今回は、日本社会と大きく異なる米国社会の制度をいくつか紹介いたします。その情報が米国の理解に役立てば幸いです。さらに、米国経済の活力の源泉がどこにあるかを少しでも感じ取ってもらえればと思います。
米国では戸籍や住民票はない
日本では戸籍があり住民登録があります。必要なときは区市町村の窓口で住民票を発行してもらったり、就職や結婚などの重要なときには戸籍謄本を発行してもらいます。米国では戸籍はもとより住民登録もありません。住民登録がないということは住民票もありません。戸籍や住民登録がないということは、どうやって様々な社会サービスを受けるのかという疑問が生じます。戸籍に代わるのが生まれた病院で発行される出生証明書で、本人は大切に保管します。次にソーシャルセキュリティーカードを取得します。カードが大切なわけではなく、そこに記載された番号が重要で、人には教えないことが重要です。
世界のほとんどの国で戸籍制度はありません。よくよく考えてみますと戸籍制度は絶対必要というものではないようです。戸籍があるのは日本と中国、韓国ぐらいで、戸籍は土地に民を固定的にしばりつけた農耕民族の制度とも言えます。日本においては、納税は属地主義で行われ、個人の納税情報は自治体が管理します。しかし、米国では属人主義で納税しますので、自治体が間に入ることはなく、ソーシャルセキュリティーカードで管理されます。
日本においては、人は生まれた場所から移動しない、人が一度務めた会社を一生変わらない、結婚すると離婚しない等、極めて固定された観念で様々な社会制度が出来ているのではないかと思います。戦前は九割以上の人が農業で生計を立てていましたので、生まれた場所から移動することは稀なことでした。人の移動は経済の活力です。それを前提としたパワフルな米国社会に日本は負けています。変化しないことを前提とした日本の社会制度は、今様々な破綻や矛盾が生じています。保険、年金、納税等、種々の制度において不合理や不効率と思えることが沢山あることは、国民皆が実感しているところです。
米国では選挙は2年に1度しか行わない、登録しておかないと投票権はない
日本では選挙になりますと、事前に自治体から投票所入場券が世帯ごとに郵送されてきます。もっとも、投票所入場券がなくても投票はできます。日本では住民登録していれば自動的に投票権が与えられます。
米国では選挙になると、投票所入場券が各世帯に郵送されてくることはありません。住民登録制度がないのですからそのようなことをすること自体が無理です。そもそも米国では住民であっても、無条件で投票権がある訳ではありません。本人が事前に有権者登録をしておかなければ選挙権はありません。転居してきた人が、その地域に住んでいることを証明するには納税書や電気、ガス、水道などの公共料金の領収書を提示します。こうして、有権者登録を行って選挙権を得ます。米国の各自治体の選挙管理委員会の大きな仕事の一つが選挙のための有権者名簿を作成することです。
日本では、議会が解散したり、市長が辞任したりしますと直ぐに選挙が行われますが、米国ではそのようなことは一般に不可能で、選挙は原則として遇数年の11月の第1月曜日の翌日の火曜日に行われます。選挙では連邦、州、市町村の首長や議員の選挙、住民投票が同時に行われます。大統領選挙は4年ごとに、連邦上院議員は3分の1ずつ選挙されます。
日本では、市議会、市長、県議会、知事、衆議院、参議院の選挙が別々に行われ、その都度何億、何十億、何百億円(国政選挙の場合)の選挙費用が必要です。日本では財政赤字を抱え、さらに社会保障費や教育費の財源不足が指摘されています。選挙を何回も行って税金を浪費している現状を、そろそろ冷静になって改める時期が来たように思います。
米国の大学では日本のような入学試験は行わない、国立大学は三校あるのみ
日本では入学試験は、原則として受験生が志望大学に集まり試験を受けます。米国の大学ではそのような入学試験は行われません。米国の多くの大学では、志願者から提出された高校の成績、SATあるいはACTテストの点数、推薦状、小論文をもとに入学の合否を決めます。
SAT、ACTテストは日本のセンター試験のようなテストです。日本のセンター試験は1回しか受けることができませんが、米国のSAT、ACTテストは何度でも受けることが出き、その中の良いスコアの結果を選んで提出できます。このような米国の大学の入試制度では、ハーバード大学、マサチューセッツ工科大学、イェール大学、プリンストン大学など複数の大学に同時に合格することも可能です。実際にそのような人を私は知っています。
日本には779の大学があり、そのうち国立大が86校です。それに対して、米国では国立大学は、陸軍大学、海軍大学、空軍大学の3校のみで、他は私立大学か州立大学になります。先に例で述べたハーバード大学やマサチューセッツ工科大学などはすべて私立大学です。
米国の大学を理解する場合に、日本の大学を基準に考えてはなかなか理解できないことが多いです。むしろ米国の大学は活力のある民間企業と考えると理解しやすいです。
今回は米国の社会や文化について述べました。文化という基盤の上に経済や政治がありますので、文化や社会制度の違いをよく知ることが、より深く米国の理解につながります。日本社会と米国社会の違いは、米国社会が多様性や社会効率を一層重んじるということが大きい要素であると思います。今回述べたことは、日米の違いのごく一部です。今後も機会があるごとに相違を述べたいと思います。是非、米国社会の活力の源泉を探って下さい。
日本は物事が変化しないことを前提とした社会ですが、米国では物事が変化することを前提としており、時代の変化に対応しないことはむしろ悪であり罪であります。ペリー提督もしくはマッカーサー元帥が来ない限り、日本は自ら変わることができない国なのでしょうか。活力ある日本になることを期待致します。
進藤勇治しんどうゆうじ
産業評論家
経済・産業問題、エネルギー・環境問題、SDGs、コロナ問題をテーマとした講演実績多数! 経済・産業問題やエネルギー・環境・災害問題、SDGs、コロナ問題などについて最新の情報を提供しつつ、社会…
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