シェールガスはどうなったのか、再生可能エネルギーは今後どうなるのか等、エネルギーの現状と展望を考える場合、原油の「可採埋蔵量」や「可採年数」が理解の上で重要な鍵になります。今回はこれらの点にふれてみます。
可採年数の不思議
テレビなどのマスコミ報道に限らず、公的機関の公報など、原油の可採年数があと42年であることを図や表で示しながら、「化石燃料は今のペースで使い続けるともうすぐ無くなってしまいます。原油はあと42年で枯渇すると予想されています」という文言をよく目にします。「原油の可採年数が42年」という表現は正しいです。しかし、「原油はあと42年で枯渇する」は正しくはありません。
私の学生時代に「原油の可採年数が40~45年」と言われていましたが、何年経っても同じことが言われ続けられて現在に至ります。可採年数の予測が間違っていたのでしょうか。それとも新しい油田が都合よく発見され続けてきたのでしょうか。
可採年数の謎?を解くことにより、世界のエネルギー事情をより深く理解することができます。
可採埋蔵量および可採年数とは
世界には多くの油田がありますが、原油1バレル(約159リットル)を採掘するコストは異なります。映画や報道映像でよく見かけますが、土地から勢いよく原油が吹き出す情景があります。ポンプで原油を汲み上げている油田もあります。また、海底油田の場合は、水面からの深さ300~3000メートル海底で数キロメートル掘削しての原油を採掘します。
原油の可採埋蔵量とは、地下に存在する原油のうち現在の価格で経済的に掘り出すことができる埋蔵量のことです。市場での原油の価格が1バレル25ドルのときは、採掘コストが1バレル10ドルもしくは1バレル20ドルの原油を採掘すれば利益がでます。しかし、1バレル30ドルの油田は生産すればするほど赤字になるので採掘することはなく、可採埋蔵量にカウントされることはありません。端的に表現すれば可採埋蔵量とは経済合理性をもって生産できる埋蔵量です。
現時点で、世界で1年間生産される原油の量を年間生産量としますと、原油の可採年数は次の式で決まります。可採年数=可採埋蔵量÷年間生産量
原油の価格が上昇しますと、可採埋蔵量に経済合理性を持った油田が加わって行きますので、可採埋蔵量は増えていきます。原油の年間生産量は大きく変わりませんので、結局、原油価格の上昇に従って、自動的に可採埋蔵量が増えていくことになります。
1970年頃は原油の価格は1バレル3ドル程度でしたが、現在は1バレル50ドル程度に上昇しています。現価格の上昇に伴って原油の可採年数がスライドしていることになります。
シェールガスはどうなるのか
シェールガスの採掘は、まず1500~3000mの深さにある頁岩層まで掘り進め、そこから水平に1000~2000mのパイプを頁岩層に掘ります。そして水圧によって頁岩層に割れ目を作り、メタンガスを回収します。このようにシェールガスの生産にはコストがかかります。
シェールガスの主成分は天然ガスと同じようにメタンです。天然ガスは産業の熱源として、また暖房の燃料として使われますので、石油と代替性があり、価格は原油と連動します。
生産コストの高いシェールガスが経済性をもって生産されるためには、原油の価格が1バレル50ドル程度以上になる必要があると言われています。かつては原油価格が1バレル130ドルまで急騰する時もありましたが、2008年のリーマンショックの後、近年原油価格が急激に下落しました。シェールガスが経済性を失った訳です。しかし、もし今後原油価格が1バレル60ドル、70ドルと上昇して行くと、シェールガスがまた表舞台に登場することになるでしょう。
なお、シェールガスは採掘にコストがかかります。アメリカではシェールガスを採掘した場所で化学産業の原料としたり、また火力発電や産業の燃料として使用するとコスト安でシェールガスを利用できます。しかし、アメリカで生産されたシェールガスを日本で使う場合は、まず港まで輸送し、メタンガスの液化タンカーに積み、日本まで運んで利用することになりますので、よりコスト高になります。日本での使用に経済性を持たせるためには原油価格の一層の上昇が必要です。ただ、円安の日本において原油価格のさらなる上昇は経済に影響がでる可能性があります。
エネルギーの展望
世界には地下深くの頁岩層の隙間に溜っているシェールオイルや、油分が砂岩の中に溜ったオイルサンドがありますが、これらから油分を回収するためには非常にコストがかかります。現状ではほとんど経済性はありません。しかし、オイルサンドに含まれる重質原油分の埋蔵量は、通常の油田の約2倍あります。
これから中国やインドなどの新興国の経済の台頭と国民生活の向上で、中長期的には世界のエネルギー消費は増加し、原油価格も上昇していきます。いずれはオイルサンドから重質原油を採ることが経済性を持つようになり、生産も本格的に始まることになるでしょう。
本来再生可能エネルギーはコストの高いエネルギーです。しかし、原油価格の上昇傾向の中で利用条件によっては再生可能エネルギーの利用が経済的に成り立つ場合が多くあります。そのような中で、現在世界的に再生可能エネルギーの利用が進んでいる訳です。
ここで述べました原油価格と可採埋蔵量や可採年数との関係を知って頂くと、世界のエネルギーの動向をより深く理解できることと思います。また、今回は原油を例にとりお話しましたが、この可採年数等の関係は他のエネルギーや銅や鉄、レアアースなどの天然資源全般に言えることです。是非、資源エネルギーと経済の理解に活用されることを期待致します。
進藤勇治しんどうゆうじ
産業評論家
経済・産業問題、エネルギー・環境問題、SDGs、コロナ問題をテーマとした講演実績多数! 経済・産業問題やエネルギー・環境・災害問題、SDGs、コロナ問題などについて最新の情報を提供しつつ、社会…
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