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読む講演会Vol.16

2019年02月01日

No.16 森田正光/ “読む講演会”クローズアップパートナー

森田正光

森田正光

気象予報士

異常気象はこの40年。温暖化は生態系を変えてしまう No.16 お天気キャスター 森田正光

1枚の天気図を前にして、3分間しゃべる訓練

No.16 森田正光

こんにちは。森田と申します。今日は異常気象と環境問題、どうなる地球温暖化というちょっと難しいテーマです。しかも、いろんな世代の人がお見えですが、わかりやすく、終わった頃には、ためになったなぁ、と思えるような話をしたいと思います。

夕方の16時前から、TBSの「Nスタ」でお天気をお届けしています。民放というのは視聴率を気にするんですね。なぜかというと、番組が商品だからです。視聴率は値段そのものなんですよ。テレビは視聴率が100%ならいくら支払いましょう、という仕組みになっているんですね。10%だと、10回放送すると100%になります。でも、20%だと5回放送すれば100%になるわけです。残りは別のコマーシャルを入れられるので、そのコマーシャルぶんも儲かる。 実際、1%違うと1000万円くらい利益が違うと言われています。売り上げではないですよ。利益です。だから、視聴率のグラフをとても気にしています。天気予報も民放で争っています。

16時前のオンエアですが、局に行くのは15時くらいです。それから、ブリーフィングをします。天気予報というのは不思議で、台風とかだと何回も見たくなるようなんです。分計というグラフを見ていると、この番組からこの番組に乗り換えた、というのがわかるんですね。天気が悪いときは、天気予報を何回も確認するわけです。これは昔と違ってきたな、と思います。

私は気象協会に入って、お天気キャスターになるために自分に課したことがありました。それは、1枚の天気図を前にして、3分間しゃべるということ。その訓練をずっとやったんですよ、毎日。どんな画面が出ても、それで3分間しゃべれるようになれば1人前だと思いました。このトレーニングを、今も伝統的にやっているところがあるようです。ちょうど初めて見る天気図がありますから、ちょっとやってみましょう。

No.16  森田正光

今日は6月26日、梅雨の真っ最中です。日本の南海上に梅雨前線の雲が停滞しています。そのはるか南、1000キロくらいのところに台風14号があります。台風14号、目がしっかりと出ていて発達中です。今はまだ台風、大きくないんですが、この台風が北に上がってくると、梅雨前線の活動が活発になって、この後、東日本から西日本の太平洋側は広い範囲で大雨になる模様です。今後の台風の情報をご注意願います。

1枚の天気図でも、いろんなことがわかる

いかがでしょう。ちなみに朝鮮半島の北側に渦を巻いた雲があります。これは寒冷渦。冷たい空気の渦巻きです。これが下りてくると、大気の状態が不安定になって、にわか雨とか突風とかが起こりやすくなります。台風のあたたかい空気と、こちらの冷たい空気、その間に梅雨前線が停滞していますが、ここだけ見ていたらダメで、北日本はこちらの北側の雲も見ないといけないんです。全体的に広く見ていく。僕らがやっているのは、ジグゾーパズルをやっているのと同じで、ピースをひとつずつ、あてがっていくんです。そして、ピースが全部なくても、全体を見ていくと、見えてくるんですね。

あと実はこの天気図、日付がありませんから、季節がわからない。なので、前線が梅雨か秋雨か、どちらかなんですが、これにはいろんな見方があるんです。西のほうまで雲が伸びていると、だいたい梅雨前線です。中国大陸のほうまで伸びている。秋雨の場合は、北のほうから下りてきているので、あまり西のほうまではっきりしない。こんなふうに、1枚の天気図でも、いろんなことがわかります。推理小説で犯人を追い詰めるような感じで、天気予報はやっていくんです。

僕は名古屋出身なんですが、気象予報士を最年少で取った男の子がいて、取材に行ったことがあります。彼はどこの大学でも受かりそうなくらいな子でしたが、変わってて、気象予報士を取ったあとは、司法試験の勉強しているという。大学に行く前に1年間か2年間、社会勉強して、それから大学に進みたい、と。今の若い人は違いますね。一度、社会を経験してから、大学に行ったほうが集中できるということですよね。愛知県で一番勉強できる子が集まる学校を出ています。将棋の藤井聡太七段みたいなものでしょうか。

そういえば、CSの囲碁将棋チャンネルで藤井七段と対談しました。僕は将棋が好きなんですが、藤井さん、お天気が好きなんです。天気図を見たり、気象庁のホームページに行って、いろいろ見るのが好きなんだそうです。興味深かったのは、一番好きなのは、雨なのでそうで。じっと静かにものを深く考えられるから、と。我々の次の次の世代ですよね。今日も会場にたくさん見えていますが、すごく賢い。これから、日本は安泰だと思います。そこにいる若い子たち、後ろにいる大人は、みんな忘れちゃうから、今日の話も覚えておいてね(笑)。

「天国と宇宙はどちらが遠いですか」という質問

私は昔、ラジオの生放送でお子さんから突然、質問が来る、子ども電話相談室をやっていたことがあります。質問に、いろんな識者が答える。「ところにより雨、といいますが、ところにより、のところはどこですか?」とか。わからなくて、「降ったところです」と答えたり(笑)。「天国と宇宙はどちらが遠いですか」とか。答えたのは、永六輔先生。それは天国が遠いに決まっている。なぜなら、宇宙は帰って来られるけど、天国は帰ってこられないから。いい答えですよね。あと、「貧乏揺すりはあるのに、金持ち揺すりはないのは、どうしてか」なんて質問も。金持ちを強請ると犯罪になるから、とか(笑)。

あるとき、雨かんむりの質問が来ました。「雪という字は雪なのに、どうして雨がくっついているんですか」と。いやこれはよく見たら、「雨ヨ」と書いてあると思ったんですけど(笑)。箒という字がありますね。雪というのは、箒ではける雨、という意味なんですって。あたりが白くなるのは、神様がやってきて、箒で雨をはいてくれた、という意味なのだ、と。そのときに、雨かんむりのいろんな字を調べました。改めて、これは素晴らしい字だなと思った字があるんですが、その字を覚えておいていただいて、本題に入りたいと思います。それは「雲」という字です。気象学の心髄ともいえるのが、雲です。この字がわかっていれば、他は何も知らなくてもいいくらいです。

空気が上に行くと雲ができる。下に行くと晴れる

雲の下の部分は、伝えるという字の右側の部分ですが、空気がもやもやもやと上に行って雲になったという、もやもやを表している。云々といったりしますね。もやもやと空気が上のほうに行ったら雲になるというのを、表した字なんです。昔の人は、空気の中に目に見えない水があるということを知らなかったわけですが、ずっと長い間、観察する中で、とにかく空気が上に行くと、雲ができるということを知ったんだと思います。いいですか、雲という字。気象学の神髄といえる字です。空気が上に行くと、雲ができるということです。雨が降る。逆に、空気が下のほうに行くと、晴れます。極端にいえば、気象学というのは、この2つしかないんです。今日は、これを頭に入れておいてください。そうすれば、気象のすべてがわかるといっていい。

そして、上昇気流というのは、スピードがすごく遅くて、1分間に数センチとか、本当にわずかしか昇っていかないんです。ですから、積乱雲とかを別にすれば、観測でなかなか見つけられないんです。そこで我々は天気図を見て、いろんなものを調べて、ここに上昇気流があるな、と探るわけです。山の天気は変わりやすいと言われますが、風が山に当たって、それがふわっと上に行くから。上に行くということは、上昇気流だから雲であり、雨になるわけです。逆に空気が下に行くと、晴れる。この2つしかない。すごい単純。大雨が降るところは、上昇気流が強められたところなんです。

そういえばこの前、中国の天津で講演したんですが、中国のPM2.5は、やっぱりすごいですね。現地時間8時の飛行機に乗って、お昼には羽田に着く予定だったんです。それが、PM2.5で高速道路が閉鎖されてしまって、見通しが200メートルとかで。乗り遅れて、オンエアに間に合わなかったんです。調子悪かったんじゃないんです。この業界に入って、健康だけが取り柄でした。今まで1週間休んだのは、インフルエンザです。1日で治ったんだけど、強制的に休まされて。7、8年前かな。病気で休んだの、それ一回だけなんですよ。

予報が間違ったら、その理由を説明すればいい

No.16 森田正光

そうそう、天気を間違ったら謝るべきなのか。僕はそうは思ってはいません。現代の天気は、スーパーコンピュータが出している。そのスーパーコンピュータよりも勝るものは何もなくて。我々がいくら経験値を言ったって、経験の時代はもうとっくに終わっているんです。自分が出したわけじゃなくて、スーパーコンピュータで、しかも最新の技術で出したわけだから、それはやむをえず、そうなっている。そんなことをいちいち謝っていたら、きりがないですね。確率的なものだから限界はあります。謝る5秒があれば、僕は裏側を説明してあげたほうがいいと思っています。そのほうが誠実だ、と。どうして予報が外れたか、それを5秒で言う。冷たい空気がいつもより早く入った、とか。

30年前は謝ったことがあります。池田弥三郎さんという亡くなられた有名な文学者がいます。若いとき、NHKラジオに出ていて、予報が外れてしまって、外れた理由を述べたんです。そうしたら池田さんが、新聞で「近頃、美しい日本語を聞いた」という出だしで文章を書いてくれて。NHKラジオの朝7時前の天気予報で、天気が前日からどういうふうに変わったかという予報が外れたことを淡々と説明してくれた、と。すごい褒めて書いてあって。あ、これだな、と思ったんです。簡単に謝るんじゃなくて、謝れば済むんじゃなくて、現象をきちんと説明することのほうが、うんと重要だ、と思って。それ以来、司会者との会話でごめんなさいと言うことがあっても、自分から進んで謝ることはないですね。なんでそうなったのか、を理解することのほうが大事ですから。

世界で一番雨が少ないところで大雨が降った

さて、お待たせしました。やっと本題です。異常気象と地球温暖化について今からご説明します。今、地球で何が起こっているのかということについて、です。異常気象という言葉がいつからできたのかというと、昭和の初めからあります。ただ、その頃は今のような稀な現象ではなくて、すごい台風が来たとか、そういう場合に異常と言っていたんですね。本当の異常気象というのは、この40年くらいに出て来たもので、しかも日本語というよりも、英語のUnusually Weatherという、いつもとちょっと違った天気だよ、というのを誰かが異常気象と訳して異常気象になった。そして、一般化していったのは90年代です。

世界で一番雨が少ないところはどこか。世界記録を持っているのは、チリのアタカマ砂漠です。1941年から10年間で0.6ミリしか降っていないという記録があります。この砂漠の中に、アントファガスタという町がありますが、そこで1991年の6月、突然、大雨が降ったんです。砂漠の町で、です。それから、ほどなくして、91年にオーストラリアで干ばつが起きました。カリフォルニアでも干ばつが起きた。世界の気象災害で一番、怖いのは、実は干ばつです。台風でもなく、大雨でもなく、干ばつが一番怖いんです。なぜかというと、食料が取れなくなり、疫病が流行るからです。

翌年、92年、今度は台湾、沖縄、フィリピンで干ばつが起きました。この沖縄の干ばつは、よく覚えています。気象協会というところを辞めて、フリーのお天気キャスターになって、当時、バラエティとかに出るようになっていたんですね。このとき、あるクイズ番組で、こんな問題が出ました。沖縄の干ばつのために、あるものがものすごく売れたんです。その売れたものは何でしょう、と。ちょうどいい機会なので、会場に聞いてみましょう。わかりますか。雨が降らないと売れるもの。中学生や、お子さんがいいかな。

日本で平成の米騒動が起きた理由は

難しかったですかね。それは、ラップなんです。サランラップでもクレラップでも、雨が降らないから、ラップをお皿の上に敷いて、食材を載せたりするわけです。ラップを敷いていれば、食器を洗わなくていい。それですごい売れたんです。でも、これ重要なことで、阪神淡路大震災のときも、ラップがこういう使われ方をしましました。ペットボトルとかも、いろんな使い方ができるんです。普段、使っているものを別の使い方をする。これは普段から、意識しておくといいですね。ポリ袋は立派なトイレになる。オムツにもなる。

そして93年、大冷夏に日本が見舞われます。平成の米騒動が起きたのは、このときです。米がまったくとれなくなってしまって、緊急輸入。平成5年。タイ米などが入ってきました。世界で、干ばつと大雨が繰り返された。何が起こっていたのかというと、東部太平洋の海水温が高かったんです。海水温が高いと、その場の空気は暖められて、上に行きます。すると、どうなるか。会場にまた聞いてみましょう。

これはわかりますね。空気が上に行くと、雨です。これがアントファガスタの大雨になったんです。そして大雨になると、上に行った空気が今度は下りてきます。空気が下りてくるとどうなるか。会場に聞いてみましょう。晴れですね。これが干ばつをもたらした。

日本付近は、干ばつになった南から、暖かい湿った空気がやってきて、それが北側の冷たい空気の上に這い上がっていって上昇気流が起きました。上昇気流は、雨ですね。ということで、大雨と冷夏になった。

赤道近くの東部太平洋の海水温が高いことを、エル・ニーニョと言います。これは、スペイン語で男の子の意味です。これが起こると、空気が次々と上がったり下がったりするので、上がったところでは大雨が降るし、下がったところでは干ばつになる。そして地球上に連鎖していく。これが異常気象の仕組みなんです。

No.16  森田正光

ここ数年の猛暑の原因は、ラ・ニーニャ。この先は……

エル・ニーニョを予測すれば、だいたい空気の流れ方がわかります。ところが、エル・ニーニョがいつ起こるか、を予測するのはなかなか難しい。どうしてかというと、エル・ニーニョは男の子だから。男の子だけに、たまたま起きると言われているんです(笑)。あれ、何かおかしいですか(笑)。

東部太平洋の海水温が高いと、空気が上に行って雨が降って、下に行って晴れになって、大雨のところと干ばつのところが、次々に入れ替わったのが、92年から93年にかけて起こったわけです。これと同じようなことが3、4年に一回くらい、繰り返されているんです。2007年に同じようなことが起こった。

海水温は、どう変化しているのか、グラフで見てみましょう。海水温が上がったところは、エル・ニーニョ。下がったところは、ラ・ニーニャと呼ばれます。これは女の子の意味です。エル・ニーニョだと日本の夏は冷夏で大雨が起こりやすく冬は暖かいという特徴があります。全部ではないですが。ラ・ニーニャだと逆に、夏は暑く、冬は寒く、極端になる。

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今後はどうなるかというと、上がり気味なんです。今まではラ・ニーニャだった。夏、暑かったのは、そのせいです。その後、どうなっているのかというと、海水温が上がっている。今度は、エル・ニーニョです。暖冬です。実際、この冬はあったかい。大きな目で見るとわかります。一番重要なのは、上昇気流なんです。これが雨を降らせる。下降気流は晴れ。これを決めているのが、海水温なんですね。

温度が上がったから、とんでもない大雨が起きた

もうひとつ、温暖化について、お話しておきましょう。世界の年平均気温を見ます。温暖化していないという人もいますが、明らかに温度が上がっています。1980年くらいから、高さが目立っている。明らかに地球は温暖化しています。100年で1度くらい上がっている。東京だけでいうと、3度くらい上がっている。東京は突出して高い。この東京だけ気温が高いのを、東京温度(東京音頭)と言います。冗談です(笑)。でも、本当に温度が上がっているんです。

温度が上がると水蒸気の量が増えます。海水温が1度高いと7%くらい増える。気温が高くなると、大雨が降りやすくなる。実際、1時間降水量50ミリ以上の年間観測回数は、右肩上がりになっている。

集中豪雨はどうして起こるか。ちょっとビデオで説明しましょう。線状降水帯って、聞いたことありますよね。でも、基本はさっき言った上昇気流は雨、下降気流は晴れ、ということなんですよ。次々そういうことが起こったのが、線状降水帯です。日本では、2018年にも起きました。平成30年7月豪雨です。西日本豪雨とも呼ばれています。台風7号が湿った空気を持ってきて、そのあと梅雨前線上に大雨が降りました。高知県の魚梁瀬(やなせ)では、1852ミリ。他も、1000ミリ超えがたくさんある。この豪雨は、いろんなところで1000ミリ以上降ったんです。

雨の量の総和を見ると、20万8000ミリ。通常の豪雨は3万から5万です。これでも年に一度あるかないか。平成29年の7月の九州北部豪雨が9万。平成27年9月の関東・東北豪雨が13万。平成26年の8月豪雨が17万。ですから、20万などというのは、今まで見たことがないような雨量の合計なんです。50年から100年に一度の豪雨。そういう雨が降った。近年、そういう大雨が現れている。これは気象だけの問題ではなくて、気候が大きい。全体の地球のシステムが、ひょっとしたら、温度が上がって、大雨が降りやすくなっているようにシフトしているんじゃないか。これからこういうことが起こったら、経済的損失も広がる恐れがあります。

閉じ込められた二酸化炭素を一気に輩出している今

No.16  森田正光

どうしてこんなことになったのか。温暖化の仕組みを説明しましょう。温室効果ガスCO2、二酸化炭素は、今から数千万年前、1億年前、2億年前にはものすごくたくさん地球上にあったんですよ。今より10倍以上あって、気温も10度以上高かったんです。植物にはCO2は食べ物ですから、植物はたくさん生えます。そうすると、その植物を食べる動物が大きくなる。さらに、その動物を食べる動物も大きくなって、やがて恐竜のような大きな動物もできたんですね。ちなみに恐竜というのは、滅びたか、生き延びているか。会場に聞いてみましょう。どうですか、知っていますか。

答えは、大きな恐竜は確かにいませんが、恐竜の子孫はいるんです。鳥です。最近の進化論の本を読むと恐竜が滅びたという説は間違いだと言っていいと思います。鳥になったんです。恐竜も変化しながら、寒冷化を生き延びて、鳥に進化した、というのが有力だそうです。そんなふうにして、恐竜がいた時代は温度が高くなり、植物や生き物が土の中で二酸化炭素を蓄えた。そしてそのまま土の中で変化したものを、植物の場合は石炭といいます。また、土の中でプランクトンみたいな動物が変化したのが石油です。化石燃料とはよく言ったもので、昔はたくさんあった二酸化炭素をたくさん自分の身体の中に閉じ込めて、土の中で変化したのが、石炭や石油なんです。

それを今、取り出して使っているというのは、数千万年前、数億年前の二酸化炭素を急激に土から地球上に出しているということです。それも一気に。だから、温度も急上昇している。これが温暖化なんです。

温暖化のスピードに、植物がついていけない

では、温暖化はどのくらいのスピードで進むのか。今、100年に1度と言いましたが、100年後には2度から3度上がる、という説が有力です。東京の年平均気温は15.9度くらいですが、3度上昇すると19度。鹿児島の平均気温が19度くらいなので、東京が鹿児島の温度になるということです。東京と鹿児島の緯度差を考えると南北の距離は約460キロ。1年に4.6キロずつ我々は南に行く、という計算になります。今、このままの気温がいいとなると、4.6キロずつ北に逃げればいいわけですね、原理的には。では、4.6キロ移動するには、どのくらいの時間がかかるか。人が歩くと1時間9分。チーターで2〜3分。ウサギは4分。カメは9時間。カタツムリは750時間ですが、1年かければ、なんとか行ける。頑張れば、動物は温暖化のスピードについていけます。

しかし、植物はそういうわけにはいかない。自分が実を付け、動物が実を食べて、フンに入ったタネが伸びて、それが大きくなる。そうやって生育範囲を広げるので、時間がかかるんです。だいたい10年、20年かかるのは当たり前で、中には50年から100年かかるものもある。何が言いたいのか、というと、1年に4.6キロずつ気候が変わっていくわけです。そうすると、動物は1年に4.6キロずつの変化に追いつけるけれど、植物は枯れちゃうということなんです。実はこの地球上には、500万から3000万種類くらいの生き物がいます。そのほとんどは、バクテリアや昆虫、微生物です。それがどこにいるのかというと、木の根っことかにいるんです。

植物が滅びるということは、そこにいる微生物も滅びて、その微生物をエサにしている昆虫がダメになって、それをエサにする鳥がダメになって、爬虫類がダメになって……とこうやって、生態系全体が崩れていくということなんです。だから、温暖化で、温かくていいな、なんて思っていると大間違いで、生態系にとっては大変なことなんです。変わる寸前のことを、シンギュラリティと言います。モノが落ちるとき、ギリギリまで行って、そこからごろっと落ちますよね。それはまだ今は来てないけど、あるところに戻れない一点があるのだそうです。それが、おそらく2050年とかでしょうか。そういう時代が来ると、海流が変わったりして、とんでもない、予測できないことが起こる。そこで、温暖化については食い止めよう、というのが、世界の動きなんです。

もしかすると、100年後には日本も大変な温度になっているかもしれない。ひょっとすると40度を超えるのが普通になるかもしれない。大雨の災害も怖いですが、熱さや干ばつも怖い。災害級の熱さになっていくかもしれない。結局、化石燃料の使用を抑えるのが一番いいんです。なかなか難しいけれど、それが問われているんです。

(文:上阪徹)

森田正光

森田正光

森田正光もりたまさみつ

気象予報士

1950年名古屋市生まれ。財団法人日本気象協会を経て、1992年初のフリーお天気キャスターとなる。同年、民間の気象会社 株式会社ウェザーマップを設立。親しみやすいキャラクターと個性的な気象解説で人気を…

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