経済のグローバル化により、日本の企業も国際的な様々な規制に直面し、的確な対応が求められています。 紛争が続くコンゴで産出される鉱物資源が武装勢力の資金源になっていますが、これを抑制するために米国では金融規制改革法の紛争鉱物開示規制が実施されています。今回はこの問題について触れてみます。
米国の金融規制改革法における紛争鉱物開示条項
2010年7月21日にドッド・フランク法とも呼ばれる金融規制改革法が米国で成立しました。この法律の中に紛争鉱物に関する開示規制の条項が含まれております。この条項は1996年以来国内紛争が絶えないコンゴ(コンゴ人民共和国)の武装集団の資金源を絶つことを目的にしたものです。紛争鉱物開示規制にはコンゴおよび周辺国から産出される紛争鉱物を製品に使用する企業の米国証券取引委員会(SEC)に対する報告義務が含まれています。開示規制には罰則は設けられていませんが、武装集団に資金的に寄与し、深刻な人権侵害に加担していないかどうかを確認するためのもので、米国の上場企業に対して間接的に紛争鉱物の使用抑制を促しています。 紛争鉱物の使用量に関係なく、紛争鉱物を使用して製品を製造している企業が適用対象となります。ただし、製造工程で使用される工具や機械に紛争鉱物が含まれていても、適用対象にはなりません。また、単に仕入れて販売するだけの小売業も適用対象にはなりません。
紛争鉱物、スズ、タンタル、タングステン、金
紛争鉱物開示規制で紛争鉱物として指定されているのは、スズ、タンタル、タングステン、金の4種類で、これらは電子部品の製造などに必要な鉱物であり、先進国での需要は高い資源です。紛争鉱物の製品や用途の例は表1の通りです。
紛争鉱物 | 製品・用途 |
---|---|
スズ | ハンダ、メッキ、台所用品、集積回路、透明導電膜、キャパシタ電極、弾薬、ブリキ、青銅、合金材料全般、フロートガラス製造、食品・エアゾール等の缶等 |
タンタル | 携帯電話、PC、テレビ、カメラレンズ、ジェットエンジン、インクジェットプリンタ、コンデンサ、カーバイド工具、X線フィルム、エアバッグ等 |
タングステン | 集積回路、放熱板、産業用切削工具、ガスタービン用超合金、携帯電バイブレータ、ハース・坩堝、徹甲弾、超硬合金、電球フィラメント、エックス線管等 |
金 | 金箔、宝飾品、金貨、CD反射板、メッキ材、着色、電子部品用配線材料、触媒、合金材料、航空機用解凍液、医薬品、歯科用クラウン・ブリッジ等 |
紛争鉱物の産出国として指定されている国は、コンゴおよびその周辺国のアンゴラ、ウガンダ、コンゴ共和国、ザンビア、タンザニア、中央アフリカ共和国、ブルンジ、南スーダン、ルワンダの計10ヵ国です。ただし、これらの国の企業だから取引を行わないというわけではなく、取引抑制の対象はあくまでも非人道的な武装勢力です。 コンゴおよび周辺国から産出される紛争鉱物の世界の供給比率は、スズ=5%、タンタル=15~20%、タングステン=0.6%、金=0.5~2%です。中でもタンタルは供給比率が高いので今後注意が必要です。なお、コンゴは世界のコバルトの約半分を供給していますが、紛争鉱物には含まれておりません。しかし、米国の国務長官が武装勢力の資金源になると認めたものは、紛争鉱物に含めることができますので、コバルトに関しても動向が注目されます。
紛争鉱物開示規制に対する企業の対応
紛争鉱物開示規制では、対象企業は表2の3つのステップに沿って紛争鉱物に関する開示が求められます。
ステップ | 対応内容 |
---|---|
第1ステップ | (対象企業の調査) 自社が対象企業かどうかの調査を行います。 |
第2ステップ | (原産国の調査) 第1ステップの結果、対象企業は鉱物の原産地を判断するために合理的方法で原産国調査を行いSECに開示しなければなりません。また、結果は自社のホームページに開示しなければなりません。 |
第3ステップ | (デュー・ディリジェンスの実施) 第2ステップの提出結果、鉱物がコンゴまたは周辺国産であり、かつ再生利用品およびスクラップ起源ではないと知っているかそう信じる理由がある場合には、企業はこれら鉱物の起源と加工・流通過程に関するデュー・ディリジェンスを行い、結果を報告しなければなりません。 |
第3ステップのデュー・ディリジェンスとは、ある行為者の行為結果責任をその行為者が法的に負うべきか負うべきでないかを決定する際に、その行為者がその行為に先んじて払ってしかるべき正当な注意義務及び努力のことです。 紛争鉱物調査のプロセスは、現状把握と情報開示からはじまりますので、それが高じて取引停止やサプライヤーに使用材料の強要をしたり、サプライヤーに監査を行ったりすることは趣旨から外れます。
紛争鉱物開示規制に対するEUと日本の動向
米国の紛争鉱物開示規制が制定された後、欧州委員会はEU域内でも紛争鉱物の問題に取り組みを開始しました。その結果、2015年5月に欧州議会でEU紛争鉱物規則案が採択されました。 EU紛争鉱物規則案の特徴は3つに集約されます。まず紛争鉱物の生産者により近い輸入業者を対象としたことであり、次に対象地域をコンゴに限定しなかったことです。そして紛争鉱物利用の報告義務化に代えて、輸入業者による自主的な自己認証制度を採用していることです。 日本国内では、一般社団法人電子情報技術産業協会(JEITA)が米国のCFSIと連携するとともに、2011年よりメンバー企業とともに紛争鉱物問題に積極的に取り組んでいます。また、JEITAは自動車産業とも連携し、サプライヤーへの啓発活動に取り組んでいます。CFSIは製錬所・精製所等を監査し、紛争鉱物を扱っていないと認定された製錬所と製鉄所のリストを提供している米国の団体です。 なお、日本では、紛争鉱物に対応する法律は制定されていませんが、米国に上場している企業は当然対象になります。また、サプライチェーンの中で部品を供給している会社は対象企業の調査に対応・協力することになります。 今回の米国SECの紛争鉱物に関する開示規制の導入は、EUの電子・電気機器における特定有害物質の使用制限を行うRoHS指令や、有害な化学物質を管理するREACH規則の実施と同様に大きな影響を世界の企業に与えています。また、紛争鉱物開示を定めたSECの厳しい規則に対しては、全米製造業者協会などが原告となって、SECを訴えるという事態も起きています。しかし、紛争鉱物問題に取り組まない企業に対して消費者の不買運動につながりかねません。世界の多くの企業は紛争鉱物の調査や開示に経費や労力の大きな負担をかけざるを得ないものと思われます。
進藤勇治しんどうゆうじ
産業評論家
経済・産業問題、エネルギー・環境問題、SDGs、コロナ問題をテーマとした講演実績多数! 経済・産業問題やエネルギー・環境・災害問題、SDGs、コロナ問題などについて最新の情報を提供しつつ、社会…
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