1月20日にトランプ大統領が就任しました。選挙戦中からトランプ大統領の発言内容は極めて特異でありました。トランプ大統領の誕生で世界の景気はどうなるのか、日本経済はどのような影響を受けるのか等に大きな関心が寄せられています。今回はこれらの点について触れます。
トランプ大統領とTPPの展望
トランプ大統領は選挙期間中に保護貿易主義的な発言を繰り返し、TPPの脱退を明言しました。そして、TPPの代わりに再交渉で二国間協定を主張しました。実際に、トランプ大統領は就任と同時にTPPの離脱の大統領令に署名しましたので、TPPの発効は絶望的と思われます。20年以上機能している北米自由貿易協定(米国、カナダ、メキシコ)についても、トランプ大統領はカナダ、メキシコが再協議に応じなければ、脱退すると表明しました。
TPPが発効されれば、日本では輸出が増えることから自動車や機械産業等にメリットが、また、外国からの安い農産物や食品が輸入されることから広く食関連産業等にメリットが期待されています。そして、自動車・機械産業や食関連産業の振興が日本経済を活性化すると期待されています。TPPが不発効となれば、これらの期待も無くなることになります。ただし、もしTPPが発効しても、直ちに日本経済が大きく活性化する訳ではありません。TPPの経済効果は10年、20年という年月で現われてくるものです。従って、TPP不発効の影響は現時点では限定的と考えるべきです。
その理由は、例えば一昨年合意されたTPP協定によれば、日本から米国への自動車の関税率(現行2.5%)を25年かけて撤廃することになっています。また、米国から日本へ輸入される牛肉の関税率(現行38.5%)を毎年徐々に下げていき、16年目以降に9%にすることになっています。
トランプ大統領の言動から本質を見抜く
トランプ大統領は保護貿易が米国にプラスになると主張していますが、これは歴史を90年後戻りさせる政策に見え、通常の感覚では理解不能な主張です。TPPを離脱して代わりに2国間の協定を結ぶと主張していますが、実はTPP協定の中身は2国間協定が中心です。トランプ大統領はTPPの中身を全く勉強していないと思われます。
TPPなどの「自由貿易の推進」は参加国が共に繁栄していくことで、国際社会における最大多数の「経済厚生」を目指すものです。一国の指導者は「比較優位」の経済原則を理解して国の産業育成に努めます。こうして現代社会では「国際分業」が構築されます。まことに残念ながら、トランプ大統領は「自由貿易の推進」や「経済厚生」「比較優位」「国際分業」の意味やそれらの重要性を理解できていないと思われます。
トランプ大統領は雇用を増やして景気を上げると言っていますが、順番が逆であり、景気を良くすることにより雇用が増えていくものです。雇用を増やすためという理由で実施している政策も、長い目で見ればいずれも米国の経済を後退させ、結局は雇用を減少させるものです。メキシコで生産される各社の自動車を米国内で製造しろと言っていますが、結局は価格の高い自動車となり、いずれは国民から不満が出されるでしょう。トランプ政権の閣僚からは大統領の主張と食い違う発言がしばしば行われており、混乱を招き政権の信頼性が失われています。
大統領当選後、ドル高、米国の株高の状況が続いていましたが、1月20日の就任前後も同じレベルの発言の繰り返しで、失望感によって市場はドル安(円高)、米国株安(日本株安)の方向に進んでいるようです。経済や国際政治の安定を望むべくもなく、独善的政策を続けるトランプ大統領が感情的に戦争を起こさなければ、短気に核のボタンを押さなければ良しとすることが、国際社会において非常に現実的な判断、対応になることでしょう。
トランプ大統領の日本経済への影響と対策
ケース1:トランプ大統領の発言には、知識不足や判断能力不足のため、矛盾した発言や政治的に問題ある発言が多数あります。政策の一貫性を欠いており、今後最悪の場合は米国経済の不安定・低迷を招くおそれがあります。企業に損害を与えたり、株価の下落になるような発言は、今後訴訟をも招くおそれがあります。
さらには、政治上の不用意な発言や無分別発言等が外交上の大きな緊張を招くおそれもあります。その結果、米国経済と世界経済の低迷を招き、日本経済も大きな影響を受ける可能性があります。
ケース2:選挙に勝つために事実を無視した主張や、大衆受けのおいしいとこ取りの発言が極めて多いトランプ大統領です。しかし、大統領就任で矛盾した政策はこれから精査され、選別されていくことになることを期待したいところです。
そうなった場合には共和党の基本政策である大企業優遇、強い米国の方向に進み、米国経済は好調でドル高、株高になることでしょう。米国経済の好調が続けば日本からの製品が売れ、円安等により、TPP不発効の影響はあるものの日本経済も好調が維持されることと考えられます。ただし、この場合米国内では低所得層や有色人種への政策が後退し、減税による財政問題も生じるでしょう。これらの結果は1年後の中間選挙や3年後の次期大統領選挙へ大きな影響を与えることになるかもしれません。
トランプ大統領の政策は多くの矛盾を含んでいます。現状の情報だけで判断すればケース1の状態になるものと思われます。しかし、期待も込めて予測しますと、トランプ政権にある程度の良識が加わってケース2の状況に進ことが望まれます。ただし、ケース2の状況になり景気が上昇しても、いつ破綻するか分かりません。当面は高いリスクを持った状況が続くでしょう。
日本企業の対策としては、就任後の100日間トランプ大統領の政治や主張を慎重に見極め、100日後も同じレベルの発言を繰り返している場合は、リスク回避や安全対策優先の経済活動をとることが堅実な対応となることでしょう。
進藤勇治しんどうゆうじ
産業評論家
経済・産業問題、エネルギー・環境問題、SDGs、コロナ問題をテーマとした講演実績多数! 経済・産業問題やエネルギー・環境・災害問題、SDGs、コロナ問題などについて最新の情報を提供しつつ、社会…
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