉄とプラスチックを例に取り、サーキュラーエコノミーの克服するべき課題について触れてみます。また、企業が今後サーキュラーエコノミーに対して取るべき対応法についても考えてみます。

サーキュラーエコノミーの概念

下図はサーキュラーエコノミーの概念を示すものです。リニアー(直線)エコノミーでは、原材料や資源から生産し販売を経て使用され、廃棄物はそのまま捨てられる過去の経済の様子を表します。サーキュラーエコノミー+3Rは、reduce、reuse、recycleを行う現在の経済の携帯を表しています。
サーキュラーエコノミーでは、廃棄物を出さないことにより、円を描くように物質が循環する、いわゆる循環型経済を実現できます。

進藤氏コラム画像

サーキュラーエコノミーの概念図

鉄とサーキュラーエコノミー

建物や自動車などで使われ、使用済みとなった鉄は解体業者を経て、鉄スクラップとして回収され、再び鉄製造の原料として利用されます。日本国内向けの使用済み製品からの鉄スクラップは1,600万t程度です。
自動車などでは海外向けの輸出が相当数あり、これに伴い製品中の鉄が国内循環から外れることになります。このため、国内循環のみによって製品製造時に必要な鉄の量を賄うことは難しいことです。国内に留まる鉄スクラップの更なる有効利用を図るとともに、必要量を賄うため海外からスクラップや冷鉄源を輸入することが考えられます。
ステンレスなど一部を除いては、添加物が異なる合金種であっても鉄として一括りにされ、選別されずに回収されています。鉄の高度循環に向けては、添加物まで考慮した回収・リサイクルがなされる必要があることから、含有成分の判別技術や識別表示等により、鉄スクラップの合金種毎の選別を行うことや、回収・リサイクルし易さを意識した製品設計等が今後期待されます。
鉄のリサイクルにおける技術的な課題として、トランプエレメントと呼ばれる分離の難しい不純物が鉄スクラップに混入していますと、鋼材の機能性が低下するという点があります。このため、トランプエレメントの多い鉄スクラップからは自動車用鋼板などの高級鋼の製造が困難であることなどが、鉄の循環を阻む要因となっています。
これからは、鉄スクラップ中の不純物含有量判別し、選別技術による混入防止等、不純物を削減させること、また、不純物を含む鉄スクラップが原料であっても高級鋼材に匹敵する製品を製造できるような革新的な技術を開発することが望まれます。

プラスチックとサーキュラーエコノミー

プラスチックは多様な製品に使用されていますが、用途別にみてみますと、容器や包装、物流資材が47%程度、電気や電子機器等が15%程度、自動車が12%程度、建材が11%程度です。
一般廃棄物系排出のプラスチックのうち、リサイクルされているのは95万t程度であり、主に容器包装リサイクル法に基づいて回収されるPETボトル及びプラスチック製容器包装です。その他のプラスチックは、一部は回収・リサイクルされていますが、多くはサーマルリカバリー(熱回収)されています。
産業廃棄物系排出のプラスチックのうち、リサイクルされているのは107万t程度であり、主として生産ロス、加工ロスが回収されているものです。その他のプラスチックは、一部は回収・リサイクルされていますが、多くはサーマルリカバリーされています。
カーボンニュートラルの達成に向けて、バイオプラスチックの利用促進が求められており、プラスチック資源循環戦略では2030年までにバイオマスプラスチックを約200万t導入することを計画しています。しかし、現在バイオプラスチックの流通量は少なく、一般に調達価格がバージン樹脂よりも高いため、プラスチック使用製品への利用が十分には普及していません。
一般廃棄物のうち、容器包装リサイクル法に基づくルート等を通じて回収されたPETボトル及びプラスチック製容器包装や、産業廃棄物の廃プラスチックの生産・加工ロスなどは分別回収・リサイクルが進んでいますが、それ以外の廃プラスチックは資源価値に応じた市場が十分に形成されていないため、分別回収のインセンティブが低く、価値が低い廃プラスチックと混合されることで本来価値の高い廃プラスチックもサーマルリカバリーに回されることが多いです。

サーキュラーエコノミーの動向と企業の対応策

エレン・マッカーサー財団は、エレン・マッカーサー氏が、サーキュラーエコノミーへの移行を加速させるというビジョンに則り、2010年にイギリスを拠点に創設した組織です。1977年にイギリスに生まれたエレン・マッカーサー氏は、単独で世界一周航海を成し遂げたプロの女性セーリング選手でした。30歳を過ぎて選手引退後に、経済学を学び、サーキュラーエコノミーを提唱するに至りました。ただ、エレン・マッカーサー氏は、「サーキュラーエコノミーはまだ未発達の概念」としています。
サーキュラーエコノミーには解決するべき技術的課題が多く残されていますが、ヨーロッパではサーキュラーエコノミーの達成に積極的な取り組みを進めています。現在日本政府や日本の企業は高い関心を持っています。いずれ近い将来にサーキュラーエコノミーに正面から取り組むべき時代がやって来ることでしょう。
サーキュラーエコノミーは個々の企業が個別に達成を目指すものではありません。世界貿易が発展して、グローバルにモノが移動している現在では、サーキュラーエコノミーは国際的な協力の下で達成を目指すべきことです。
個々の企業にとっては、サーキュラーエコノミーの意義や克服するべき課題をしっかりと認識しておくことが急務です。そして、経済的合理性の下で、まずは3Rもしくは4R(3R+refuse)を出来うる限り進めていくことが現実的な対応になると思います。
日本の企業においては、サーキュラーエコノミーに対して的確なる対応を行いつつ、企業発展を達成されますよう、ご期待いたします。

進藤勇治

進藤勇治

進藤勇治しんどうゆうじ

産業評論家

経済・産業問題、エネルギー・環境問題、SDGs、コロナ問題をテーマとした講演実績多数! 経済・産業問題やエネルギー・環境・災害問題、SDGs、コロナ問題などについて最新の情報を提供しつつ、社会…

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