読む講演会Vol.15
2018年09月03日
No.15 黒川伊保子/“読む講演会”クローズアップパートナー
黒川伊保子
株式会社 感性リサーチ 代表取締役社長
目次
女性には、まず肯定をしてから、結論を言う
これから「男女の脳が違う」という話をしてまいります。私は、人工知能の研究者です。1983年に大学を卒業し、「富士通」に就職。入社後、人工知能の研究室に配属になりました。実は1983年は、我が国の「人工知能元年」でした。前年に当時の通産省が、人工知能の基礎研究機関を立ち上げます。新世界コンピューター技術開発機構、通称「ICOT(アイコット)」と呼ばれた研究機関です。私は1番年下の下働きのエンジニアとして、そのプロジェクトに参加し、以後、人工知能を研究してきました。専門は「人と人工知能の対話」です。「人とコンピューターの対話」と言ってもいいかもしれません。これをコミュニケーション論やマーケティングのために使っていただけたらと思って、2003年、今の会社「感性リサーチ」を興して現在に至っています。
研究の日々のなかで、気がついたことがありました。それは、「男女の脳が違う」ことです。私たち人工知能の研究者は、研究の約6割が「人の脳を分析する」ことですが、男女を混ぜて分析すると、機能フローが書けないことがわかりました。私たちは、すでに1980年代から「男女の脳が違う」ということに気がついていたんです。
女性と男性では「対話の通信線の数」が違います。女性は「心」と「事実」の2本の通信線を持って、相手とコミュニケーションを取ります。どういうことかというと、相手の事実を否定するときも、「先に心を肯定する」喋り方をするんです。もし、目の前の人の事実を否定する、つまり「あなたが悪い」と指摘しなければいけないときでも、「あなたの気持ちよくわかる。私も同じ立場だったら、きっと同じことをしちゃったわ、でもね、それは違うの」という言い方をします。大切な友達に対しては。女性上司が女性部下からの提案を受けたときに、この提案が箸にも棒にもかからない「何を素っ頓狂なこと言ってるの?」という提案が上がってきたとき、男同士だったら、「いやこれさ、ここが駄目だよ」と言って簡潔に返して、向こうも「そうですか」となりますね。女性の場合はちょっとややこしいんです。私なら女性の部下に対して、いきなり「あなた、ここ違ってるよ」とは言わないです。「ああ、これよく気がついたわね」「私も気になっていたの、どれどれ」と言って一応読んだりして、「はあ、でもね、もう箸にも棒にも全然かからない、これ駄目」と言う。 事実を否定するのは、潔く全否定でOKなんです。ただその前に、この提案を持ってきたこと自体を受け止めないと、実は大変なことになります。
「心の通信線」を使わないと、女性の場合は存在を否定されたことになるからです。いきなり否定することは、「あんた、ここにいなくてもいいよ」と言ったことになる。そう聞いてしまうんです。だから「ああ、私なんか、ここにいらないって言っているんだ、この部長は」「ひどい!」となる。女性はこうできています。それを知っていると知らないでは、大きく違います。
男性は基本、事実と心を乖離させません。否定するときは、潔く否定します。肯定するときも、しっかりと肯定する。理由があるんです。男性は「事実」と「心」を乖離させると危ないからです。男性の脳は、長らく狩りをしながら進化してきました。何万年も荒野に出て、危険に身をさらし、自分と仲間の命を救いながら、確実に獲物を持って帰ってきた男性だけが子孫を増やしてきたのです。その果てに、21世紀の男子がいます。21世紀の男子は、全員が狩りに出るわけではないですが、狩りに出るときと同じ構造で脳を動かしています。荒野に出て、危険に身をさらしているとき、心と事実を乖離させたら危ない。「君の気持ちって、よくわかるんだけどね」なんて言って荒野を進んでいたら、沼に落ちてしまいます。なので、男性は基本、心と事実を乖離させず、事実をいさぎよく否定してやる。それは相手の生命を救うためです。
産業構造も、実は狩りと同じです。時間のコストパフォーマンスを最大限に上げ、常に危険から身を守っていかなければいけない。職場での会話は、それで基本はよいはずです。でも、女性脳は、いきなり否定をされたときには「心の通信線を断たれた」という気持ちになることだけは、男性は覚えておいたほうがいいと思います。私たちキャリアウーマンは、それを乗り越えていくんです。「いきなり否定された。でもこれには悪気はない」と思って、一旦落ちた気持ちを自分の理性で上げていくんです。ただ、やっぱり女子はこれではなかなか生き残れない。この「コミュニケーションの通信線が2本ある」ということ。とりあえず覚えといていただくと、うれしく思います。
男性はゴール思考問題解決型、女性はプロセス思考共感型
一方で男性の脳を研究してわかったのは、「心と事実を乖離させて15分もすれば、男子はヘロヘロになってしまう」ということでした。「この人が悪い」と結論が脳のなかで出ているのに、それを我慢して「君の気持ちがわかる」なんて話を聞いたら、普通は15分も我慢できない。下痢するか、風邪引きます。免疫力が著しく落ちるからです。
男性脳は、「ゴール思考問題解決型」です。結論が出ていることなら、先に結論から聞きたい。結論を出すための対話であれば、その目的を最初に明らかにしてほしい。そして、その話の「骨子」があれば、最初にそれを数字で教えてほしい。「理由は3つあります」とか「ポイントは4つあります」みたいに、最初に数を教えてほしい。なぜ、このスタイルを取るかというと、とても合理的なスタイルだからです。対して女性は「プロセス思考共感型」です。両者で何が違うのかというと、プログラムの大きさが違うんです。ゴール思考問題解決型は、小さなワーク領域で済ますことができます。
男性と女性では「対話に使う脳のワーク領域」が数十倍も違うんですね。男性は、対話以外にもすることが脳にあり、そんなに広い領域を割けない。女性の数十分の1の領域で「対話」という行為を完成させる。そのためには、この合理的なプログラムの方式を取らざるを得ない。これが、ゴール思考問題解決型です。「結論から言う」「話の枝葉を作らない」「最初に骨子を決める」。
たとえば、夫婦で法事の相談をする。夫がうれしい妻からの問いかけは「お母様の3回忌について、相談があるの、あなた。ポイントは3つ、いつやるか、どこでやるか、誰を呼ぶか、です」。話の枝を作らずに、いつやるかの話をちゃんと決め、どこでやるかを決め、誰を呼ぶかを決める。そういうふうにすれば決して迷子になりません。
しかし女性は、前の法事の愚痴から始めたりするわけですね。「あなた、お父様の7回忌のときの、あのおばさん、私になんて言った?」みたいな話とか「あそこの料理がまずかった」とか「あのお経、長くない?」とか、いろいろな話が入ってくる。結局、何の話かわからないでぼんやりしてくる。この「ぼんやりしてくる」というのが、女性と男性では大きく違うんです。私たち女性も、相手の話が要領を得なくて長いと、ぼんやりします。私たちもぼんやりして、友達の話を聞く。ただ、このぼんやりしてるときの脳の様子が違う。
女性はぼんやりしてるときも「言語野のスイッチ」を切らない。音声認識もしていれば、意味認識もしている。なので、上の空で話を聞いていても、相手の女性が「あなたどう思う?」って言ったとき、決して逃さないんです。100パーセント逃さないんです。その上、女性はすごいことがありまして。ほんのちょっとの会話なら、巻き戻して聞きなおせるんです、脳のなかで瞬時に。キーワードを言っていく。「うん、その件ね、あれって言うけどさ」なんて、言いよどむ。そうすると、相手がもう1回言ってくれるので、話についていけるんです。
ところが男性は、ぼんやりしたときに、言語野のスイッチを切るんです。私、この電気信号を見たときに、大変なショックを受けました。なぜなら、男性はぼんやりしているとき、音声認識もしていないからです。おそらく、私たち女性は、そんなことは生活のなかで一切ない。おそらく男子は、ぼんやりしてるとき、目の前の奥様の話が、「ほえほえほえほえほえほえほえ」みたいに聞こえているんです。だから、怒りの鉄拳がくだされたときに、「はぁ?」と言うしかない、という状態が起こるわけです。女性も誤解しているんです。「音声認識してないんだから、しょうがないよね」にならないと。男性と女性、こんなにも対話という行為を挟んで、脳の動きが違うんです。
情が絡むとっさの会話においては、女性はほぼほぼプロセス思考共感型を、そして男性はゴール思考問題解決型を選ぶ。この事実に、私が気がついたのが、1990年代の中頃でした。その後も実験したりしていたんですが、「これは、あと20年近く人工知能の研究室に眠らせておくのは惜しい」と思いました。こういう知見は、人工知能に搭載する前に、生身の人間も知るべきだ、と。そしてコミュニケーション論やマーケティングのために使っていただけたらなと思って、会社を興したんです。
なぜ女性は、わざわざ「転ばなかった話」をするのか
私たちの会社は、こういう知見を「職場の組織力向上」のための人材開発に使っていただいたり、マーケティングに使わせていただいたりしている会社です。先ほどもお話した通り、産業構造や会社での会話は基本、ゴール思考問題解決型で構いません。そうしないと職場はうまく回らないんです。そもそも産業界は、男性脳型です。これは男性脳が牛耳っているからではなく、大量の商品を均一の質で迅速に市場に流通させるという構造自体が男性脳に適しているからです。私たち女性も、ここへ参入してくるときには、男性脳型で動くように鍛えられるし、自身をそう律していきます。それは、ある程度仕方がないことです。ただし、100%男の真似をさせて、「それでいいかどうか」というのは問題があります。産業構造のほとんどがゴール思考問題解決型ですが、プロセス思考共感型でないと機能しない職業もあるんです。マーケティングのような新しいアイデアを出すところでは、プロセス思考共感型の会話もお薦めしています。
例えば、命題1。女はなぜ「転びそうになったのに転ばなかった」などという話をするのか。これは私が20数年前に、同僚の男子から寄せられた質問です。彼のところに、新人の女性が初めて入ってきたときの話です。その女の子が、ある朝会社で開口一番こう言ったんです。「さっき駅の階段で、つまずいて落ちそうになって怖かったんです」と。
私の同期の彼は大変冷静な声で言いました。「で?何段落ちたんですか?」。彼女は「落ちてません」。話は冷たく終わりまして、気になったんでしょうね。彼は私に、「俺、何か間違った?」と言うので、「間違ったね。あれは共感しなきゃね」と言いました。すると彼は言いました。「だって黒川さん、転びそうになったけど転ばなかったんだよね、彼女?」「それって情報量ゼロだよね。どこに掛け算してもゼロじゃない?」と。私が返したのは「いやいやいやいや、気持ちに共感するの。怖かったっていう気持ちに寄り添ってあげないと。そりゃあ怖かったろうって言ってあげればいいのよ」と。すると、「何のために?」と彼に聞かれたんです。私は説明しました。女性にとって「共感」は、気休めではなく脳にとって本当に必要な機能のひとつなのだ、と。そもそも女性の脳は「怖い」「酷い」「辛い」などの危険に伴う感情が強く働き、長く残ります。男性より、もっとです。
経験の少ない若い女性。これから子供を産んで育てる人であれば、男性の数十倍も強く働き、数百倍も長く残ります。だから、いつまでも「怖い怖い怖い」と言う。いつまでも「酷かった酷かった、酷いよね。ねえ、そうよね」と言ってくる。
なぜ、危険に伴うこういう負の感情が、心が揺れるようにして長く続くか。私は脳と付き合って35年、深く腹落ちしていることがあるんですが、脳は1秒足りとも無駄なことはしないんです。心が揺れている、動揺している、それが長く続いている。これも、決して無駄ではないんです。
女性の脳は何かに危険が起こったとき、危険な目に遭ったとき、そのプロセスを、脳のなかで1回解析します。自分が2度と同じ場所に足を踏み入れないようにするための知見に変えているんです。無意識のうちに、です。彼女のケースでいえば、転びかけたシーンを脳のなかで1回解析し、無意識のうちに、次の日には乗り換えの駅で乗る車両を変えたり、漫然と人混みに押し出されるようなことをしないようにする。知見をとっさに使える領域に記憶として入れていく。プロセス解析には時間がかかります。とっさに使える領域に記憶を定着させるのも、時間がかかります。なので、この時間を脳が稼ぎ出さなきゃいけない。いつまでも怖がっているのは、怖がっている間に脳がプロセス解析して、知見を切り出しているからです。
なぜ、男の子は危険な場所に何度も行くのか
厳密に言うと女性は、2度と全く同じ危険な場所に、自分を追い込むことはありません。「身を守る」ことに関して、脳が最大限の発動をするんです。なぜそういう脳になったかというと、「哺乳類のメス」だからだと思います。哺乳類のメスは、自分の身体のなかで一定程度、子どもを大きくし、命がけで産み出していく。そのあとさらに長い間、血液を母乳に変えて与え続けます。命を注ぎ、命がけで子供を、生殖をしていくわけです。だから危険な目に自分が遭わず、「自身が保全されている」ことが、すごく重要なんです。危険な目に遭わない。これが生殖の第1条件だからです。この星の生物のほとんどが、生殖で命をつないでいます。従って、「生殖本能」が脳の感性の第1位なんです。そのうち哺乳類のメスは「自己保全」、自分の身を守ることが第1。なので、そこまで脳が演算をしてくるわけです。
一方、男性の方ですが、こちらは感情が長引かないように設計されています。荒野に出て危険な状態にあるとき、いつまでも動揺していると危ないからです。「僕、こっちの谷に落ちそうになっちゃったんですよ。みんな聞いてください。落ちそうになったんですよ」なんて言っていたら、谷に落ちます。男性の方は、素早く「動揺の信号」が落ちます。しかし、そのほんのわずかに動揺してる間に何をするかというと、結論、つまり身の処し方の筋肉と骨格の動かし方を記憶として小脳に書き込むんです。「結論を」なんです。会話も「プロセス思考」と「ゴール思考」に分かれましたが、危険な目にあったときの脳の処理も、女性の方はプロセス、男性の方はゴールなんです。身の処し方だけを入れ、素早く動揺信号を切り、次の所作に集中できるのが男性ですから。女性から見ると男性は何度も懲りずに同じ危険な場所に足を踏み入れていき、その度に身の処し方がエクセレントになっていく人たち、ということになります。
小さな子を育てていると、本当によくわかります。女の子は、ジャングルジムで頭打ったりしたら、しばらくジャングルジムに近寄らない。そのまま一生、ジャングルジム嫌いになる子もいるぐらいです。男の子は全然平気。息子が小学校5年のときの作文があるんですけど、それを見て「本当だな」と思いました。「ジャングルジム」というタイトルでした。ジャングルジム。「僕はジャングルジムが大好きです。何度頭を打っても、大好きです」と始まりましたから。
「女性は蒸し返しの天才」である理由
女性は、ある一定程度の体験記憶が、心の動きと1セットで入っているんですね。その心の記憶をキーファクターにして、データを検索してくれる。なにか危険な匂いを感じたら、「過去に脳のなかに、その危険な匂いと共に入っている体験データがないかどうか」を瞬時に探してくる。だから、駅を歩いていて、ちょっとでも危険な匂いを感じると、0.06秒で過去の全ての類似記憶を引き出してきて、ほぼ無意識のうちに、その記憶を使います。「手すりをつかまなければ」とか「この流れに乗っては危ない」みたいなことを、女性の脳は感じていくわけです。あらゆることに、これを使うんです。
子育てというのは、何人子供を育てても、常に人生初トラブルがやってきます。その初トラブルをどう乗り越えるかが、うまく子供を育てられるかどうかの瀬戸際になる。そういうとき、過去の類似体験を引き出してこれるんです。しかも、すごいところは、6歳までの子供は、目の前の大人の感情でこれを入れているんです。自分自身が2歳のとき、たとえば熱を出した。それを心配して、おばあちゃんが何かしてくれた、と記憶があったとする。その記憶は「幼い子が熱を出した、どうしよう」という気持ちと共に入っています。おばあちゃんの気持ちで入っているんです。だから物心つく前に、自分が赤ん坊のときにしてもらった記憶を、30歳で引き出せるんです。幼い娘のために「ああ、夜中に熱を出した。この子どうしよう」と思ったとき、2歳のときの記憶を引き出して、おばあちゃんがやってくれたことをできる。もう天才的です。このために、その能力があるんだと思います。
この形で、データが入っていますから、当然副作用があります。夫や上司が何か無神経なことを言うと、過去の無神経な発言を、全て0.06秒で脳裏に取り揃えてきます。「女性は蒸し返しの天才」とも言われ、何年も前の失態を、何度も謝ってるのに、何度も叱られる、ということが起こります。これはしょうがないんです。しかも感情と一緒に入っているので、紐解いたとき、感情もみずみずしく起こる。「お前何度も謝ったじゃないか」と言うんだけど、「こっちも何度も傷ついてるので、ごめんあそばせ」というところが、あるわけですね。
しかし、全く愛してない相手には腹も立たない。だから腹が立つ以上愛されてる、ということなので、目の前の大切な女性がもしキレたら、もうこれは観念して謝ってあげてください。しかしその謝り方が、大抵間違っているので、謝り方もワンポイントアドバイスしておきます。「女の機嫌の直し方」です。
相手の気持ちに言及して謝る。相手の気持ちを言葉にして謝らないと、謝ったことにならないんです。「あなたってどうしてそうなの?」と言われたとき。かなり機嫌が悪そうだから、大抵の優しい男子は謝ってくれます。しかし、ほとんどの男子が「ああ、ごめんごめん」と言うんです。いきなり「ごめん」、しかも2回。そんなのハエ叩きで叩いてる感じがするだけ。これで機嫌直してくれる女子います? 「ああ、ごめんごめん」「うん。許してあげる」なんていう展開が、新婚3週間以上で起こっているなら「連れて来い、その妻」って感じです(笑)。大抵は、「ああ、ごめんごめん」って言われても、妻の機嫌は直らない。これは、相手の気持ちを言って謝るんです。「嫌な思いさせたよな、ごめんね」ですよ。キザなセリフと思うかもしれないが、言ってごらんなさい。もう、人生変わりますから。
男性はボーッとさせてあげないといけない
女性脳と男性脳の違い。これを生み出しているのは解剖学的には右脳と左脳をつなぐ、脳梁という場所の太さの違いです。脳梁は、右脳と左脳の脳細胞をつなぐ神経線維の束、情報線です。光ファイバーのようなものですね。右脳は、五感から入ってきた情報を統合して、イメージにする部分。左脳はそのイメージに意味を付与して、言葉や記号に変え、論理に変える場所です。つまり、右脳は潜在意識、左脳は顕在意識です。感じたことが、どんどん言葉になる。あるいは言葉を見て、それを感情に変える。こういうときに、右脳と左脳の間の情報線、脳梁を電気信号が行ったり来たりします。この脳梁が、そもそも女性の方が、男性よりも5〜10%太く生まれついていて、両脳連携がいいというのが、脳の性差の根拠なんです。
とはいえ、脳は身体のように真っ二つに分かれるわけではないです。典型的な男性脳から典型的な女性脳まで、万遍なく分布している。だから、どっちも使えるという人もいます。さらに、男性の身体を持って、女性脳型で生まれてくる方もいれば、逆もいます。一人ひとりの脳は、明確にこっちとかあっちとかは言えないんです。でも、やっぱり100人の男性と100人の女性がいれば大きく傾向が出てくる、というのが男女脳です。
電気信号特性を図示化した様子を見ると、一方ではおでこに近いところで、右脳左脳の両脳連携が激しく行われているのがわかります。もう一方は、右脳と左脳の連携信号が一本もないので、この状態の人は、ただぼんやりしています。ぼんやりしながら脳の電気信号を深く、そして広く使っています。脳を最大限に活性化した様子がよくわかります。ぼんやりしながら脳全体を激しく使って、空間認知の領域を精査している状態です。後者が男性脳型、とくに男性脳的に使ったときの様子。前者が女性脳型の様子です。右脳と左脳の連携信号を激しく使うと、女性の場合は問題解決ができます。右脳と左脳の連携信号を激しく使いながら、目の前の物をつぶさに観察している。
一方、男性は、ぼんやりしながら脳を最大限活性化しています。ぼんやりしている間に空間認知の領域を広げ、俯瞰力、戦略力、構造認知力、これが伸びていきます。逆にいうと、こういう力を伸ばそうと思ったら、ぼんやりすればいい。つまり、「男の子や男性は、日々ぼんやりさせてあげなきゃいけない」ということになります。このことを知ってから、私は夫がぼーっとしている時間、邪魔しません。テレビ見ながら、ぼーっとしてる。それまでは「見てないでしょ!」と言って切っていましたが、もうそーっとそーっと。「今、ものすごく活性化しているんだわ、このままほっとかなきゃ!」。
夫は私と同い年で、来年還暦です。ここから先は、少しでも脳を活性化しとかないと、大変なことになるので、そーっとしています。これがわかったので、息子を育てるときも、習い事を一切させませんでした。とくに小脳の発達臨界期、8歳までにどれだけぼんやりさせたかで、のちの理系の能力が決まるんです。とにかく、ぼんやりさせました。息子は理系に進み、物理学科のレーザーの研究をして、大学院まで出て、今は車の設計をしています。「レーシングカーの空力の計算」をしていますけどね。週末は、なんと猟師なんですよ。鹿とかを撃つんですけどね。「ここまで男性脳に育っちゃったか」と思ってね。そこまでじゃなかったんだけど、と思う日々です。
男性と女性は、見えている範囲が違う
最後に「男女の眼球制御の違い」もお話しておきましょう。「物を見る」ということに関して言うと、男性と女性は守備範囲をきっぱりと分けています。男性は3mよりも外側の動くものに瞬時に眼球が合うように眼球制御しているんです。シュッて合っちゃう。それに対して女性は、半径3m以内の動きが緩慢なもの、動かないものを面で潰して舐めるように見て、針の先ほどの変化も見逃さない。それを何時間も続けることができるんです。眼球が向こうに行かない。
このおかげで、男女はちょっと守備範囲が違うわけですね。離れたもの、動くものに瞬時に合う三次元定型認識の男性脳は、空間全体を瞬時に把握して、距離感を計ることができます。あと、動くものに瞬時に目がいくので、危険察知の能力も高いです。女性は、赤ちゃんの顔色がちょっと変わっても見逃さない。そういう物の見方をします。昔、私が就職した35年前ぐらいは、コンピューター会社でプリント基盤の組み上げをしているのは、全員女性でした。今は、もう機械でやるんでしょうけれども。全員女性である理由があったんですよ。「ここに6時間集中できる」なんていうのは、女性脳の眼球制御じゃないと、すごいストレスがかかる。男性はできなくないんだけど、あっち動こうとする眼球を戻しながら、この作業をするので、大変だと思います。やっぱり適性はあるんですね。
冷蔵庫の扉を開けて見る場所も違います。私も経験がありますが、冷蔵庫からこれを取ってきて、と夫に頼むと「ない」と言うんですが、奥の方に入った海苔の瓶を「お前、これ3か月前に切れてるぞ」とか言って持ってくるわけです。頼んだものは目の前にあるのに、なぜ賞味期限切れの食品だけは見つけるのか、「嫌がらせだ」と思っていたんですが、物の見方が違ったんですね。
デートのときも女性を壁際に座らせて、自分は店内を見渡せる位置に座るな、と若い男性には教えています。なぜなら、店内を見渡せる位置に座ると、眼球が他の女性に行っちゃうんです。見ようと思って見てるんじゃなくて、3m外の動くものに目が行ってしまう。でも、目の前の女性からしてみたら、「自分に集中してない感じ」がして嫌なんですね。これは、自動車販売会社のショールームのスタッフにも教えます。女性のお客様に説明するとき、女性を店内が見渡せる方にしなさい、壁際に立たせなさい、と。そうしないと、そのお客様に集中している感じがしないから。好感度がどんどん下がる。
ドライブしていても喧嘩になります。「あなた、そこ左」って言ったのに、その先を左に行くから、必ず。そこ左って言ったときに、見ている場所が違うんです。言ったときに私が見てるのは40m先、彼が見てるのが60m先だったりするから。
相手のことがわからない夫婦は、最高のペア
夫婦は、一般の男女よりも解離します。惚れて発情するのは、免疫抗体の型の遺伝子が遠く離れた自分とは違う人なんです。まったく違う人です。だから、会社の女性には話が通じるが、妻には通じない、ということが起こるわけですね。特に、指示代名詞は通じない。あれ、これ、それ、あそこ。これは、ずれることになっているんです。型が違うから。どうしてそんな2人が一緒にいるのか、と思いますが、意味があるんです。これこそが、自然界の神様が私たちの脳に施したプログラミングなんです。すべてのプログラムが真逆の人を選ぶんです。この世に2つの脳がある。人生に必要な感性の演算を真っ二つに分けて持つ。常に同じ答えが出ないように作られている。脳が、です。別々の答えを出していく並列プログラムなんですが、だからいいんです。
しかもこの並列プログラムは、イラつき、ムカつき合うことで、最高のパフォーマンスを出せるようになっています。これで、もう一つの意味もわかりました。実は「ムラッ」と「イラッ」は、ほぼ同じ信号なんです、脳のなかで。つまり、「この人が好きでたまらない」っていうのと「この人イラついてたまらない」が、実は本当によく似た信号なんです。男女は互いに違うことを認識し、「愛とはわかり合えるはず」などという幻想さえ捨てれば、最強の組み合わせだ、ということです。もう今日からは、それが愛だと脳のなかを変えてください。
家に、もし理解ができないパートナーがいて、「なんで今これを言うのかな、わけわからん」とすると、おめでとうございます、です。最高のペアです。これからは「イラッは全部、愛なんだ」と思って優しい気持ちに変えて、夫婦関係をまっとうしていただければと思います。ちなみに、たとえ相手を変えても、3年もすれば同じですからね。
ということで、職場に女性がいる場合、その女性の部下、あるいは同僚、上司の脳を最大限に活かしてあげる。そのことによって組織力を上げる、気付きの力を上げる。それから新しい発想力を手にしていくということを、ぜひ心に置いていただければと思います。
今日はありがとうございました。
(文:上阪徹)
黒川伊保子くろかわいほこ
株式会社 感性リサーチ 代表取締役社長
1959年長野県生まれ、栃木県育ち。1983年奈良女子大学 理学部 物理学科卒。 ヒトと人工知能の対話研究の立場から、コミュニケーション・サイエンスの新領域を拓いた、感性研究の第一人者。脳の気分を読…
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